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「"遅い"ガンバ」2023 J1 第1節 柏レイソル×ガンバ大阪 レビュー

 はい。シーズン始まりました。今年もよろしくです。苦手な開幕戦×苦手な日立台でポヤトスガンバの厳しい船出を予想していましたが、私の心配と裏腹にガンバはアディショナルタイムまで優勢に試合を進めていました。

 最後の最後でPKを与えてしまい2-2で悔しい引き分け。ただ、90分通して観るとチームががらっと変わったことが分かり、今後に期待が持てる開幕戦となりました。どのあたりが変わったのかにも注目しながら試合をひも解いていきたいと思います。


スタメン

 柏は前週に開催されたちばぎんカップと全く同じ組み合わせ。新加入が実に5人。昨シーズンまでは3バックのイメージが強い柏ですが、今シーズンから4バックにチャレンジしているとのこと。

 ガンバはジェバリこそ怪我で不在でしたが、杉山・半田はスタメン、江川・ネタラヴィはベンチ入りと、こちらも今冬加入新戦力への期待が伺えるラインナップとなっています。そして何より注目したいのがGK。3年のレンタルを経て、ついに絶対的守護神・東口を押しのけ、谷が開幕スタメンに名乗りを上げました。ついに来たか~。熱い!


"早い"レイソル、"遅い"ガンバ

 柏もガンバも同じ4-3-3を採用していましたが、コンセプトは似て非なる印象でした。一言でまとめれば柏は"早い"、ガンバは"遅い"

 ガンバの保持で落ち着くシーンが多かったこのゲーム。柏はまず細谷と仙頭がダワンを監視→サイドにボールが流れたタイミングでマンマークの意識を強め、同サイドに封鎖して奪う守備を指向していました。特に前半の前半は、ギョンウォンから黒川へのパスがスイッチになり、黒川のところで捕まるシーンが多かったですね。

 CBとGKでボールを回しているうちはあまり柏も詰めてこなかったので、ガンバはバックパスを絡めて左右に揺さぶりながらタイミングを見てCFやIHのポストプレーを使った前進にも取り組んでいました。ただ、当てて落とすタイミングでパスがズレたりキープできなかったりで、連携面、コンディション面でまだまだな印象を受けました。

 一方の柏。同じように4-3-3の形で前進を図りますが、あまり後ろに戻すことなく、早いタイミングでDFラインの裏を突きにいく動きが多かったです。斜めに抜けるパスでCBを背走させながら深い位置で起点を作りにきていました。

 IH、前線が降りてゆっくり前進するガンバと、IH、前線が裏を突いてすばやく前進する柏。同じ4-3-3でも対照的なゲームプランを感じましたが、前半に関して言えばうまくいっているのは柏のほうだったと言えると思います。違いになっていたのは恐らく守備の部分。

 柏は仙頭がダワンの後ろにポジションを取り、細谷と二人で前後で挟み込む形(4-2-3-1)。ガンバは宇佐美が前線に残って2人で背中で消す形(4-4-2)。常にダワンを視界に捉えている柏と違ってガンバの守り方ではどうしてもアンカーが消し切れないシーンが出てきます。アンカーを消し切れないということは、相手の攻撃エリアを一方のサイドに限定できないということ。相手の選択肢を絞れていない状況では、後追いの守備になりがちです。はめ込めている柏とそうでないガンバという形で、柏の方が感じるプレッシャーが少なかったはずです。シュートの数もエリアへの侵入も柏の方が多かったと思います。


 ガンバの対策は自分たちの保持の時間を伸ばそうとするところからでした。「ダワンが消される」「サイドで詰まらされる」という2つの課題に対して、右サイドでは半田が内側のレーンを取りに行ってSHを引っ張り、その裏に居るWGに長いパスを届けて前進するパターンや、プレッシャーの少ない三浦が運んでプレッシャーを引き受けながら空いた選手を使うパターンなど少しずつ解法を見出していました。

 逆に左サイドはなかなか改善の糸口が見つけられていませんでしたが、35分ごろ、プレーが切れた際にポヤトス監督が宇佐美を呼び出し助言。直後に宇佐美が左サイドに張り出し、食野とポジションを入れ替えて食野に内側のスペースを使わせるシーンがありました。マンマークで捕まえる意識の強い柏に対して人を入れ替えてズレを作る狙いがあったと見られます。

 漫然と時間を過ごすのではなく、相手を見て色々なプレーを試しながら解決策を探っていく。そんなガンバはここ数年見ていなかったので、チームが変わったな……!と感じた瞬間でした。

 しかし先制したのは柏。前述の通り柏の狙いである早いタイミングで裏に走った選手を使う形からでした。裏に抜けた細谷のクロスに対する山本のクリアが甘く、ダイレクトで片山に叩かれ失点。

