2019 J1第5節 ガンバ大阪vsヴィッセル神戸 レビュー

 イニエスタ来日後初のパナスタでのホームゲームとなった第5節ヴィッセル神戸戦。パナスタ史上最多の3万7000人を超える観客の中行われた試合は3対4のThe 馬鹿試合で「とりあえずイニエスタ観に行くか~」ってパナスタに来た人たちはとんでもなく満足するゲームになったことでしょう。

 ……ああ俺たちは全く満足できなかったぜ!!!今シーズン初の現地観戦!現地観戦戦績0勝1敗!ホーム怒涛の3連敗!
 観返すのもつらくてレビューのアップまでこんなに時間がかかった……わけではなく、年度初めで忙しくてまとまった執筆時間が取れず今更なタイミングでアップする不孝をお許しください。まあ時間がたって落ち着いて観ればいいところも悪いところもあるゲームでした(負けた時につぶやくいつものフレーズ)。
 以下振り返っていきましょう。

スタメン

 ガンバは前節と同じスタメンを継続。勝ったチームはいじるなの鉄則です。一方の神戸は、三田に代わってサンペールが初のスタメンを務めることになりました。それ以外は前節と同様のメンバー。昨シーズンガンバでプレーした初瀬も左サイドでスタメンを勝ち取っています。

前半:ビルドアップの出口を叩け

 今節もガンバのプレッシングラインは低めに設定されていました。必然的に神戸がボールを保持する展開でゲームは始まります。前節同様、最前線のウィジョとヤットはビルドアップ方向の限定を試みようとしていましたが、初スタメン・サンペールの
 ・ヤットの背後から顔を出してビルドアップを助ける動き
 ・運ぶドリブルで時間を作る動き
 もあり、川崎戦ほどは限定が利いていない状況でした。

 ただ、恐らく神戸のビルドアップの目標は「ビジャ・イニエスタ・ポドルスキにどうボールを届けるか?」なので、限定がかからなくてもビルドアップの出口であるこの3人のまわりに網をかけておけばボールを奪えるという算段がガンバにはあったとみられます。

 神戸の攻撃の頻出パターンとしてみられたのが上図の3点。ガンバはその中でも、①と②に注意してビルドアップの出口であるVIPトリオを叩こうとしていました。①のローテーションに対しては、大外に入る初瀬への対応を捨て、イニエスタを1対複数で囲む形を常に意識していました。また②では、両CBがビジャへの縦パスに対して積極的にチェックに出ることで自由を与えていませんでした。

 VIPトリオからボールを奪うことでポジティブトランジションの局面を作った後、ガンバは2パターンのカウンターによる攻撃を企図していました。

 神戸は前半、サンペールがアンカーに入る逆三角形のような形でボールを運んでいたので、ポジティブトランジションの際にはサンペールの左右にスペースができています。ガンバの1点目は神戸の攻撃パターン②のダンクレーからビジャへの縦パスがずれた際にそのスペースに走りこんだアデミウソンと小野瀬によって生まれました。

 神戸のDF陣がマークに付く間もない早いタイミングでクロスを放り込んだ小野瀬・ハーフボレーを浮かさずに叩きこんだアデミウソン・ニアに流れてCBを釣りだしスペースメイクしたウィジョと、3人の技術・判断が光る良いゴールだったと思います。

 失点後、神戸は左右のサイドを入れ替えてポドルスキが左サイドに入るようになります。詰まっていたとはいえ左サイド(ガンバの右サイド)は押し込めていたので、右利きの古橋ではなく左利きのポドルスキを配置してクロスから決定的なシーンを作ろうとする意図があったかもしれません。

 ただ、ポドルスキが左に流れたことでVIPが左サイドに集まることになり、ガンバが限定するまでもなく左サイドからの攻撃が増えていった神戸。すると神戸の攻撃パターン①の右サイドのローテーションによって生まれた裏のスペースが攻略対象に浮かび上がってきます。また、同サイドへの限定ができることでハイプレスもかかりやすくなり、ガンバは高い位置でポジティブトランジションの局面を作れていました。

