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【無料記事】 TV Bros.総集編特大号 「ブロスは何を取り上げてきたのか?」 編集部員・木下拓海セレクト

※この記事は現在発売中の『TV Bros.6月号 総集編特大号』で掲載している記事を転載したものです。

TVBros.編集部員                                                                  木下拓海 セレクト 

’05年より在籍。フリーランスの枠を超え、フリーターとしても歌舞伎町のど深夜カレー屋アルバイトで活躍。「World Bros.」でコラムも執筆する。


ザ・対決!! カヒミ・カリィvsコーネリアス

(1996年6月8日号)

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激辛カレーやタバスコ、カライーカなどを食べて、カヒミ・カリィが「カリィー」か「カリィ~くない」か言うだけの企画。この圧倒的くだらなさに触発された私は後日、「村上春樹をモト冬樹に読ませて感想を聞く」という企画をやった。
 このページと初めて出会ったのは、何かの調べごとのために過去のブロスを漁っていたときのことだった。これを見て「こういうことだよな~」と思ったのを覚えている。
 表の世界ではまったく別の顔をしているが、ブロスを開くとそれとは対極のめちゃくちゃなことをしている。そうするとブロスに親近感が生まれる。親近感とは“読者である”というアイデンティティー。雑誌の売上にとって一番大切なポイントだ。
 その意味、’90年代のブロスは本当に奇跡の生態系だったと言えるだろう。編集の友達だったあいつがビッグになっていって、誌面を賑わしてくれる存在になる。読者からしたら、友達の友達みたいな感覚だ。そういう循環の中に一度は身を置いてみたかったなと思うし、いつしかただのディスプレイのようになってしまったブロスに寂しさも、責任も感じる。
 雑誌作りとは、すなわちコミュニティーを作ることと同義なのだと思う。特定のファンを取り込むことだけを考えるのではなく、流入してきた人口を自分の村に定着させねばならない。それには「うちの雑誌は、この広い世の中をこの角度から眺める」という村の哲学が必要だ。雑誌の「誌」はごんべんに志。雑だが一本の志が通っている。
 そんな「くだらない」という極太の志を、このページは私に知らしめてくれた。自分も次のカヒミに「カリィー」と言わせたいと思って、以降、数々の企画を担当したが、ついぞこのギャップを超えるものはできなかったように思う。

特集「トリプルレッドカード」

(2015年3月21日号)

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 これは確か、ブロスが今の大きな判型になる直前の号に掲載されたもの。すなわち、昔のサイズの一番最後の号ということになる。
 なぜ判型を大きくしたのか? 簡単に言うと、値段を上げたかったのがその理由だ。売上が落ちて、従来の値段では到底やっていけなくなった。でもそのまま値段を上げるのは忍びないということで、判型を大きくし、しかもカラーページを増やしたというわけだ。
 そんな苦しい状況にあってこんな特集をやらせていただいた、当時の編集長には感謝している。自分が手がけたものの中では、最後のブロスらしい誌面と言えるものだっただろう。これから先は、もはやそんなわがままを受け入れてくれる余地は、ブロスからなくなってしまったように思える。
 さて、この「トリプルレッドカード」は大阪の風俗、中でも地雷店という、普通の風俗なら面接で確実に落とされる子たちをあえて採用しているお店だ。地雷店の存在自体は前から知ってはいたのだが、ネットで初めてこの店を見たときは震撼した。例えば「アルミ銀次郎」(30)という、顔も身体も全身アルミホイル巻きの嬢(年齢公表の意味なし)が在籍しているなど、あまりに独特な店構えなのだ。早速、岩井志麻子先生に通報したところ、想像以上に食いついてきて、一緒に取材に行こう!と0・5秒で話がついた。
 大阪へ向かう道中、絶対に志麻子先生は「で、どの子にする?」と私に振ってくるだろうと思っていたし、事実そうなった。そこで私はいろいろいたポケモンたちの中で、一番会話ができなそうな飛び切りのキチ●イをチョイスしてみた。
 その際に、えいや! と自分を鼓舞してくれたのは沖縄のソープランドでの実体験である。「顔だけ見ていけ」と勧誘してくるボーイに対して私は「目の前で顔を見せられたらチェンジと言えなくなる」と主張するも、「お金を払うのはお客さんなんだから、好きなだけチェンジしていい」と説得され、結果9連続で私はチェンジをした。すると10人目でボーイが現れ、「お客さんチェンジしすぎ」と言われた。嬢はこれ以上いないという。無慈悲なチェンジマンである私は、この選抜ナインの中から選ぶしかなくなってしまった。
 2周目に入った。こっちも必死だ。目をカッと見開いて、その嬢を選ぶ理由を何でもいいから粗探しする。するとデブはぽっちゃりに、出っ歯はリスのように見えてくる。そして自分はハッとする。1周目は減点評価であったのが、2周目では加点評価になっている。つまり限られた人生において本当に大切なのは「いいとこ探し」ということなのだ。
 ちょいちょいプレイ中に「stand up」とか「turn around」と英語を挟んでくる、早見優のような真っ黒い沖縄アザラシを、その日選べた自分。だから自信はあった。志麻子先生と自分の目の前に現れた110kgの嬢・源氏名「ラスボス」に対し、その豊満ボディはウォーターベッド、歯が溶けて無いのは新触感、話が通じないのは異文化交流と解釈し、山車のような彼女を率いてラブホテルへと向かうこととなった。
 誌面においては、嬢たちのインタビューと、別ページで最終的にどの嬢にしたのかをレポート付きで答え合わせするという構成にした。原稿チェックの際に、トリプルレッドカードの“校長”さんから、「この誌面考えたの、木下さんですか?」と言われたことが、ささやかな誇りだ。

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ロコピピ「地震が起きれば、ACが謝る」特集

(2011年4月2日号)

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 ロコピピの枠でたった1ページでの掲載だったので、厳密にはこれは特集とは言えないかもしれないが、昨今のコロナウイルス騒動がなんだか当時と似ているなと思ったのでチョイス。
 これは、東日本大震災が発生してから2ちゃんねるに次々と立ったスレッドを時系列でチャートにしたものだ。あの日からしばらくの間、私はずっと2ちゃんねるにへばりついて事態の変化を注視していた。そして、ひとつずつスレッドを並べていけば、ある種、貴重な記録になり得るのではないかと思った。もちろん当時と今では事態の進展スピードが違うが、買占めに至る流れなど、今学べることも大きいように思える。
 ちなみに後日、東北の避難所にいる読者から「ブロスは電気がいらないので、暇つぶしとして大いに助かってます」というお便りをもらったときは、雑誌編集者として何か光明を見つけたかのような気持ちになった。

(了)

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