2019 J1第10節 ガンバ大阪vsFC東京 レビュー

 皆様いかがお過ごしでしょうか。10連休きっちり取った方も連休中お仕事されていた方も無事に生き抜くことができていらっしゃいますでしょうか。私といえば暦通りの10連休をいただいていたわけですが実家に顔を出したりNetflixでカウボーイビバップをボケーっと見たり家を探したりしてたらいつの間にか連休が終わってました。10連休短くね?

 んでFC東京戦。終わりよければ全てよしって言葉もあるように、この試合勝てれば全国ウン百万人(概算)のガンバサポが機嫌よく連休明けを迎えられたわけですが試合は0-0のスコアレスドロー。
 塩試合と呼ばれるスコアですが、その内実はお互いの駆け引きが色々詰まった好ゲームだったと思います。以下振り返っていきましょう。

スタメン

 先週のヤット外しに引き続き、今節は三浦外しを断行した宮本監督。アジアカップでキャンプをすっ飛ばした影響かここまで精彩を欠いたプレーが多かった三浦。なんと17年の加入以降リーグ戦初のスタメン落ちとなりました。替わってスタメンに名を連ねたのは菅沼。
 中盤の組み合わせは、前節スタメンの矢島がサブに回り高がスタメン。ヤットがトップ下に回り、倉田・高がボランチを務める4231の形となっていました。

 東京はチャン・ヒョンスの復帰以外は前節と同様のスタメン。好調なチームをそのまま持ち込んできている印象です。
 要注意は柏時代からのガンバキラー、ディエゴ・オリヴェイラ。長谷川監督がFC東京に移った初年度に彼を獲得していたのを見て「やっぱガンバでもこういう選手欲しかったんやね……」と感じたことを思い出します。
 彼を一角に据えた2トップ行ってこいの442はガンバ時代から見慣れたものではありますが、やはり異質なのは右サイドの久保建英の存在。ガンバでは宇佐美やヤットが担っていた局面の移行・打開を1人で賢くやってしまうのが良いアクセントになっている印象です。久保の伸びシロをそのままチームの伸びシロにできるようなスカッドを組んでいるあたり、いかにも健太監督だな~って感じがします。

マクロの利害一致

 前半、東京は高い位置からのプレスを仕掛けてきません。恐らくこれは東京のストロングである2トップのスピードを最大限に活かす意図があったとみられます。ガンバの最終ラインを自陣に引きこむことで、ロングカウンターの際に2トップが使える縦の距離=ぶっちぎれる余地が増えるという仕組みです。
 従って、東京2トップの守備時のタスクは最終ラインへのプレスではなく中央のパスルートを塞ぐことでした。ガンバの攻撃をサイドに誘導し、奪って素早く2トップに展開しロングカウンターで仕留める。ガンバが川崎戦でやっていたのと似たアプローチですね。
 自分たちのストロングを出しつつ、ボールを失う位置に気を配ることでガンバのストロングであるショートカウンターの局面をできるだけ発動させないという副次的な効果も期待できるプランだったと思います。

 ガンバにとっては、得意とするトランジションの局面は作りにくくなる一方、最終ラインにプレスがかからないためボールを保持しながらゲームを進めるのは難しくない状況でした。
 ボール保持局面では、セット攻撃のシチュエーションにおけるガンバのいつもの形とも言える「ブロックの外に出てボールを受けるヤット」や、「ブロックの間で受けるサイドハーフ(アデ、小野瀬)」を起点に東京の守備組織を揺さぶっていました。

 東京は2分のディエゴの落としで前を向いた永井からのクロスに合わせた久保、ガンバは9分のアデミウソンと小野瀬のワンツーなど、早い時間でお互いの作りたい形が出ていたため、どちらもプランに手ごたえを得ていた状況でゲームは進んでいたとみられます。

 お互いに「相手のやりたいことをさせれば、自分たちのやりたいことができる」かみ合わせができていたため、ゲームプランというマクロの視点では利害が一致していたガンバと東京。過去の記事でガンバのビルドアップを心配したこともありましたが、今日の試合では「持たせたい東京」と「持ちたいガンバ」という形で、粗が出にくかったとも言えます。

