2019 J1第8節 ガンバ大阪vs大分トリニータ レビュー

 ここまで3連敗と厳しい状況のガンバ。巻き返しを図ろうかというところでホームに大分トリニータを迎えます。大分は昇格組ながらもここまで7節を消化して3位。ガンバでコーチとして3冠を経験した片野坂監督の指導のもと好調なシーズンを過ごしています。

 不調のガンバと好調の大分。対照的な両チームの力関係を客観的に捉え、宮本監督は相手をリスペクトする戦術でこの試合に臨みました。
 どうやらこの試合、観る人によって評価が大きく分かれているようです。自分のスタンスをあえて表現するなら「ポジティブ寄りの中道」でしょうか。なんともふわっとした評価ですがその理由も含めてこれから書いていきたいと思います。

スタメン

 ガンバは前節からスタメンを4人変更。浦和戦の記事のまとめで「ドラスティックな変更も必要になるのでは」と述べましたが、かなり大きくチームをいじってきたと思います。
 特筆すべきは、ここまでチームの得点源となってきたアデミウソン(4得点)、ファンウィジョ(2得点)、小野瀬(2得点)を全員ベンチスタートにしてきたこと。誰かが外れることは予見できましたが、3人全員外してくるのは予想外でした。

 一方の大分は前節と比べると、星に代わって高山、三平に代わってオナイウ阿道が入りました。スタメン変更はコンディションによるものとアナウンスされており、基本的にはこれまでのやり方を踏襲してきたようです。

大分のビルドアップとガンバの対応

 この試合、ガンバのプレッシング開始ラインは非常に低い位置だったため、大分のボール保持で試合は進んでいきます。まずはそこから書いていきましょう。この日の大分は3-4-2-1のフォーメーションを敷いてきましたが、ボール保持の際にはボランチの1人が最終ラインに落ちて3CBの左右が開き4バックを形成しつつ、両ウイングバックが高い位置を取る4-1-5のような形に変形します。なんか見たことある?そう、ミシャ式ですね。

(※ミシャ式についての説明は上記リンク先からどうぞ)

 熱心なJリーグファンならご存知の通り、片野坂監督はミシャ監督、およびその系譜に連なる森保監督のもとでコーチとして長く働いてきました。公の場でもミシャ監督からの影響を公言してはばからない片野坂監督。彼からの影響を強く受けたビルドアップを見せてくる大分。

 そんな大分にガンバがどう対応したか。
 すでに上記の図で記載してしまっていますが、ガンバは5-4-1のフォーメーションを敷いて対応します。このフォーメーションのメリットは「5枚を最終ラインに並べる」ことでミシャ式のメリットである「最終ラインでの数的優位」を打ち消せる、ということです。

 DFラインに5枚を並べ、誰が誰を見るのかをはっきりさせてきたガンバ。また、前線・中盤の振る舞いにも狙いを持たせていました。前半、最終ラインでのパス回しは基本的に放置。両サイドに広がった岩田・福森にボールが出たタイミングでサイドハーフがシャドーへのパスコースを切りながらプレッシングをかける形をとり、できるだけブロックの外で大分にパスを回させようとしていました。

 そうしたガンバの構えに対応して大分も動きます。オナイウ・小塚の両シャドーが中盤に降りてきて、周囲のメンバーとローテーションしながらガンバのディフェンスを剥がそうとします。一方で、そうしたプレーがミスやボールロストを生みガンバが得意とするトランジション局面を生み出しているシーンもあったため、大分はボール保持を嵩に懸けて攻め込むのではなく、落ち着いて左右に回しながらガンバの綻びを探る形を取っていました。そのため、試合は異様におとなしいテンションで進んでいきます。

「疑似カウンター」と大分の現在地

 ここまでの展開は、宮本監督としては恐らく狙い通りだったでしょう。これまで大分が敗戦を喫したのは、松本・広島という今節のガンバと同じ5-4-1の形での守備を指向しているチームです。試合をすべて見ているわけではないですが、恐らく今日のガンバと同じような狙いの守備を行っていたのではないでしょうか。

 そうした仮説のもとデータを見ていると、一つ面白い傾向を見つけました。大分の「シュート」に関する数字です。勝った試合と負けた試合でどのようになっているかを表にまとめてみました。

 「シュート」については、勝利時と敗戦時でそれほど差がないのですが、「被シュート」については、勝利時のほうが敗戦時よりも大きな数字を示していることが分かります。
 シュートはたくさん打たれたほうがしんどいはずなのに、大分に関しては相手からシュートをたくさん打たれているほうがむしろ勝てているのです(サンプルはまだ少ないですが)。

 この傾向には大分の代名詞ともなりつつある「疑似カウンター」という攻撃が影響しているとみています。下記動画におけるゴールシーンのように、GKも含めたビルドアップで相手のプレスを誘い込んで作ったスペースを使って、ボール保持の局面でありながらカウンターのように攻める形。

