事業者にとって消費税とはどういう税か

■消費者の立場から見た消費税

「消費税」という税は誰もがそれがどういう税であるか知っている馴染みの深い税であると思います。コンビニなどで買い物をする時に、値札には税込み、あるいは税抜きで値段が表示されています。1,080円(税込み価格)とあればレジで支払う金額は1,080円ですし、500円(税抜き価格)とあれば、8%分の消費税相当額40円を足してレジで支払う価格は540円です。

消費者の立場から見たら、消費税という税は何かを買ったり、何かのサービスを利用したり(電車に乗ったり、美容院にいったり)する時に、それらの価格の中に必ず消費税相当額が含まれるという形で負担している税です。

(※この記事では非課税や不課税と呼ばれる取引区分については触れません)

ここで注意したいことなのですが、値引きを受けることなどがあった場合、極端な話税込540円のものを「消費税分まけて」ということで500円に値切っても、「消費税相当分」がなくなるわけではありません。この例でいうと、本体価格が500→463円になり、消費税相当分が40円→37円になるだけです。常に取引価格の8/108 が消費税相当額なのだと考えれば正解です。

■事業者の立場から見た消費税
では今度は事業者、つまりコンビニや美容院の立場から見てみましょう。
事業者は消費者と異なり、三つの立場があります。

①何かを売ったり、サービスの提供をする立場
②何かを買ったり、サービスの提供を受けたりする立場
③消費税という税の納税義務者として税を納税する立場

①の立場では自分の売上側に消費税相当分が常に含まれていることになります。本来500円で売りたいものは消費税分40円を乗せて540円で売ることになります。ここで「消費税分まけて」と40円値切られた場合、これも先ほどの場合と同じで税込みで考えることになります。「消費税40円が値切られた」という扱いにはならず本体価格が500→463円になり、消費税相当分が40円→37円になります。

②の立場は取引の時点では、実は消費者と全く同じです。自分が商品や原材料を仕入れる時、電気代を払う時、全ての取引には消費税相当額が含まれています。

つまり事業者は自分の売上側に消費税が含まれるとともに、自分の原価、経費などの支出側にも消費税が含まれていることになります。

■事業者の消費税納税額計算
さて、では事業者が消費者と最も異なる点、消費税を納税する立場で考えてみましょう。上記①、②の通り、事業者には「売上側の消費税」と「自分の支払う、仕入れなどの原価、経費など、それから自社ビルを建てたりなどの設備投資に関する支出に含まれる消費税」という二つの消費税があります。これと「自分が納付する消費税」の関係はどうなっているのでしょうか?

まず売上側に含まれる消費税(A)、これは事業者はその全額を税務署に納税します。しかし、自分が経費などで支払った消費税分(B)は、逆に全額が還付されるのです。

実際の消費税の申告では、(A)が(B)より大きければ消費税の納付を行い、(A)が(B)より小さければその分は税務署から還付されます。しかしそういう説明より「売上側の消費税は全額を納付し」「原価、経費、設備投資側の消費税は全額が還付される」と考えた方が分かりやすいのではないでしょうか?実際に消費税の申告書上で行われる計算はもう少し複雑ですが、この理解で本質の部分は何も間違っていません。

いかがでしょうか? 例を挙げてみましょう。

スーパーマーケットが店舗で販売する商品を1,000円(税抜き)で仕入れるとします。仕入れ先に支払う金額は税込みで1,080円ですが、この80円は事業者は負担しません。消費税の申告手続きの中で全額還付されます。

自社ビルを1億800万円で事業者が建てたとします。その事業者は建設業者に1億800万円を支払いますが、消費税相当額を負担する必要はなく800万円は消費税の申告手続きの中で全額還付されます。

お客さんとスターバックスで打ち合わせのためにトールサイズのラテを二人分で760円払ったとします。この760円のうち消費税相当額は760×8/108で56円になりますが、この56円は消費税の申告手続きの中で全額還付されます。

その代わりに自分の売上側の消費税、これは売上の税込み価格の8/108ですが、これは全額を納付しなければなりません。

消費税という税の制度設計は、「消費者の最終消費」に税負担を求める税なので、事業者はいつでも税抜き価格でものを買うことができます。つまり事業者は消費税を負担しないのです。 売上側に含まれる消費税は全額を納付するけど、経費側に含まれる消費税は全額が還付されるのです。

■輸出戻し税?
今回の記事は「輸出戻し税というデマ」を否定することが最終の目的です。しかしここまで「輸出」については一切触れていません。輸出なんて別にしなくても、元々事業者は自分が原価、経費、設備投資などで支払った税込み価格の8/108(消費税相当額)は申告により常に還付されるのです。では「輸出」が意味することは何か?それは「輸出売上は免税であり、輸出売上の中には消費税相当額が含まれていない」というだけのことで、輸出売上はどれだけ多額に生じても、消費税をその中から収めることはないよというだけのことなのです。

■最後に
この記事は「事業者にとって消費税とはどういう税か」というタイトルですが、上記の通りで、消費税の申告上の納付/還付額がどう計算されるのかということのみについての記事であり、消費税という税が事業者の経営に与える影響などには一切触れていませんし、それを目的とするものでもありません。また、今回「非課税等」には触れないと書いた通りで、その点には一切触れていません。ここは難しい論点なので、必要なら別の記事にしたいと思いますが、事業者は消費税分を売上側で収入し、仕入れ、経費側で支出するけど、それは最終的にはどうなるのだろうかということをまず理解していただきたいという目的で書いた記事です。

できるだけ会計用語も税務用語も使わないで書いていますが、必要なら条文レベルでご説明しますので、疑問の点がありましたら、ツイートあるいはコメントでご質問下さい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?