 2点目はビルドアップで詰まった大崎を助けにでたイニエスタの動きを菅沼が読み切り、高い位置でボールを奪ったところから生まれたゴール。完璧にプラン通りのゴールだったのは菅沼のガッツポーズが物語っています。

 その後も神戸に明確なチャンスを作らせないままガンバのペースで試合が進んでいきますが、次に点を取ったのは神戸でした。
 45分、高とポドルスキの競り合いで奪われたフリーキックからのこぼれ球をそのポドルスキが蹴りこんで同点。止めようがないシュートでしたが、PA内で一番フリーにしてはいけない選手をフリーにしてしまった。今期セットプレーからすでに3失点してますが、ここは今後に向けて整理をしなければいけない部分だと思います。

 ゴール後は息を吹き返したように勢いが出てきた神戸。終了間際にはダンクレーがアデミウソンからボールを奪い、ビジャが斜めのランで作ったスペースに全速力で飛び出してきた古橋によるバー直撃シュート。明らかに神戸に勇気を与えてしまったことがわかるカウンターでした。

後半:迷えるガンバの右サイド

 後半開始の神戸の修正点として感じたのはビルドアップ時の配置です。前半は守備時4231⇒攻撃時1アンカーの433という変化を明示的に行っていた神戸ですが、後半はより4231のオーガナイズを保ったまま攻撃を行う傾向が見られました。トランジションの局面でガンバに使われていたアンカー脇のスペースを消す意図があったとみられます。

 一方で、この変更によってボール保持局面ではサンペールがボランチの位置から列を下りるような形でビルドアップに参加しにきたこともあり、前半はうまくはまっていたガンバの右サイドのプレッシングが機能しなくなります。特に迷っていたのは小野瀬で、どこにつけばいいのか曖昧になっていました。加えて、ボランチ2枚が受けることでビルドアップに加担する必要がなくなったポドルスキがより左サイドの高い位置を取ることで三浦がピン留めされ、ガンバの右サイドに縦のスペースが生まれます。

 54分に生まれた神戸の同点ゴールは迷いの生まれていたガンバの右サイドを的確に突いたものでした。スローインからの流れでしたが、小野瀬が初瀬に寄ったことでできた裏にイニエスタがボールを受けるスペースができていました。イニエスタにボールが出た瞬間に三浦が高とポドルスキのマークをスイッチして対応に出ますが、トラップでベクトルの逆をついたイニエスタに簡単にターンではがされ、イエロー1枚もらっている高vsポドルスキという圧倒的不利なマッチアップを作られてしまいます。

 粘り強いマークができなかった高を弾き飛ばし、フリーで利き足クロスを上げたポドルスキ。充分な時間があったので、ヨングォンの視界から消えてフリーになるビジャに合わせてピンポイントのクロスを供給できました。VIPトリオ3人それぞれのストロングがいかんなく発揮された素晴らしいゴールでした。

トップ下ヤットの功罪

 同点以降からプレッシングの開始位置が高くなった神戸。リージョ監督は試合中に内転筋への痛みがあったというビジャに代えて三田を投入。古橋をワントップに据え、三田を右ウイングに配置しました。この変更をきっかけに、神戸は古橋・三田を中心に精力的なプレッシングをかけガンバを低い位置に押し込もうとします。

 バックラインへのプレスがきつくなってきたこともあって、ガンバはロングボールでの前進を図ります。トップ下の遠藤がロングボールの受け手となって前線に起点を作っていました。

 普段であればポゼッション時はビルドアップに加担しようとする遠藤ですが、今日は中盤に降りてくる動きを意図的に減らし、ビルドアップの出口になろうとする動きが多かったヤット。なぜヤットが降りてこなかったのか、という意図を説明するために用意したのが以下の図です。