 一般的にはシュートを多く打ち合うほうが激しく動く試合になります。相手がアグレッシブにボールを奪おうとするほどスペースが広くなり、大分が疑似カウンターを発動する機会も多くなるため、このような傾向が出ているのだとみられます。

 一方、大分自身の平均シュート数自体は1試合当たり7本とそれほど多くありません。この数字が示すのは、大分が「相手のブロックを動かしてスペースを突く」攻撃に長けているものの、主体的に「相手のブロックをこじ開ける」攻撃にはまだ取り組めていないのではないかということです。
 そのため、松本や広島のようにブロックを動かさず進んで試合を「寝かせにきた」チームに対しては手立てがなくなってしまう、というのが大分の現在地なのでしょう。同じミシャ式でも、浦和ではウイングバックの質を活かしたドリブル突破などのオプションがありましたが、大分でそれをやるのは難しいので、オプションを探す作業は難航しそうです。

アクシデントが生んだ失点

 ガンバの前半の狙いは、松本・広島と同じく試合を「寝かせる」こと。ほぼ狙い通りに事を進めていたであろう宮本監督ですが、ここで前節に続きアクシデントが起こります。前半途中での渡邊千真の負傷交代です。

 足首を痛めた渡邊千真に代わって入ったファン・ウィジョは、千真と比べると今日のタスクへの理解度が低かったように思います。ゴールキックからのセカンドボールを拾うために福森に猛然とプレスを仕掛けるウィジョ。
 彼の動きに呼応してヤットが中盤の選手にプレスをかけにいきますが、福森が選択したのは最前線の藤本憲明へのロングボールでした。ヤットがウィジョに合わせたプレスを選んだことによって広大なスペースを得た小塚への落としが決まり、この試合大分に初めてとも言える「疑似カウンター」の形が生まれてしまいます。

 小塚から逆サイドの松本に素晴らしいサイドチェンジのパスが通り、対面のジェソクに岩田の走り込みとの2択を迫った結果プレッシャーのない形でクロスを打ち込めた松本。クロスには東口が先に触りますが、パンチングでのクリアがずれオナイウにぶつける形となってしまい、大分に先制点を奪われてしまいます。

(※大分の疑似カウンター図解。よーできてるわ~(ため息))

 時折DAZNのマイクが収音するぐらいに「出もと!出もと!」と叫び、パスの出し手に対しての牽制をメンバーに促していた宮本監督。このシーンでは、大分の「疑似カウンター」を受け対応が後手に回ってしまったため、注意していたはずの出し手へのプレッシャーが甘くなってしまいました。

 フォーメーションを変えて大分の「疑似カウンター」をある程度無効化できていたものの、アクシデントによって起きたスクランブル状態を整理できないうちに失点を喫してしまったガンバ。苦しい形でのゲーム運びを余儀なくされます。

 先に失点を喫したことでボール保持時にはサイドバックの攻め上がりが目立つようになりますが、守備のタスクは0-1にスコアが動いた後も変わっていないようでした。
 守備時の5-4-1を維持しつつも、攻撃の厚みを増すことでじわじわとボール保持の時間を増やしていくガンバ。ジェソクのシュートなど惜しいシーンを作りながらも得点には至らず、0-1で試合は後半に移ります。

後半:認知負荷を押し付けるガンバの即時奪回

 後半のガンバは田中達也に代えてアデミウソンを投入。このところよく使っていた遠藤トップ下、アデミウソン左サイドの4-2-3-1に切り替えてきました。ガンバはキックオフ直後から前線に蹴り込み、前半とはうってかわって最終ラインどころかキーパーまで追いかける前線からの激しいプレッシングを画策します。

 後半序盤は大分もプレスをいなしてスペースに送る形をいくつか作れていましたが、60分に藤本に代わって小野瀬が入ってからはガンバのプレッシングの勢いがさらに強まり、ガンバがほぼ敵陣に押し込める形でゲームが進んでいきます。状況を図解すると下の通り。

 キーポイントはやはり後半から入ったアデミウソンです。特にこの日のアデミウソンは恐ろしく強かった。縦パスに対して相手がケアにきても背中をぶつけてターンでかわしたりフェイントからのカットインで中盤を切り裂いたりとボールを預ければ必ず前を向ける強さを持っていました。

 アデミウソンを中心としたガンバ攻撃陣の勢いを止めるためにも、大分は1人に対して複数で当たらざるを得ません。スペースを埋めるために大分のシャドーは守備位置を下げる状況に追い込まれます。
 すると、仮に大分にボールを奪われたとしても奪われた時点では前線で藤本が孤立しているため、大分の攻撃の形が整う前に即時奪回で一気に追い込んでロングボールを蹴らせてしまいさえすれば、藤本のところでボールを回収できるので延々とガンバのターンが続くという仕組みです。