 ガンバから見ればエリア内に人は足りていたので何とかしたかったところですが、ここは片山を褒めたいです。逆足で細谷に素晴らしいパスを出し、そのままプレーを止めずに中央に走り込んでアウトサイドで冷静にコースを突いたシュート。流石元FW。谷にとってもノーチャンスでした。その後も勢いづく柏に押し込まれますが1点ビハインドのまま前半終了。


チームとしての成長が見えた後半

 しかし後半のガンバは49分、54分と立て続けに得点し逆転に成功。何か特別な修正をしたというより、チームの中で使う「時間とスペース」を改めて共有できたことで結果的にバランスが良くなった、という印象を受けます。

 同点弾は三浦がIHに落としたところからですが、山本悠樹が高嶺を誘い出しながら受けたことで中央が空く→ダワンがそのスペースで受ける→山田康太が宇佐美のマークを捨ててカバーに出る→宇佐美がフリーで受ける→柏DFは誰がチェックにいくのかあいまいになりスルスル抜かれる→ゴール。

 逆転弾は柏のブロックを揺さぶりながらライン間に入った食野がダイレクトで落とす→フリーで引き取った黒川が加速してマイナスへクロス→立田が辛うじて当てたところを武蔵が拾ってダワンへ→ゴール。

 前者は、「ここを使えばここが空く」というスペースの共有、後者は「このタイミングで入ればフリーで受けて展開できる」というタイミングの共有ができたことで前進でき、ゴールエリアに迫れていました。

 どちらも前半からチャレンジしてきた部分だと思いますが、ハーフタイムの間にどのようなスペースをどのタイミングで使うかの認識を合わせる作業があり、バランスを改善することができたのではないかと推察します。


 逆転された柏はこれまでのようにガンバのGK-CBのボール回しを放置しておくことができなくなったので、積極的にアタックに出てくるようになります。そうすると、前半は仙頭のマークをきっちり受けていて息ができなかったダワンがFWの後ろでボールを引き取ることができるようになります。

 そうなると柏も前半のようにガンバのプレーエリアを制限してからアタックにいくことができなくなり、ガンバが広くスペースを使いながら前進していけるように。交代で入ったネタ・ラヴィ、山見が存在感を発揮する展開になります。

 またこの時間はGK谷のビルドアップへの貢献が目立ちました。うまく相手の矢印を折りながら左右にボールを供給し柏にプレッシングの的を絞らせていませんでした。

 ガンバとしてはこの時間帯に相手を崩し切って3点目を奪いたかったところでしたが……。はっきりと潮目が変わったのは89分にダワンが交代してから。交代して入ったのは江川と杉山(※山本 理仁のまちがいでした。すみません!)。逃げ切りのため5バックに変更します。しかし、1stディフェンダーが定まらなくなったことで柏に自由にボールを入れられるようになってしまい、最後はルーズボールが武藤に転がり、強引に突破してきた細谷を抑えきれずにギョンウォンがPKを与え、引き分けでの決着に。

 個人的には形を変えずに最後までやり切ってほしかったところですが、ダワンが攣ってしまう前から江川と髙尾が準備していたので、5バック自体は元々のプランにあったとみています。コンディション(武蔵が90分使えない)やバックアッパー(FWのサブがいない)など諸々考慮した上でのシナリオだろうと思います。


スプリント100回の功罪

 最後こそ悔しい結果になりましたが、去年「ボールを持つ」ことや「相手を見る」ことが全然できずに自分たちで主導権を握る時間をなかなか作れなかったガンバを思えば、キャンプ明けの一試合目でこのレベルまで持ってこられていることはポジティブです。

 一方で、ボールが持てている割にチャンスの量が少なかったことはネガティブ。ガンバのスタッツを見てみると、特筆すべきはスプリント数の少なさ。記録にして100回とほかのチームより大幅に少なかったです。

(指数にすると圧倒的に少ないのが分かる)

 スプリントが少ないのは、急ぎ過ぎずチーム全体でバランスを取りながら前進していく局面が多かったことの証左。その結果自陣でミスからショートカウンターを食らうボール持ちはじめのチームにありがちなシーンがほぼなかったのは良かったです。が、敵陣で相手を動かすようなスプリントが少なかったのもまた事実。

 柏は細谷のスプリントというチームとして分かりやすいトリガーを持っていました。分かりやすいが故に読まれやすくもなるのでそのまま真似しろと言うつもりはないですが、ガンバももっと敵陣を脅かすようなトリガーを増やしていく必要はあるかなと思います。

 今節は張ったWGにボールが届いたところからチャンスが作られることも多かったですが、そこに入る杉山や食野、山見の存在感が高まれば彼らにボールが入ること自体が相手へのプレッシャーになり、それがトリガーになることもあるでしょう。個人としてもチームとしてもさらなる伸びに期待、な開幕戦でした。



ちくわ(@ckwisb

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