 今日の神戸の前線は外国人助っ人を中心に戻りが遅い選手が多かったため、MF-DF間には攻略できるスペースが広く空く傾向にありました。遠藤が受けて相手のブロックが整う前にそのスペースに飛び込んできた2列目、3列目の選手を使うことでシュートチャンスにつなげていたガンバ。遠藤があえて前で受けることで、倉田やアデミウソンなど、スピードに優れる選手をこのスペースに飛び込ませることができるという利点がありました。

 3点目はその遠藤が起点となりました。絶妙のターンで相手選手を2人置き去りにし、スペースに飛び込んだ倉田に展開して左に流れていたウィジョへ。斜め45度「ウィジョゾーン」からのシュートは前川に阻まれますが、こぼれ球に反応した遠藤が飛び込んできた倉田を冷静に視界に収めることができており、折り返しから勝ち越しゴール。

 こうしてヤットが高い位置で起点となれる一方、バックラインは普段のヤットに頼んだビルドアップができず落ち着いてボールを保持する糸口を見つけられません。ボランチにヤットが入っていれば、「ゲームを落ち着かせよう」というメッセージをチームに出すことができたかもしれませんが、トップ下にいるせいかそうした意識をバックラインまで伝播させられなかった印象です。

奪われるバックラインの思考力

 そんな中、ガンバが取った方向性は「できるだけ攻撃の時間を長くする」ことでした。ただしそれがチーム全体で共有されていたかは疑問で、試合が進むにつれ前後の選手に意識の乖離が目立っていきます。

 後半途中からワントップに移った古橋はスピードに特徴のある選手であり、ビジャとの特性の違いも相まってバックラインはかなり手を焼いていました。そこに田中が投入されたことでさらに後ろ重心になっていきます。

 一方、田中・古橋・ポドルスキ・イニエスタの前4人は前線に残りがちになるので敵陣は非常に攻略しやすい状況となっていました。特にボランチの倉田はボール奪取時は必ずと言っていいほど前線に飛び込もうとしていたため中盤の空洞化を招き、時計が進むにつれ試合展開はオープンになっていきました。

 前半はコンパクトな守備で神戸のプレーパターンを制限できていたはずが、オープンな展開だとそれができずに神戸の選択肢が増えていきます。ガンバの攻撃がブロックに対してやや素直な傾向があるのに対して、神戸の攻撃はイニエスタを中心に、相手を「揺さぶる」単純ではないプレーが多かった印象。対応に思考力を奪われ徐々に脳のメモリーがいっぱいになっていく様相のガンバDF陣。

 決壊したのは79分でした。バックライン近くまで降りてきたポドルスキからのロングフィードに反応した古橋が藤春の裏を取り、完璧なトラップから途中出場の田中順也にプレゼントパス。3-3の同点に追いつかれます。

 ポドルスキのパス・古橋のトラップともにスーパーでしたが、地上戦のウエイトが高かった神戸に振り回され続けた結果、この試合で初めての「低い位置から裏に一発」という選択肢にガンバの守備陣は全く対応できていませんでした。藤春はロングボールへの対応を誤り、両CBも田中順也の飛び出しに反応できず完全にフリーにしてしまっていました。

 是が非でも勝利が欲しいガンバは以降神戸を押し込みますが、こちらは決定機がなかなかゴールに結びつきません。そうなると神戸の攻撃陣にとって、恐慌状態に陥っているガンバの守備をこじ開けるのはさほど難しいミッションではなかったでしょう。

 最後は押し込んだ状態で左右にブロックを振り回され、クリアの判断が遅れた藤春からボールを奪った古橋のラストパスから田中順也がこの日の2ゴール目を決め逆転。宮本監督はその後急ピッチで選手を投入してパワープレーに移行しようとしますが決定機は作れず、ガンバにとっては最悪の形でゲームは終了します。

まとめ:「タラレバ」はあったか?

