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飲食ビジネスの脱「マッチョ」経営 / FOODIT 2019登壇

美食倶楽部の立ち上げから多方面にお世話になっている、カフェカンパニー楠本さんにお声がけいただき、”外食産業の未来を考えるカンファレンス” FOODIT  TOKYO 2019“に登壇させて頂いた。

セッションのテーマは「さらば『マッチョ』な経営スタイル〜飲食ビジネスの新しい価値観〜」。楠本さんをモデレーターに、ベトナムで知らぬ人はいないというピザチェーンを展開するPizza 4P`sの益子さん早苗さんご夫婦、話題沸騰の渋谷「かつお食堂」かつおちゃんこと永松さん、そして僕。楠本さんの思う「脱マッチョ」な飲食ビジネス事例として、美食倶楽部の話をさせていただいた。

子ども達にピザワークショップやったり店の敷地に畑や池を設置して循環農業を行なったり。Pizza 4P`s がイケすぎててびびった。

飲食における脱「マッチョ」経営とは

まずは、楠本さんが提示した脱マッチョ経営の定義を紹介する。

①売上を最終目標とせず、様々な課題に貢献するための企業活動であると自覚している。

② 食をこれからの未来の人類にとっての最大の課題として捉え、持続可能な活動を実践する。

③ 人の心と体の健康に寄与する要素を取り入れている。

④ 地球環境に配慮した活動を、経営の中に取り入れている。

⑤ 社員や地域社会、その他多くのステークホルダーを巻き込みながら、様々な食の発見、食育活動などに取り組んでいる

食べる通信」や「ポケットマルシェ」と、ここ10年近くソーシャルビジネス界隈にいた身としては、逆にこういった要素のない企業は違和感があるくらいになってしまった。地産地消や自然との調和を提唱した北欧ガストロノミーの雄nomaの登場は2003年。そこから考えるとまだまだな印象のわが国の外食産業だが、こうした流れが今後加速するという指摘は素直に嬉しい。

奪い合ったら減るけど分け合ったら増える

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さて、我々の展開する美食倶楽部と脱マッチョ、である。特に意識をしていなかったが、せっかく頂いた舞台なので自分なりに整理をした。そしたら死ぬほどマッチョじゃなかった、という話を当日したのだけど、登壇者も多く話しきれなかったので考えた内容をここに書く。

まず僕が前提として置いたのは、人口が減るわが国はもう成長しないというものだ。これは議論のあるところだろうど僕はそう思っている(国内だめなら海外、というのは正しいけど強者のためのマッチョ思想の典型)。成長しない世界では、分け前を奪い合う=ゼロサムの競争という前提から、分け合ったら豊かさが増えるという考えに転換することが生存戦略となる。

分け合ったら増える。あーこれだと思い浮かんだのは、リンゴだった。リンゴを2人で食べたら食べられる量は減るけど、一緒に食べるた方が美味しいし、幸せになる。会話が増え、共有する時間が増える。弱肉強食の自然界で、唯一人間だけが、一緒に食事する動物だと誰かが言っていたことを思い出す。食産業こそ、成長しない時代に幸せを増やすことができる分野なのではないだろうか。

美食倶楽部の追う軸は「幸せの総量」で、そのソリューションは「みんなが一緒に食べる」場をプロデュースすること。そのためのco-cooking。1人でかきこむコンビニ幕内弁当よりも誰かと食べる一汁一菜は、きっと幸せに満ちていると僕は信じるから。

ババ抜き構造から脱却する仕組み

ビジネスは往々にしてゼロサムだ。誰かが得すれば、誰かにしわ寄せがいく。外食などは非常に分かりやすい。利益をあげるためには売上を上げるかコストを下げるかが必要で、できるだけ安い仕入先を探す。(ゼロサム構造を破壊するイノベーションそして爆発的生産性は大歓迎だが、外食などのリアルなサービス現場では起きづらいように思う)。

こうして川上(生産サイド)に値下げ圧力がかかる。グローバルな市場経済は安い調達先を探してくるのに長けている。ここがだめならあそこ、そこもだめならアジア、そしてアフリカへ。ババ抜きのようにしわ寄せ先を押し付け合い、だから偽造とかが起きているのだろう。疲弊するマッチョな構造だが、店舗側としては切実なのでそこから抜け出すことは非常に勇気のいることだ。

美食倶楽部は仕組み的にこうならないところが気に入っている。外食産業におけるメインコストはF(フード。食材原価)L(レイバー。人件費)と言われるが、食材はユーザーが自分で買ってきて調理をするため、倶楽部運営側としてこれを下げようという圧力がはたらかないのだ。そしてLも、調理や配膳といったサービスを提供しないため圧倒的に低い。安い労働力をサイクルにもならない。

キーは「サービス提供範囲」の設計だ。ゼロサムの世界ではコストの押し付け合いがどうしても発生する。そして、「お客様とサービス提供者」という関係性の中で、全てを「商品」や「サービス」として値札をつけ、お金を介在して価値交換するから、その範囲が広くなってしまう。たとえば美食倶楽部は「料理」「配膳」などをサービスから外している通り、サービスとして提供する範囲の枠組みを少し変えるだけで、ゼロサムの外で価値交換が行われる転換を遂げられる。

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(壇上でカツオを削りはじめたかつおちゃん。こういうサービスは疲弊しない)

「お客さま意識」が変わっていく体験型メディア

僕が前提にしてきているゼロサムの世界は資本主義のルールではあるが、その主役は消費者だ。消費者が求める「もっといいものを、もっと安く」を実現するために各地で消耗戦が繰り広げられている。

成長しない日本で幸せの総量が増えるための本質的な構造変化を起こすには、この消費者マインドに切り込むことが本丸となる。そして勿論、一番時間がかかり、難しい。

情報は溢れてるけど体験が不足している昨今。人が変わるのは人から与えられた「情報」じゃなくて、自ら選んだ「体験」からであることは間違いないだろう。美食倶楽部は料理をして食べる場であると同時に、食材や器、シェフなどと出会って試すことができる「体験型のメディア」でもある。日々、農家や漁師、窯元さん達とコラボしながら実際に試す機会を提供している。

自らの手で触り、調理することにより、食材への興味やそれをつくる生産者へのリスペクトが生まれる。自然のサステナビリティが、自分ごとになる。上質な体験をプロデュースすることで、美食倶楽部は脱マッチョな価値観への変革装置になる可能性がある。いや、なる。長い時間をかけて、これをやっていきたい。

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(立ち見が入りきれないくらい出た。みんな脱マッチョしたいのかなあ)

貴重な機会となったFOODIT。話しきれなかったことをここに書きましたが、自分なんかには過分な大舞台への登壇機会をありがとうございました。(本間勇輝)

↓Webサイトが新しくできました!(写真をクリック)↓

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