ミクロの駆け引き

 上述のようにマクロで利害が一致しているからこそ、ミクロの局面で有利が取れるかが主導権を握れるかどうかのカギになっていました。特に筆者が面白いと感じたのは以下の2点。

 ・東京の2トップとガンバの両CB
 ・ガンバの左サイドと東京の右サイド


・東京の2トップとガンバの両CB
 宮本監督が自信をもってボール保持に舵を切れるかどうかは、この局面のぶつかり合いにかかっていたと言えると思います。敵陣に押し込むことができても、抜群のスピードを持つ快速2トップを抑える解を持っていなければ一発のカウンターでゲームプランは破たんしてしまう。

 上記のツイートはガンバの選手のスプリント速度に着目したものです(スポーツナビのデータ)。これを見ると、トップスピードについてはあの永井よりもヨングォンの方が早かったという結果が出ています。菅沼もチーム2位のトップスピードとなる32.3km/hを記録しており、東京の2トップと遜色ないスピードを持っていたガンバの両CB。

 このデータがあることで、ガンバは2トップのロングカウンターを抑える設計を作れていたと思います。恐らくネガティブトランジションの際には下図のようなタスクが与えられていたのではないかなと思います。

 興味深いデータは、この試合「東京のオフサイド」の数が0回だったこと。リーグ戦で東京がオフサイドを記録しなかったのはこの試合が初めてです。ヨーイドンのタイミングがズレさえしなければ勝てる、という計算のもと、ガンバの両CBが2トップの裏抜けの動きを常に警戒していたことがうかがえるデータです。

 イーブンな状況下では両CBが競り勝てる算段を持っていたガンバは、中盤においてはいかにクリーンにボールを出させないかを意識していたと見られます。ボールの出し手に対してはファウル覚悟でガシガシぶつかっていたガンバの選手たち。
 ポジティブトランジション時、中に絞って起点になろうとする久保の動きに対しては主にボランチの高が潰しに出ていました。自由を与えることはありませんでしたがファウルでしか止められない部分もあり、前半のうちにカードをもらってしまいます。
 ポドルスキといい、左利きの突破に対しては持ち前のボール奪取がうまく繰り出せないとみられる高。ガンバには左利きのドリブラーが少ないので、コンチャは早く本調子になって練習相手になってあげてほしい。笑

 裏抜けを厳しく見るガンバ両CBの動きに呼応して東京の2トップは縦関係を作ってガンバ両CBの間にスペースを作ろうとしたり、左に流れてサイドバックの裏を狙ったりと駆け引きを挑みますが、ガンバも粘り強く対応して全体的にはうまく抑え込むことができていたと思います。

・ガンバの左サイドと東京の右サイド
 こちらについてもかなり見ごたえのある駆け引きが行われていました。アデミウソンと久保です。局面を打開する技術を持ち、両チームの攻撃の核となっていたこの2人。アデミウソン、久保がいかに高い位置を取ることができるか?というのも興味深い駆け引きになっていました。

 注目したいのは遠藤とアデミウソンの振る舞いです。決まりごとかどうかは分かりませんが、守備時にアデミウソンが前残りして遠藤がボランチの位置を埋めているシーンがいくつかありました。アデが前残りすることで対面の小川が上がりを制限されるため小川のボールタッチ位置は総じて低く、1列前の久保と連携しづらい状況を作れていたとも言えます。

 前残りは2トップの役目だった東京においては、久保は教条的に44ブロックを作りにいっていたため、
 ガンバがボール保持:久保を低い位置に押し込む
 ガンバがボール非保持:小川を低い位置に留めることで攻撃を散発的に
 という形で、ある程度制限は掛けれていたと思います。それでも単独突破で2枚イエローを稼ぐんだからやっぱり久保君は凄まじいプレーヤーだなと思いますが。。

 局面での駆け引きを有利に進めながら、総じてガンバのペースで試合を進めることができていたと思います。

どうリスクを取るか?