 ゲームコントロールの拙さを象徴するような2度リードを奪いながらの逆転負け。横浜戦でも感じましたが、ガンバにはゲームプランが「当たった」後の振る舞いがあまりインストールされていない気がします。これはリアリスト的な志向を持つ宮本監督の優先順位付けの部分もあるように思います。

 とはいえ、ゲームコントロールするためのカードがあったかというとそれもまた悩ましい部分です。一番に考えられるのはイエローをもらっていた高を今野に代えようかという部分だと思いますが、今野は人に釣られて引き出されやすいプレーヤーなので、神戸のロジカルな組み立てに対しては逆に穴になるリスクもありました。川崎戦でも4-4ブロックを90分維持するためにスペース管理に強い高を優先していたので、理解はできます。


ー高選手ですが、いい場面も結構あったとはいえ前半の失点と2点目も含めて、すこしもったいない失点もありました。イエローカードも1枚もらっていた中でも90分、引っ張ったのは、ああいう状況でもさらに頑張ってほしいという狙いだったのでしょうか。

その通りです。あの中でやれよというところ。運動量が落ちてきているとか、カードを1枚もらっているという中ででもやりきるんだ、というところはありました。

 試合後のインタビューには上記のような宮本監督のコメントもあったので、高の成長が今後のガンバにとって越えなければならない壁であるという意識もあったかもしれません。

 しかし、結果は結果。川崎戦のように決定機を作らせないブロックを維持できていたならともかく、すでに2点取られているシチュエーションでチームに手を加えようとしなかったのは、宮本監督にとっても後悔が大きいポイントだったのではないでしょうか。

 なぜサブメンバーの起用がこうも遅くなるのか?
 おそらく、今のガンバのサッカーが現状のスタメンに最適化しすぎているからだと思います。守備ブロックの組み方こそオーソドックスですが、それ以外の局面では個人のタレントに依存することが多く、例えるならジェンガのピースのようにスタメンの11人が複雑にかみ合っているイメージです。宮本監督は、1つをすげ替えた時に何が波及するのか?をコントロールできなくなることを懸念しているように思います。

 このままチームを成熟させていくのか、それとも新たなソリューションを探っていくのか。次節は好調広島、その次はナショナルダービーとなかなか落ち着く暇がありません。ただ、VIPトリオを擁する神戸相手でもなければここまでバラバラにされることもなかったと思いますし、そんなにネガティブになる状況でもないと思ってます。

その他、気になったあれこれ

・三浦のコイントスは負け。ホームで久々にエンドを入れ替えずに戦いました。ちなみにここまでのガンバ、ホームゴル裏を背にした時は4得点2失点、アウェイゴル裏を背にした時は3得点8失点です。よし!アウェイスタンド爆破しよう!

・試合前、東城審判へは大ブーイング。審判へのブーイングってマジで意味ないと思うのでやめてほしい。。去年の誤審のことなんてもう覚えてないよ……でも同スタジアムの同カードで同じ審判2回使いまわすってのもどーなのって気がするけど。笑

・山口蛍なんかすげー変わったなー。かつてダービーで見た彼と違って全然ガツガツこないので現地でしばらく蛍だと気づきませんでした。笑 ポジショニングも気が利いてるし、パスもうまいし。サイドチェンジは前からすげーうまかったけどこのサッカーだとよりはまるね。

・パナスタ最多入場者数37,076人!雨でこの人数が集まるのってほんとすごいな!さすが屋根完備、さすが我らの日本最高スタジアム。現地観戦だったけど熱気が充満してて、固い試合するのは観客が許してくれなかったかなー。常にこういう客入りのスタジアムにできたら、ホーム感ももっと強くなるんだろうなー。いやー勝ちたかったなー。勝ってたらすげーサポーター増えただろうなー。勝ちたか(以下無限ループ

古橋さっさと海外行け!

 なんか気が付いたら6000字超えてました。。最後まで読んでいただいた方本当にありがとうございます!負けた試合でこんなに書くのってすげーエネルギーを無駄にした気がするけど、皆さんが楽しんで読んでいただけたのならそれに勝る喜びはありません!うそ!ガンバが勝つ方が嬉しい!
 次の広島戦のレビューは気持ちよく書けますように!

ちくわ:(@ckwisb

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