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「ハーメルンのバイオリン弾き」リュート王子への偏愛をぶちまける

・私のオタク歴

初めて全巻集めたのが「聖闘士星矢」。感想?をノートに書きまくったのが「幽遊白書」。その次にハマりこみすぎて、最後にはマンガを全て破棄させられるにいたったのが「ハーメルンのバイオリン弾き」だった。

※「ハーメルンのバイオリン弾き」未読の方はお読みにならない方がよいです。詳細なネタバレあり。「ハーメルン? なっつかしー」勢はよかったらどうぞ。なお、後半かなり残酷な描写が話題になるので、ご注意ください。
 
ハーメルンのバイオリン弾き 13巻 (ココカラコミックス) | 渡辺道明 | マンガ | Kindleストア | Amazon

・キャラデザの勝利

渡辺道明による「ハーメルンのバイオリン弾き」は、「鋼の錬金術師」以前の少年ガンガン看板作品の一つ。さほどメジャーではなく、中盤以降のグダグダやら作画の崩れやらで、正直なところいわゆる「名作」カテゴリーには入れにくい、とファンの私でも思う。ただ、べらぼうな「勢い」と「熱気」があった。

そしてキャラクターの表情やデザインが秀逸。
特に、「冥法王ベース」のキャラデザに当時中学生だった私は打ち抜かれた。
 
重たげな軍服を着た死んだ目の少年が、片手にオッサンの生首を携えている…!
 
稀に見る天才的なデザインじゃないですか。デザインそのものにドラマがある。
 
生首のオッサンがしゃべり、冷たそうな美少年が魔法を発動。こいつらどういう関係なんだ…とずっと思っていたら、序盤のクライマックスで、この少年は実はヒロイン(フルート)の兄、リュート王子だと判明する。彼は15年前の大戦で殺されて以来、冥法王ベース(生首のオッサン)の操り人形として動いている…
 
ダメだツボすぎる。
中学生だった私は7巻のカバー裏に描かれた生前のリュートを飽くことなくガン見した。
そしてハーメルンを一刻も早く読みたいがためだけに、ガンガンを早売りしてる2駅離れた書店を毎月襲っていた。
 
リュートは登場時から死体あやつり人形闇の貴公子ヒロインの兄囚われの王子
絶大な法力を生首のオッサンに利用され、悪の組織で無表情に殺戮を続けている。
設定てんこもりすぎるだろ!
 
基本的に仏頂面の冷たい顔だが、ときどき表情の変化(驚いたり)があってかわいい。
この微妙な表情の変化については、作者がどこまで一貫した設定を考えていたかあやしく、その場のノリで表情をつけていたんじゃないかと思われるが、それがまた功を奏した。ノリ大事。

・衝撃の過去編「リュート物語」

長い連載で少しずつ描かれ、小出しのアクションあり、魔族どもとの絡みあり、妹・フルートとの敵味方での邂逅ありで、満を持しての過去編「リュート物語」。

これが圧巻だった。
 
意志持たぬ悪の手先とはうってかわって、キラッキラ笑顔の、表情豊かなかわいい王子様。魔族を打ち砕く、人類の希望の光。ハーメルンキャラ全員必修のギャグシーンもお茶目にばっちりこなしちゃう(笑)
この後の過酷な展開を最大限に引き立たせる、ギャップの凄まじさ。リュートを知らずにギャップ萌えを語るなと言いたい。

