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「質か量か」2023 J1 第2節 ガンバ大阪×サガン鳥栖 レビュー


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 新生ポヤトスガンバ初のホームゲームは1対1のドロー。前節に引き続きのドローとなりましたが、柏戦で感じたガンバの変化がフロックでないことを充分に感じさせる試合展開となっていました。

 早く勝利が欲しいところですが、焦らずしっかり積み上げてほしいところもあり。なんとガンバはホームゲーム開幕戦は12年連続の勝利なしだそうで。干支が1回回っても勝ってないとは、逆に凄いな……


 プレビューはこちらから。

メンバー

 ガンバは柏と引き分けた前節から3人のスタメン変更。左ウイングに山見、右ウイングにアラーノ、前節アンカーのダワンがインテリオールに入り、代わってアンカーにはネタ・ラヴィが入りました。ベンチには新加入のジェバリも名を連ねます。

 鳥栖は左CBの中野がU-20代表選出のちに負傷離脱でメンバー外。本職ボランチの福田が右CBを務めることになり、空いたボランチにはベテランの藤田が入りました。


ボードゲームの香り

 プレビューでも述べた通り、高い位置からガンガンプレッシャーを掛けてハメにくるのが鳥栖の入りと予想していましたが、実際はそうなりませんでした。プレス耐性の強い面々に前を向かれて一気に運ばれるリスクを踏まえたのか、CB・GKへのプレスは控えめで、中盤のパスコースを抑えながら詰める守備を志向していました。一方のガンバも同様に、前から追い回すというよりは迎え撃つ守備。結果、お互いにバックラインで余裕を持てる状況が生まれていたのがこのゲーム。

 そうなると、準備してきたものでどう相手ブロックを攻略していくのかがゲームの主題に。ボードゲーム的要素が強く見ごたえがある展開になっていたと思います。2つのチームが志向する攻略法の違いをあえて端的にまとめるなれば、ガンバは「質」、鳥栖は「量」と表現できるのではないかと思います。以下、それぞれの狙いについて述べていきます。


ガンバ:中央をちらつかせて多彩な前進ルートを形成

 今日のガンバは、左ウイングに山見、右ウイングにアラーノという配置。前節は左に食野、右に杉山という配置でした。山見や杉山は、どちらかといえばタッチライン際が主戦場のウインガー然としたプレースタイルであるのに対し、同じウイングでもアラーノや食野は内側に入ってプレーすることを好むタイプ。前節先発の食野がベンチに回ったことからは、少なくともどちらかのサイドにはウインガーらしいウインガーを置いておきたいポヤトス監督のポリシーを読み取ることができそうです。

 ウインガー然とした山見が左サイドに置かれたことで、柏戦で見られたようなビルドアップの形は左右反転して発現されることになりました。その中で違いが目立ったのは右SBの半田。前節は張ったウイングをサポートするプレーが多かったですが、今節ではアラーノ・ダワンらと連携しながら旋回し、中に入ってのチャンスメークも目立ちました。

 一方、割を食っていたのはダワン。前節はアンカーの位置で構えていましたが、今節は内側に入るアラーノのカバーで大外に受けに出るシーンも多く、彼の得意な仕事と比してちぐはぐな印象も受けました。

 ただ、左右でビルドアップのポリシーが違っても機能していたのは、コンセプトに則ってチームが運営されていることの表れでもあると感じます。

 そして、そのダワンがアンカーを追い出されるのもやむなし……、というぐらい、今節アンカーを務めたネタ・ラヴィのプレーは圧倒的でした。中盤でたやすく前を向き、相手を剥がしてから運んで前方に正確なパスを付けられる、デュエルにも強く簡単に倒れない……となると、監督が中央でできるだけ色々なプレーに関与させたい、と思うのも当然でしょうね。

 ガンバのチャンスは、GKをビルドアップに関与させながら鳥栖の1stディフェンダーを剥がし、宇佐美やネタ・ラヴィといった「質」に秀でた面々が中央を経由してブロックを横断、フリーの選手を作って打開、という流れが多かった印象です。ただ、そればかりに終始するのではなく、鳥栖が中央の面子を気にしてプレッシャーをかけてこなければCBから一気に武蔵に当てて前進したり、サイドに人数を掛けて攻略したり、と多彩な前進パターンがみられました。

