2019.6.2.  わんこそば的情報環境について

パンス どうも、TVODです。最近しんどい話題が多いですね。いろいろ考えてちょっとドンヨリしているんだけど。

コメカ しんどいというか、即座に噛み砕けない、消費してはいけない話題が多いね。なんだけど、インターネット上のコミュニケーションではそれらがバンバン消費され続けている。もう大分前から続いてる状況ではあるんだけど、さすがに疲弊している人が多いんじゃないかと思う。5月28日に起きた、川崎の殺傷事件についてもそう。

パンス 朝起きたら報道が流れてて、なんてことだ……、と思ってるうちに、いろいろな論評が出てきてさ。どうしよもないデマツイートみたいなのを除いては、概ね納得できるんだけれども、犯人がどういう人なのか分からない時点で、なぜこんなに噴出するのか、不思議だった。そこで思い出したのは2008年の秋葉原無差別殺傷事件で、あのときはちょうど携帯のカメラ機能が普及してて、みんなが現場を撮影してアップしているという状況に衝撃を受けたんだよね。たしか始めたばかりのTwitterで知ったんだった。「撮ってアップする」行為から「語ってリツイートされる」行為に変化している。いずれにしろ、即時性が高まり過ぎている。

コメカ 何かが起きると、予断と推測で語られる言葉がSNS上にバーッと噴出するっていう。みんな言ってることだけど、出来事や事件に対する人々の向き合い方が、大喜利合戦みたいになっちゃってるんだよな。感情的なリアクションもあふれかえってるし、メタレベルに立って「批評」的な話をしたがる人もとても多い。ぼくらだってそうだしな。Twitter的なSNSのコミュニケーションに巻き込まれている場合、即時的な反応をしない方が難しい。川崎の事件にしても、詳細がまだ何も分からない時点から、個々のストーリーテリングが一気に始まってしまう。

パンス わんこそばみたいに次々と議題が出てきて、みんなそれぞれのスタンスからの表明をしないといけなくなっちゃうんだよね。2016年くらいから、日刊ペースでそれが起こるようになってきてる。それにヒーヒー言いながら対応してたんだけど、今回はもう、事件の悲惨さもあり、あれ、もしかしてこういう状況がずっと繰り返されるんだろうか、ちょっと立ち止まらないといけないかも……。って思っちゃったんだよね。
でもこういう反応をすると、そういう見方がメタレベルな態度なんじゃないかって批判されたりするんだよね。なのであらかじめ答えておくと、いやメタっていうか疲れてるんですよ、と言いたい。つねに隊列に並んだり、前線でガンガンぶっ放したりすることがどうも僕にはできない。でもできる人はどんどんやったらいいと思うけど。

コメカ 津田大介さんが「ツイッターで「文脈をよんでほしい」と愚痴ることの無意味さったらないよな。元々が文脈を分断して拡散することで新しいメディアとしての力を得た(ある時期まではそれがメリットとして明らかに機能していた)ツールなんだから」ってツイートしてたけど、まあまさにそういう性質が「わんこそば」的な状況を招いてるわけよね。Twitter的な環境の中にいる限り、あらゆる情報を断片として次々消費することから逃れられない。現実に起きてるいろんな出来事が、各自が語りたいストーリーを構成するための断片になっちゃうところがヤバいんだよな。「前線でガンガンぶっ放す」ってのがさ、状況に対して何がしか客観的分析を加えるってことじゃなくて、瞬間芸的に情報を再構成して勝手な物語を語るってことにしか大概なってないわけでしょ(笑)。

パンス 前線という単語をつかったのは、いまデイヴィッド・パトリカラコス『140文字の戦争』(早川書房)という本を読んでて、その影響あるかな。ここ10年程のウクライナやシリアでは、現地からの告発やフェイクニュースが拡散することで戦争/内戦における局面を変えたりとか、いわば兵器としてTwitterやFBの書き込みが機能しているという指摘をしている。「言葉」と「ナラティブ」で「現実を作り直している」。感情に訴えかける「語り」が兵器に成り得ると。これは別段戦場じゃなくても、いま日本で起こってることにも通じているんじゃないかと。
まあとにかく、とくにTwitterはよろしくない環境だと思うよ。発言の妥当性やイデオロギーがどうのこうのというより、単純に強い奴しか生き残れない状態になってきてると思う。そもそもこんなにTwitter人気あるのも日本くらいだし!

コメカ 今ある状況は、物語をみんなで共有しよう、みたいなノリですらなくて、各自が好き勝手に語ることによってそれぞれに自分自身にとっての現実を再構成してる…みたいな感じなのかなあ。実際、プロパガンダを「読む/聞く」だけじゃなくて、自ら世界観を「語る」っていうプロセスが、かつてよりも馴染みのあるものになってるからな、ネットやSNSの普及以降は。他人の「語り方」に影響を及ぼすような感染力を持つキャラクターが、Twitterみたいなメディアでは力を持ちやすいってのもすごくある気がするしね。…で、今週はそろそろお時間ということで。じゃあパンス君から、今週のおススメ曲の方を。

パンス 今日の話題はぜひ引き続き議論していきたいね! 僕もまだまだ考えてく。でおススメ曲は……YUKIKA「NEON」です。

韓国で活動している日本人女優が、シティポップ風の曲を韓国語で歌う、という曲。時代性も地域性も融解してる状況が面白い。インタビューを読んだら、「“韓国と日本を行ったり来たり”、“時間を行ったり来たり”というのが私のコンセプト」って言ってて、それ僕がいま考えてることと同じじゃ〜! と思って、完全にファンになりました(笑)。パーッと日本を飛び出していく感じが清々しくてとても良い記事なんで読んでくれ〜。

コメカ ほいじゃぼくの方、ZOC「family name」

大森靖子を「共犯者」として結成されたアイドルグループの、初めてのCDリリース楽曲。ぼくは大森靖子という人は「自分の意志で自分自身を書き換えろ」というメッセージを、自身の表現を通して発し続けていると解釈しているんだけど、このグループはそれをより実践的に、他者と共に展開していくものになるんじゃないかと思っている。「family name」という動かしがたい「呪い」に抗うことを鼓舞しているんだけど、それだけじゃなくて、自分自身の意志で書き換えた新しい「名前」を持つ個人同士の共闘可能性を、このグループが歌っている姿には感じるんだよね。
というわけで、今週はこのへんで。また来週!

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