必殺技がまた、中2っぽくてすばらしい。
「聖魔炎滅」 で、「ジャスティス」 って…いや、もはやなにも言うまい

見た目から、せいぜい14~15歳。ホルンお母さんやフルートとのやりとり見ても、「お子さま!」って感じ。幼い。
育ちのいい、天然ボケのかわいい王子様…
若干暴走気味だけど正義感にあふれる、無敵の大神官…
たった一人で人類の運命を背負って戦い続けることに疑問も持たず、自分が負けるなんて想像すらしない無邪気さ。
ホルンお母さんに「がんばってね」って言われて、「はいっ」て返事して笑顔で出ていくリュートは天使にしか見えない。
こんなかわいい良い子が、「人類の守護神」などという大役を引き受け、たった一人で血みどろの闘いに身を投じなければならないとは、なんと残酷なのか。
(リュート物語を読むと、「周りは何してんねん!!!」と言いたくなる。真の孤軍奮闘とはこれのこと。リュート王子はひたすら孤独だった。頼れる仲間がいなかったのが最大の敗因なのではないかと…)
 
 
※※※この先 残酷描写 注意※※※
 
魔族軍襲来からリュート惨殺まで、信じがたい強烈シーンの連続。ハーメルンは残酷描写が多く、主要キャラはヒロイン含めてみんな流血しまくるが、リュートの場合は本当に「惨殺」。しかも公開処刑。国民と、女王である母親の前で。

驚異の力で魔族を圧倒しドラムもピックも瞬殺、「勝てる!」と思うところまでいっての、冥法王ベースとの対決、そして敗北。無敵の守護天使が、悪の首魁にまったく歯が立たずにボロボロに打ち負かされるさまは壮絶の一言に尽きる。両腕は折られるわ、服は破かれるわ。(服を破く必要性は謎だが演出としてはよくやってくれたと言いたい)
2回目の「ジャスティス」発動でベースの体を首を残して燃やし尽くすところまではいくが、それでも倒せない、ってことに呆然とするリュートがあわれでたまらない。
 
さらにベースの運命の告白。
「お前の若い肉体をわがものとする」!!
 
違う、私の妄想じゃないんだ、本当に原作がそうなんだ

いたいけな少年に迫るむさいオッサンの生首。ホラーだろ。顔近すぎだし。
 
もう十分すぎるくらい衝撃的なシーンが続いているが、ここからが目を覆いたくなるほどの惨劇。
人質に取られた妹に向けて両腕を差し伸べようとしたが・・・のくだりの痛々しさは半端ない。少年漫画史上屈指の痛さだと思う。もう書けない。

最後の「血祭り」の場面がね…とどめですよ。読者に。「血祭りにあげる」の例のイラストとして採用すべき。(なに言ってんだ)
死んでまでこれほど徹底的に嬲られる正義のキャラクター(しかも子供)を私は他に知らない。
 
凄絶ながら、このシーンには背徳的な美が漂っている。あれをよく少年誌で掲載できたな。もしハーメルンがワンピース並みにメジャーであったら、間違いなくPTAから抗議が来ていただろう。

こうして、純粋無垢な正義の王子様は真っ暗闇に堕とされ、悪の傀儡となって15年あまりに渡って使役される…
 
 

・記憶に残る名キャラクター

・キャッチーなデザイン
・「冷たい・ミステリアス」→「かわいい・天然」→「凛々しい・強い」→「痛々しい・耽美」の4段変化
・人類最強かつ囚われのお姫さまポジション
・30巻あまりかけて開陳されるストーリーの奥深さとキャラクターの幅の広さ
「リュート/ベース」は少年漫画史上に残るべき名キャラクターであると私は思う。
 
作品自体がもっとうまくまとまっていたら、リュートももっと知名度が高かっただろう。「名作になり損ねた名作」の惜しいところだ。それでも彼の光と闇の輝きは鈍らない。
 

リュート巻だけ今手元にある。
12(オルゴールとの絡みあり)・16(オルゴールお仕置き回とヴォーカルとの絡みあり)・18(ヴォーカルに迫られる回あり)、そして24~26のリュート編。

作者もリュートへの思い入れはかなり強かったようで、「続ハーメルン」のオマケ漫画「冥界プリンスリュートくん」では天然でかわいいリュートくんが無邪気に地獄と天国を闊歩していたりする。
生前不幸続きだったキャラを幸せにしたいのは読者も作者も同じなんだな、と慰められる。
 

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