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MEDDIC系営業フレームワーク

プリセールスエンジニアのためのセールス入門、今回は、前回のBANT記事の続きとして、もう一つだけ営業フレームワークを紹介します。これまでの記事一覧はこちらをご参照ください。

今回のフレームワークは「MEDDIC系」です。MEDDICおよびその派生であるMEDDICC/MEDDPICCをまとめて「MEDDIC系」としました。いずれもParametric Technology Corporation (PTC) という会社のJohn McMahon氏とDick Dunkel氏によって1990年代に開発、まとめられたそうです(*1)。

MEDDIC系フレームワークは、BANTと同じく「営業フレームワーク」として、営業プロセスを改善し、取引の成立確率を高めることを目的としています。つまり、それぞれの案件について、お客様のこれらの要素を理解し、分析して対応することで、結果的に取引の成立確率を高めることができるという理屈です。内容も規模も異なる案件について、共通の指標で評価し対策できる、それが営業フレームワークというわけです。

MEDDICはそれぞれMetrics(指標)Economic Buyer(決裁者)Decision Criteria(選定基準)Decision Process(選定手続き)Identify Pain(痛みの特定)Champion(チャンピオン)の略です。MEDDICC/MEDDPICCでは、Competition(競合)およびPaper Process(書類手続き)が加えられています。

それでは、各要素を詳しく見ていきたいと思います。

Metrics(指標)

顧客が成功を測定するための指標、つまり聞き方としては「新システム導入後、何が達成できたら導入成功といえますか」となります。答えは、営業支援システムならば受注金額の向上かも知れませんし、別のシステムでは、売上増、運用コスト削減かもしれません。

指標はできるだけ具体的な数字の方が好ましいとされ、提案予定のソリューションで指標の数字を達成できそうなら提案の成功が期待できます。

一方、こちらが数字を聞けばお客様からも過去導入時の数字を求められがちですので、答えにくい場合はあえて主観的・定性的な目標にとどめる、という方法も考えられます。

Economic Buyer(決裁者)

お客さん社内で選定をする上で、最終的に予算を持ち決裁をする人はどういう立場の誰なのか、と言うことです。この人が「ノー」と言ったら買ってもらえません。可能ならば、直接この方とも打ち合わせを行い納得感を持ってもらえるとベストです。

下の選定手続きを先に聞いて、「決裁者はどういった立場の方になりますか」などと聞くと良いでしょう。せっかくなのでお名前も聞いておき、機会があれば打ち合わせ設定を狙いましょう。

Decision Criteria(選定基準)

どのような基準で選定するか、という内容です。先方が横並びで要件を出してきたとしても、必須部分とプラスアルファ(Nice to have)の部分を確認し、それを踏まえた提案をしましょう。

この中で、特に一番重要だと考えるご要件はどれとどれになりますか?」のように聞きましょう。全部必須とおっしゃる場合もありますが、全部が全部そうというわけでもないです。

Decision Process(選定手続き)

例えば、提案書の内容のみから選定するのか、RFPを出すのか、PoC(コンセプト検証)を行うのか、選定途中で競合の絞り込みは行うのか、などです。それぞれどのくらいの期間を掛けるのかがわかると、自然とタイムラインも見えてきます。

これは初回打ち合わせで普通に聞くと教えてもらえる場合が大半です。

Paper Process(書類手続き)

正式な契約締結に必要な、法務部のレビューにどのくらい時間が掛かるのかと言った内容です。大企業ではかなり時間が掛かるケースもありますが、そこの社員にとっては普通なので、ここに認識差異があると販売側が期待していたタイミングで売上目標が達成できない、という落とし穴に落ちかねません。

「これまでの似たようなプロジェクトではどのくらい掛かりましたか」などと聞けば普通に教えてもらえますので、時間が掛かりそうな場合はNDAや契約書のひな形を先に見てもらうなど準備を前倒ししましょう。先方が前倒しに及び腰になる場合は、まだ受注確度がそこまで高まっていないことがわかります(書類手続きが長くない場合も、受注確度の確認のためにこの方法を利用できます)。

Identify Pain(痛みの特定)

以前の記事「ノーペイン、ノーチェンジ」にも書きましたが、MEDDPICCのうち最もプリセールスとの関わりの深い箇所です。特定とありますが、痛みは複数ある場合も多く、気づいている痛みのほか気づいていない痛みがあることに注意が必要です。

Competition(競合)

競合は必ずしも他社とは限らず、自社開発する場合や、導入そのものを行わない、という可能性もあるので、それも含めて「弊社以外の選択肢はありますか?」などと聞きましょう。

加えて「他社とはもう打ち合わせされましたか?」「お会いになった会社のうち、今のところここが良さそうだな、というところはありましたか」などと聞くと、教えてくれることもあります。

営業の初期段階では警戒してそもそも他社の名前も教えてくれない場合もありますが、信頼関係ができてくると教えてくれることもありますので、どんな競合を検討していたかはメモしておいて繰り返し状況を確認するのがポイントです。

Champion(チャンピオン)

我々のソリューションを気に入って社内で推してくれそうな、決裁に影響を及ぼすことができる人です。Economic Buyer(決裁者)と同じ場合もありますが他の人でも良いです。例えば決裁者は役職者でも、一人で決断するというよりは、この人の意見を聞き入れて選定する、というようなことがあると思いますがその立場の人です。

チャンピオンを味方に付けることができれば成約率は高まりますが、チャンピオンと似て我々を気に入ってくれてはいるものの選定への影響力がない「コーチ」もあり、チャンピオンの確認は簡単ではないです。そもそもはっきりしたチャンピオンがいないお客様もいます。


さて、以上MEDDPICCの各要素を説明していきました。

もう一つの営業フレームワークであるBANTは、内勤営業がフィールドセールスに案件を受け渡すために利用できる、とあったように、営業の初期段階で確認できる内容でした。一方で、MEDDPICCは何度も打ち合わせする中で確認すればよく、そもそも初期段階では他にも聞くべき大事な内容は色々あるので、無理に多くを聞こうとするよりは、話の流れや温度感を大事にしましょう。ただし、セールスステージが進むにつれてMEDDPICCを意識し、把握できているものと把握できていない物を確認し、打ち合わせにて確認を進めることで、失注の恐れや契約遅延の恐れを減らすことが可能になります。

今回の記事は以上です。記事に「スキ♥」を押してくださったり、私をフォローしてくださると励みになります。
BANT、MEDDICと営業フレームワークの話が続きました。次回の記事では、技術に関するコミュニケーションでも活用できる、質問の使い分けについてのお話をする予定です。


質問の使い分けについての記事、公開しました。


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