2019 J1第16節 ガンバ大阪vs湘南ベルマーレ レビュー

 みなさんご無沙汰しておりますちくわです。
 およそ一か月ぶりぐらいの投稿になりますでしょうか。最近はプライベートが忙しく試合を観る時間はあるもののレビューを書く時間がなかなか確保できておりませんでした(レビューはプライベートではないかのような物言い)。楽しみにしていただいていた皆様、申し訳ありません。
 今回のレビューも賞味期限ギリギリではありますが、今後もぼちぼち書いていきます。ゆるりとお付き合いいただければと思います。

 閑話休題。

 最後にレビューを書いたセレッソとの大阪ダービーでの勝利以降、3-5-2のフォーメーションに可能性を見出した宮本監督。続く札幌・鹿島・磐田と同じフォーメーションを持ち込んだものの、三戦とも引き分け、と結果だけを見ればなかなか煮え切らない時間が続いていました。

 ただ、試合内容を振り返ってみると、配置優位を見出せず終始押し込まれカウンターに勝機を求めた札幌戦、執拗なSB-CB間の攻略から見事な先制点を挙げるも相手の変更に対応できず後半は耐え忍んだ鹿島戦、相手を押し込んで鹿島戦と同じエリアの攻略から決定機を作りつつも決めきれなかった磐田戦と、対戦相手とのパワーバランスはあったとはいえ、試合が進むごとに着実な改善もみられており「あとは結果」という状況だったのではないでしょうか。

 引き分けとは面白いもので、仮に3試合続いたとすると次の試合が勝ちならば「4試合負けなし」ですし、負けならば「4試合勝ちなし」にもなる、続く試合の結果でそれまでのイメージが上書きされてしまう性質を持っています。さてガンバはどちらに転がるか……という状況でしたが、今節は食野のドラマチックな決勝ゴールで勝利。当然、前段の振り返りも結果を知った上で書いているわけで、「負けなし」のイメージが上書きされたことがよくわかる例になっていますね。笑

 まあバイアスを抜きにしても、ここ数試合の積み上げが感じられる良いゲームだったと思いますが、未だ積み残している課題もあり。改めて振り返っていきましょう。

スタメン

 ガンバは引き続きの3-5-2。後ろの3枚はほぼ固定ですが、それより前のメンバーは定まっていない状況です。前節はウィジョ+食野というスタートでしたが、今節はアデ+ウィジョの助っ人2トップ。出場停止の倉田に代わってはウイングバックを務めていた福田がインサイドハーフとして起用されています。そしてルヴァンカップでゴールを決めた中村と田中達也がそれぞれスタメンで起用されています。

 一方の湘南もシステムはおなじみの3-4-2-1ですが、杉岡をコパに送っており、また梅崎や菊地などの主力を(恐らく)怪我で欠くなど、選手起用にはなかなか苦労している印象を受けます。

画竜点睛を欠くガンバの設計図

  キックオフはキーパーまで戻して勢いよく蹴ってきた湘南。高さに強みのあるワントップの山崎を左に流して競り合いに参加させます。山崎に蹴ってセカンドボールを狙う、という形はこの試合何度も見られました。

 試合開始直後は湘南の1トップ2シャドーが高い位置から勢いよくプレッシングをかけてきます。ここで湘南とガンバのフォーメーションのかみ合わせを確認してみましょう。ガンバの3バックに対して、湘南の1トップ2シャドーが完全にかみ合うことが分かります。序盤はこの1トップ2シャドーのプレッシングをどうかいくぐるかがガンバの課題になりました。

 試合が徐々に落ち着いてくると、ガンバは湘南の2シャドーを狙ってビルドアップの形を作りにかかります。10分前後から、矢島が三浦の近くまで降り、両CBを大きく開かせるような形に変化します。

 これにより、湘南の2シャドーの「ガンバの両CBへプレッシングをかける」という基準に迷いがおきます。湘南のウイングバックはガンバのウイングバックにピン止めされて動けない状況なので、開いたCBにアプローチに出られるのは湘南の2シャドーだけです。かといって、開いたCBを追いすぎると中央が空いてしまい、インサイドハーフやその奥の2トップへの縦パスのコースを空けてしまうことになります。