 後半からはイエローを一枚もらっていた高に代わって今野が投入されます。後半についても、前半と同じ構造でゲームは進んでいきました。
 早い時間に高萩・橋本の東京両ボランチにイエローが出て中央の圧力が落ちたこともあり、敵陣でもボールを持てていたガンバ。左で作って右に流し、右からのクロスで決定機を作ります。62分の米倉のクロスはうまくウィジョにヒットせず枠を外してしまいましたが、この試合で一番の決定機だったと思います。

 東京はガンバに持たれつつもペナルティエリアの中にはしっかりと人数をかけており、水際で止めるという意思が見えました。ガンバはラストパスを入れるところまではできてもペナルティエリアの中からシュートを打つことができません。

 トップ下のヤットが、ボール保持時にはボランチの位置まで下りて受け手になることで安定してボールを持つことができていましたが、その副作用としてペナルティエリア内に飛び込める枚数が足りずに跳ね返されるというケースが多数。
 サイドバックとサイドハーフがローテーションしたり、中央でワンツーからの突破を図ったりと色々と試行錯誤はしていましたが、首位のブロックをこじ開けるまでは至りませんでした。もう少しペナルティエリアを広く使って、クロスの折り返しから2列目を飛び込ませたり、揺さぶった後にシュートポイントを作る工夫がほしかったところです。

 ポジションを入れ替えながら攻撃をしていくからこそ、どこでリスクを取りに行くのか?というのをそれぞれが判断しづらい状況になっていたのかもしれません。
 U23やルヴァンカップのメンバーはこのあたりの循環をスムーズに繰り出しながらシュートを増やすことができています。トップチームにおいては、サイドバックやサイドハーフの選手としての特性からプレーするエリアが限定されがちなのがなかなか難しい部分だなと思います。

 状況を見た宮本監督は80分ごろからヤットをボランチの位置に固定し倉田をサイドハーフに回し、アデミウソンをトップに持ってくる442の形への変更を行いました。川崎戦でやったのと同じアプローチですね。
 恐らく、上述したペナルティエリアで絡める選手の数を増やしたいという思いからのポジション変更だったと思いますが、逆に中盤における守備の強度が下がってしまったことで、永井⇒ナサンホの選手交代でトップ下に回った久保にスペースを与えることになり、中央突破からあわやというシーンを作られてしまうことにもつながりました。
 しかし、ガンバの守備陣も水際で食い止めゴールは割らせませんでした。結果、0-0のスコアレスドローで試合終了。

まとめ:継続と突き上げ

 残念ながら引き分け、これで6試合勝ちなしとなりましたが、好転へのきっかけはつかめる引き分けだったと思います。首位相手に互角以上のプレーはできていたので、方向性は間違っていないと思います。あとはやはり結果。この守備を維持しながらどうリスクを取ってゴールにつなげていくのか、バランスを見出していく作業を根気よく続けていきたいですね。

 今節もU23から食野と中村がサブにリストアップされていましたが、同点で交代枠は余っていたのに最後まで起用されませんでした。起用されるためには、トップチームの取り組みを理解しバランスを保てるということが最低限必要で、そこから自分なら足りないものをどう埋められるか、というプレゼンテーションが必要になってくると思います。
 菅沼は三浦からポジションを奪い、タスクを完遂することで見事このプレゼンテーションをやり遂げました。彼のここまでのシーズンは若手に対するロールモデルになると思います。

 期待したいのはJ3で8得点と絶賛売り出し中の食野。U23ではトップ下のヤットがやっているビルドアップを助けるタスクを意識的にこなしつつゴールにも絡んでいます。彼には是非ヤットを脅かす活躍を見せてほしい。こうした下からの突き上げがチームをさらに成長させていくはず。
 次は大魔境アウェイ鳥栖ですが、スタジアムの名前が変わったのでもう呪いは解かれていると思います。笑
 明るい未来に期待して引き続き応援したいと思います!!!

その他、気になったあれこれ

・長谷川監督の試合後ガンバ贔屓のコメント。笑 このおっさんはやっぱ人たらしなんだろうな~と感じる瞬間でした。
・今節の家本主審のジャッジは非常に気持ち良かった。好ゲームを演出したのは間違いなくこの人の果たした役割が大きかったと思う。

ちくわ(@ckwisb

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?