ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル~スプーン一杯の水、それは一歩を踏み出すための人生のレシピ~

会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
日時:2018/07/06(金)18:30開演

 まず、この作品での尾上右近さんの役柄がイラク戦争の帰還兵ということを知り、ああ、これはアメリカ映画などでお馴染みの、大義があったとは言え、自らの手で人を殺めてしまったことによるPTSD/トラウマの話だろうな。もしかすると、さらに踏み込んで戦争が残したものや命の尊さを問う作品になるんだろうなと勝手に思いながら観劇開始。

 しかし、そんな先入観は開演後すぐに崩壊。イラク戦争によるトラウマというのは登場人物の一人であるエリオットが抱えている問題に過ぎず、他の登場人物は、それぞれ別の問題(悩み)を抱えていた。ドラッグ(コカイン中毒)だ。彼/彼女たちは、エリオットの実母である篠井英介さん演じるオデッサ(ハンドルネーム:俳句ママ)が管理するサイトのチャットルームで繋がっていた。時に罵り合いながら、時に慰め合いながら。バーチャルな空間で、顔すら合わせないまま・・・。

 そんなバーチャル空間に新たな人物。薬物中毒に悩むジョン(ハンドルネーム:ミネラルウォーター)がアクセスしてきたことで、チャットルームでのやり取りは新展開を見せる。

 一方で、サブウエイで働くエリオットにも別の事件が起きる。育ての母であったジニー(オデッサの姉)の体調が急変し、急逝してしまうのだ。

 ここからはオデッサ(ハンドルネーム:俳句ママ)を中心に、オンライン上の人物(俳句ママ、ミネラルウォーター、あみだクジ、オランウータン)と現実世界で悩みながら生きている人物(エリオット、ヤズミン)の話が交錯し、それぞれがそれぞれの反応/行動を取ることになる。これ以上書くとネタバレし過ぎるので、あとは観劇してのお楽しみ。

<感想>

・・・ということで、ネタバレにならない範囲の抽象的な表現で感想を。

 個人的に(勝手に曲解して)面白いなと思ったのは、第一幕は、

  Addiction,Addict(中毒)
 
 の話で進んでいたのが、第二幕の途中から、いつの間にか、

  Addicted To <e.g. You>(病みつき=愛情、夢中)
 
 の話に転がり始めたことだ。
 
 バーチャルな関係性を保っていた登場人物(俳句ママ、ミネラルウォーター、あみだクジ、オランウータン)は、この物語を通してリアルな現実と対峙することで、ネガティブな意味の「Addict」からポジティブな意味の「Addict」へと変容した。

 その触媒となったのは、リアルな世界で苦しんでいたエリオットとヤズミン。この二人がジニー急逝を機に、これまで関わらないようにしていたオデッサ(俳句ママ)と会い、エリオットは昔から心の中に澱のように積もっていた自分の気持ちを吐露、一方のヤズミンは「赦す」ことで、以前よりは自分の心の闇が晴れ、次のステップへ進むキッカケとなった。

 メンタルケアでよく使われる「認知行動療法」。それは、ものごとの捉え方を変えてみることから始まる。よく採り上げられる例だが、「コップに水が半分入っている」状態を見て、ある人は「もう半分しか残ってない」と思うかもしれないが、ある人は「まだ半分も残っている」と思う。出来事・状況・対人関係といった「環境」は変えられなくても、自分自身の考え方(認知)や行動は変えられるのだ。

 この作品のタイトルは「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル」。「たったスプーン一杯の水」と捉えるか、「スプーン目一杯の水」と捉えるか。生きていくために必要なものなんて、実はそんなに大層なものではないのかもしれない。


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