 序盤のガンバはこの二択を湘南の両シャドーに迫りながら、真ん中にパスコースが見えれば縦に、サイドについていくのが遅いと判断すればサイドに回す後出しジャンケンで効率よくボールの前進を図っていきました。ガンバのファーストシュートは、開いた高尾をチェックする動きを見せた武富の脇に三浦が縦パスを通したところが起点になっています。

 こうした状況をみて、20分を過ぎたあたりから湘南がシャドーを両サイドに下ろした5-4-1に変化します。シャドーは外に張ったCBのプレスを捨てて中央にブロックを敷き、前からプレスをかけて高い位置で奪うのではなく、自陣に引き込んで奪ってカウンター、という形を狙ってきました。

 その形をいち早くつかみ、ガンバに変化をもたらしたのが右CBの高尾でした。湘南のシャドーが前からこないと見るや一気に前線近くまでポジションを移し、局所的な2対1を作って田中達也にクロスを打たせるなど、湘南の形を見ながら賢くポジションを取っていた印象です。

 ただ、フリーでクロスを打てる一方で、クロスを打った先の整備はできていない状況のようでした。このシーンでは、クロスに3人が飛び込んでいましたが3人ともベクトルが同じで湘南としては守りやすかったと思います。誰かひとりがファーに流れるとか、マイナスに流れるとか、フリーの選手を作ろうとする意図が欲しかったところです。

個人の成長がスカッドの成長です

 高尾の賢い立ち回りもあってサイドの循環はうまくいっていたガンバですが、中央については優位に立てない状況が続いていました。特にこの日倉田に代わって左インサイドハーフで起用されていた福田はなかなかゲームになじめません。前節まではウイングバックの位置で果敢な突破を見せていたので宮本監督はインサイドハーフでも同じように前向きにボールを運んでいくことを望んでいたと思いますが、受ける位置が悪かったり、受けた後のプレー判断が遅かったりでなかなか前を向けません。

 そんな福田を見かねてかウィジョが助けに降りてきます。そうすることでボールの循環は楽になるのですが、降りるのはウィジョひとりの判断でありウィジョが明けたスペースに誰かが入るような設計になっていないため、ゴールを脅かす形には繋がりません。

 ウィジョが降りてくるたび、心の中に突然ゲイバーのママが現れて「ダメよウィジョ……。"漢"には自分で越えなきゃならない壁ってものがあるのよ……」って薄暗い照明をバックに説教を始めるシチュエーションが浮かんでくるので困ってました。

 福田がなんとかあそこで解を見つけることで、チームにとっても彼自身にとってもブレイクスルーが生まれたように思うのですが、残念ながら早い時間にカードをもらってしまったこともあり彼の出番は45分で終了。ママの説教は実りませんでした。

 中盤の争いを制することで湘南は時間が過ぎるにつれボールを持てるようになってきます。アデ・ウィジョの2トップはボール非保持の局面に回るとほとんど守備のタスクをやらなくなる(させなくなる?)ので、余った3バックの誰かが悠々とボールを持ちあがることができます。そこを起点に左右にノープレッシャーでボールを展開できた湘南。

 ガンバの右サイドはプレッシングもマークの受け渡しも連動していて湘南もなかなか前進できなかったのですが、左サイドは福田と中村がシンプルなローテーションに後手を踏みまくってしまったため再三突破からのクロスを許してしまいます。しかし相手のクロスの質にも助けられ得点までは至らず、前半は0-0での折り返しとなりました。

獅子奮迅の活躍をみせる矢島

 ガンバのキックオフでスタートした後半。後方にもどしてロングボールをウィジョ・中村の待つ左サイドに蹴り込みます。「キックオフ⇒左サイドに流れたウィジョに蹴り込む」というのはガンバのキックオフではおなじみですが、ボール保持にこだわりがあるっぽいのにキックオフは蹴っ飛ばすのは何故なのかあまりよくわかっていません。

 後半は福田に代わってヤットを投入したガンバ。ヤットはアンカーに入り、インサイドハーフの位置に矢島が入ります。前半はアンカーの位置でゲームの組み立てを担っていた矢島ですが、そのタスクをヤットに任せて前に出ると獅子奮迅の活躍を見せます。