 前半と全くテンションの異なるガンバのプレッシングに対して、大分はバックラインで繋ぐこともままなりません。クリア本数は前半の7本に対して後半は20本と、2分に一度はボールを蹴っ飛ばしていました。

 後半印象的だったのが、大分の選手がミドルゾーンで蹴りどころを失ってまごついている間にガンバの選手にボールをかっさらわれる形。
 大分側の視点で考えると、前半は悠々と探せたパスコースが後半は激しいプレッシングで全く見えてこない。この「認知のズレ」が思考回路に負荷をかけ、判断を硬直させたことが分かるシーンだったと思います。

 片野坂監督は、そうした状況をみて65分ごろからオナイウを前線に上げる5-3-2の形に修正をかけてきます。ロングボールに対して孤立する藤本憲明のサポートに回ってほしいという意図があったかもしれません。

 一方で、この変更によってガンバはよりサイドで自由を得ることになったため、サイドバックに幅を取らせて大分の守備網を引き延ばし、67分ごろから立て続けに決定機を作ります。GKの高木を中心に粘り強く守っていた大分でしたが、71分、ついに遠藤のシュートが相手のクリアミスを誘ってガンバが同点に追い付きます。

 このシーンに至るまで、大分は再三振り回されてクリアすらままならない状況でした。ラッキーなゴールにも見えますが、分厚い攻撃を積み重ねたことで大分のディフェンスラインが耐えきれなくなったと解釈することもできると思います。

 その後もガンバが優勢に試合を進めていきますが、80分過ぎごろからガンバの前線の動きが如実にトーンダウンします。前線からの激しいプレッシングを続けたことでスタミナが持たなくなった模様。

 そうなると、大分はやや単騎特攻の気配が出てきたガンバのプレッシングをひきつけて剥がしながらロジカルに前進することができるようになり、以降は逆にガンバが一方的に押し込まれるように。

 しかし、大分もここまでの戦いで相当に疲弊する部分があったのか、とにかく最後の精度が上がりません。クロスが流れたり、裏に抜けるタイミングがずれてオフサイドを招いたりと、チャンスを作りながらも決めきれずという状況のまま試合は終了。1対1の引き分けに終わります。

まとめ:アクシデントに左右されたゲームプラン

 ここまで振り返ってきたとおり、宮本監督としては前後半で異なるゲームプランをチームに持ち込みながらも、それぞれの狙いを目論見どおりに機能させることができていたと思います。宮本監督のゲームプランを狂わせてしまったのは、やはり前半途中の渡邊千真の負傷交代でしょう。

 完全にたらればになりますが、彼の負傷交代がなければ恐らくあのままゲームを寝かせて前半を0-0で乗り切れていたと思いますし、余った交代カードを使って中盤の選手を入れ替えることで最終盤でのオープンな試合展開にも対応できたかもしれません。結果としては引き分けが妥当なゲームだったと思いますが、プランがしっかり実行できていれば勝ちの目は見えていたので勿体ない試合でもありました。

 冒頭、筆者は「ポジティブ寄りの中道」とこのゲームを評価しましたが、ポジティブなのはこうしたゲームプランをメンバー全員が信じて取り組めていたという部分です。連敗し苦しい状況にありながらも我慢を強いられるゲームプランを実行でき、チームの規律が保たれている点は評価できると思います。

 一方、完全にポジティブと言いきれないのは、ゲームプランでは勝てていたのに勝ち切れなかった部分。特に後半は大分を完全に押し込みながらもなかなか得点を奪うことができませんでした。アタッキングサードでの揺さぶりがやや足りなかったような気がしています。このあたりは、勝てない焦りが安易なプレーを選ばせてしまった側面もあると思います。

 この引き分けをポジティブな引き分けにするには、次の試合で何としても勝つことが大事。次節の仙台はガンバと同じく調子が悪いチームではありますが、ここに負けると一気に悪い面が目立ってしまう可能性もあります。できたこと、できなかったことをしっかり振り返りながら次の試合に備えていただきたいと思います!!!!!

その他、気になったあれこれ

・(解説の)加地さァん!「ジェソク、まだゴール決めたことないんすか」ってそりゃひどいぜ!義理堅いジェソクのことだから、ゴール決めた日にゃきっとお世話になった加地兄さんには真っ先にお礼の電話が入るしCAZI CAFEでお祝いもするだろうさ!!!ジェソ、早くゴールを決めてこんなサポの妄想を現実にしておくれ。笑
(※下記はガンバサポ号泣必至の記事)

・ウィジョの左足。今日はウィジョゾーンでも右足を切られることが多かったので、左足でシュートを放つことが多かったウィジョ。
 これで左足からGKの股抜きシュートなんて決められる日が来たらもう向かうところ敵なしになると思うので、何卒……!

・今節はわりと封殺できたけど、高木のビルドアップ能力羨ましい……ちょっとだけでええから、うちのヒガシにも分けてもらえんかのう?だめ?そうですか……。。

ちくわ(@ckwisb

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