 前進パターンが多彩だった一方で、エリア内攻略については前節に引き続き淡泊でした。相手を崩し切らない段階でシュートにいくことが多く、数は打っているもののゴール期待値としては低い、個の「質」に頼ったシュートが多かった印象です。ここでもう一工夫あればよりチャンスの「質」は上がってくると思うものの、バランスを崩しすぎないことでカウンターを受けるシーンがほとんどないのも現体制の良さだと思うので、これからいい塩梅を見つけていってほしいです。

鳥栖戦のシュートマップ(Sofascoreより)
シュート本数は多いが、エリア外からのシュート多め
参考:マリノスvs浦和のマリノスのシュートマップ(同上
ガンバと比較するとよりゴールに近い位置でのシュートが多い


鳥栖:スイッチを入れるシャドーの動き

 一方の鳥栖。保持のコンセプトは前節と大きく変わっていないように見え、ここはプレビューでの予想通りでした。ガンバは4-2-4の形で中央への縦パスのコースを切りながらCBにプレッシャーをかけあわよくば前で奪い切る、サイドに流されればSBがWBを抑えて同サイドにはめ込む形の守備を志向していました。

 鳥栖視点で見れば、前節に比べると中央には入れにくく、サイドには逃がしやすい状況だったと思います。鳥栖にとっては前節の反省もあったでしょう。早いタイミングで中盤に刺すパスを狙うよりは、左右のパス交換を繰り返して揺さぶりながらチャンスを伺っていたように見えました。

 全体的には、中央へのパスルートを制限し鳥栖の攻撃をサイドに追いやることに成功していましたが、時間が過ぎるにつれ少しずつ攻略されるようになってきます。特徴的だったのは鳥栖のシャドーに入った本田・西川の動き。ガンバの守備タスクとして、シャドーはボランチがパスラインを抑えつつも、背中で受ける動きを見せればCBが迎撃に出てくるデザインになっていたと思います。が、出すぎると更にその後ろを使われることにも繋がるので無限には出られない。CBがどこまで出てくるのかを確認しながら、「CBが出てこない」かつ「ボランチの外で受けられる」ハーフスペースのポジションに狙いを定め、そのスペースに流れながら受けることで前線に起点を作る。それが鳥栖の攻撃のスイッチとなっていました。

 シャドーが流れて受けることで中央には人が足りなくなりますが、鳥栖は持ち前のハードワークでボールサイドと反対のWBをエリアに送り込んだり、GKをCBの位置でパス回しに関与させて前線に送り込める人数を増やしたりと、「数」で帳尻を合わせられる工夫を仕込んでいたように思います。鳥栖は前線に送り込んだ選手を使うタイミングが共有されていてうまいですね。縦のパス交換に対する3人目の動きで背後のスペースを突くシーンが多く、サイド攻略のきっかけにされていました。

 


ガンバの修正を叩き割った鳥栖の新星

 後半、鳥栖の攻略を受けてガンバが施した修正がウイングの守備。特に左ウイングの山見は前半と比較してもかなり低めの位置を取るようになり、CBへのプレッシャーへの優先度を下げるかわりに使われていたボランチ脇のスペースを消す動きをとっていました。

 CBへのプレッシャーが弱まったのに加え、カウンターで獲得したセットプレーからガンバが先制点を奪取したこともあり、試合のバランスは「ガンバがボールを持たせて鳥栖の攻撃を受ける」方向に傾いていくことになります。鳥栖はハーフスペースの打開がしづらくなったので、サイド深くまでえぐってからチャンスを作ろうと試みます。先述した3人目の動きで送り込まれた鳥栖の選手たちが強引に切り込んでチャンスを作りにくるシーンもありましたが、全体としては危険なエリアの外でプレーさせることができていたように思います。

 状況を受け、鳥栖は選手交代。CFの小野を富樫に、右WBの岩崎を樺山に、足を攣ってしまった西川に変えて菊地を送り込みます。CBが前半と比較しても余裕を持ってボールを持てるようになったので、富樫へのロングボールの落としからの前進なども使えるようになり鳥栖の攻撃パターンが増え、少しずつガンバが劣勢に。ただ、最後のところでは充分人数は足りていて……というところでした。