 この位置に入った矢島はとにかくプレーの判断を間違いません。
 ボールを持っている時には素早く前を向けるターンのうまさ・アジリティの高さを存分に発揮してボールを確保し、前にスペースを見つければ運び、フリーの味方を捉えれば効果的なパスを配球していました。また、湘南の中盤を引っ張りながら前線に走り込むことで相手のブロックを動かしてスペースを作るなど、ボールを持っていない時でもフリーランを何度も繰り返して湘南の中盤を惑わせていました。
 さらに機を見た攻め上がりでシュートポイントにも顔を出しており、一体一人で何役をこなせば気が済むんだ……といった様相でした。

  もしかすると前半の福田の動きを後ろから見ていて、自分だったらこう動くのにな……というプレーイメージが蓄積されていたこともあるかもしれません。逆に言えば、福田からすると後半の矢島のプレーは大いに刺激になったのではないでしょうか。

宮本監督の詰将棋

 こうした矢島の立ち回りで恩恵を受けたのがヤットです。敵陣においてフリーでボールを受けられるので、湘南ディフェンスの裏に精度の高いワンタッチパスを次々と配球していきます。

 後半の早い時間帯ではラインの高さを保とうとしていた湘南ディフェンス陣ですが、こうも何度も裏の選択肢を見せられてしまうとラインを下げざるを得ません。一方で、パスの出どころをつかまなければ問題は解消しないため、シャドーは前からつぶしにかかってきます。そうすると中盤にスペースができボールを入れやすくなります。

 60分あたりからのガンバはこのバイタルエリアにボールを入れたところから大外に展開し、ニアゾーンに飛び込んだ田中達也からクロス、という形を何度も繰り返していました。惜しむらくはやはりクロスの精度と中の設計という部分。効果的なクロスは蹴れるものの中に合わない、というシーンが多く、ゴールにはつながりませんでした。

 流石の湘南も繰り返しサイドを攻略されたことから前からいくことをあきらめ、自陣で構えて勝ち点1を取りに行くことを狙っているようでした。そこに投入されたのが食野です。

 相手がラインを下げて引きこもったということは、ミドルシュートを打てるポイントが増えるということ。シュートセンスのある食野の投入は理にかなった采配だったと思います。

 詰将棋のようにじわじわと湘南を責め立てるガンバ。終盤になるにつれ選手の足も止まってきますが、最後はやらせない!といった趣の湘南。このまま0-0で終了か……と思われたタイミングで均衡を崩したのが、その食野。対面の選手を剥がしながらバイタルエリアに切り込み右脚一閃。わずかに空いたシュートコースを見逃しませんでした。

 試合は1-0でガンバの勝利。これで「5試合負けなし」となりました。

まとめ

 ハイライトだけを見れば「個の力」と表現されるような決勝点ですが、食野が切り込んだバイタルエリアの空洞はこれまで積み重ねてきた攻撃によってチームで作ってきたもの。「画竜点睛を欠く」とガンバの攻撃を表現しましたが、食野のすばらしいシュート技術によってなんとか目をうがつことができました。

 大阪ダービーでの勝利以降の5試合で勝ち点9を積み上げましたが、単純にその数字だけでなく、プロセスにおいてもポジティブな経過をたどっていると思います。
 高尾や矢島、後半から入ったヤットや食野のように、新たなガンバのサッカーに適応しタスクを理解して立ち回れる選手が評価され、健全な競争が起きていることが感じられる点。チームとして・ゲームとして取り組むべき課題が明確であり、何を解決すれば改善していくのかを共有できている点。個々の振る舞いを見ても、宮本監督の采配を見ても、これらのポジティブなプロセスの経過を感じ取ることができているのは喜ばしいことだと思います。

 次節は未だ勝利がない(とはいえ負けもない)アルウィンでの松本戦です。湘南戦でつかんだ手ごたえと課題を活かしてエキサイティングなゲームをやってくれることを期待します!

その他、気になったあれこれ

・宇佐美復帰!
 自分のアイドルである選手が復帰することは素直に嬉しいです。チーム的にも、いまいち乗り切れていないガンバの2トップに喝を入れる補強になると思います。
 一方で、今のサッカーに宇佐美が適応できるかどうかだったり、宇佐美に合わせてサッカーを変えることで今の健全な競争が失われないかどうかだったりはやや心配。
 出場できるのは7/20の名古屋戦から。宮本監督のやりたいサッカーを理解する時間はたっぷり残っていると思うので、乗っかった上でまた輝いてほしいと思います!!!

ちくわ(@ckwisb

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?