 が、それを叩き割ったのが樺山。黒川をフェイントで無力化し、山見の股を抜き、ダワンをかわし……と、エリア内で3人ぶち抜かれてしまうとさすがに相手を褒めるしかないです。

 強いて言えばダワンのところでなんとかしてほしかったところですが、よくよくリプレイを見返すと最終ラインから福田がPA内まで駆け込んで来てるんですね。彼にぶつかられたことで一瞬ダワンの判断が狂って樺山へのアタックの判断が狂ったというのもありそうです。いずれにせよ素晴らしいゴールでした。

 状況を傘に着て一気に鳥栖がハイプレスの勢いを強めます。このあたりは鳥栖が良く統率されたチームだと感じます。富樫が勢いそのままに2点目を取ったかに見えましたが、オフサイドの判定に救われたガンバ。

 やはり失点によって相手が動揺しているタイミングは狙いどころ。ガンバが先制後「受け」に入ってしまったのと比べると、鳥栖はエンジンの掛けどころを全体で共有できている感じがします。宇佐美も反省の弁を述べている通り、畳みかけていく姿勢は見習ってほしいところ。宇佐美自身は開始直後のプレーで味方にハイプレスを促すそぶりを見せていたり、チームを導こうとする意思は感じます。しかし、ポヤトス監督も「メンタリティが問題」と語っているように、一人の努力で簡単に改善できるものではないと思うので、時間をかけて、積み上げていることを自信に変えてほしいですね。


 体力の衰えがみられた武蔵・ダワンに代わって72分にポヤトス監督はジェバリ・山本悠樹を、78分に山見に代わって食野を投入。ここからふたたび試合のペースはガンバに傾いていきます。流石の鳥栖も一時の勢いは弱まっており、推進力のあるジェバリ、間で受けられる食野、中盤でハードワークし長短の正確なパスを刺せる山本といった交代選手の強みが存分に発揮される展開となっていきます。

 ジェバリは獲得の際に中口強化部長が述べていた通り、前線からのチェイシングを勢力的にやってくれるタイプ。味方が疲れてなかなかプレスに行けないときでも二度追い三度追いをこなす、積極的にボールを引き出すなど献身的なプレーが随所に見られ、彼の投入でチームは相当に勇気づけられたのではないでしょうか。

 勢いを取り戻したガンバはサイドバックの交代で後ろを安定させ、終盤に怒涛の攻撃を見せますが、ゴールを割ることはかなわず1-1で試合終了。


継続って良いものですね……

 私は今年初の現地観戦でした。残念ながらガンバクラップはできませんでしたが、相手の鳥栖のプレーも含めて非常に見ごたえのある試合を観れて満足です。

 チームビルディングの進捗に目を向けても、昨年のように「対策」によって見るべきポイントがブレてしまうのではなく、ベースにコンセプトがある中でそれが相手によってカスタマイズされている、という見え方なので説得力を感じます。

 鳥栖の川井監督からの試合後コメントも、昨年はぶっちゃけ「勝てて当たり前です」みたいな雰囲気だったのに(あからさますぎてよく覚えてる)、今年はリスペクトを感じる受け答えに変わっていたのも、まあこういう変化は同業者に一番伝わるんやろうとポジティブに捉えときます。


 さて、継続できているからこそ課題の輪郭もくっきり見えてくるもので、例えば今節だとダワンのポジション。彼なりにタスクを精一杯こなしてくれはしたものの、あのポジションに求めるパフォーマンスとしては少し物足りなかったかなと。

 ネタ・ラヴィや宇佐美が「当確」な状況下で中盤は厳しいスタメン争いが予想されますが、今節はベンチだった山本悠樹や山本理仁がスタメン奪取に燃え上がってくれているはず。

 健全なポジション争いがどんどん活性化されて、チームが強くなっていくサイクルを見られるのはサポーター冥利に尽きるといったところです。が、早く勝ちを見たいのも率直な思い。次の試合こそ勝利を……!



ちくわ(@ckwisb

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