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相談事例と天風哲学(事例12-②) 17

 (部品製造業の例-12) ②
 厳しい現状を数値などで客観的に説明、ソフトランディングを選ぶには相当の覚悟と厳しい手続きや取引先等との折衝が必要であることを伝える。あとは社長の意思決定を待つことになるが、最終的にソフトランディングによる廃業を選ぶことになった。
 
 まず、廃業する日時(Xデー)を明確にしなければならず、その間の資金繰りのスムーズ化に取り組む必要がある。そのため資金繰り表の作成を依頼するものの、当社では資金繰り表を作成したことがないため、資金繰り表を持参してその作成の仕方などを教えながら、現状の把握に取り組んだ。
 
 同時にXデーまでに準備できる現金の額、そして、それまでに必要とする額はどの程度なのかなどを資金繰り表に沿って時系列にまとめた。資金繰り表における入出金の状況、手形期日、受注残や受注の状況、在庫の状態などを十分に検討し、また、娘夫妻の就職先の検討などを考慮してXデー(破産をする日)を決定した。
 
 Xデーまでに資金繰りがショートしないよう、資金繰り表をベースに対応策を検討した。特に11月時にかなりの額の手形決済があり、資金不足が発生する恐れがあるため、12月入金予定の売掛金を前倒しで入金できるよう交渉する。また、返済金などもなるべく圧縮するため、機械売却のための手続きや遊休資産(土地)の売却のため不動産業者の手配などを行った。
 
 ほぼソフトランディングの見通しが立った時点で借入先である金融機関(2行)にも廃業する旨を説明した。1行については残高が僅かなので完済は可能であるが、残りの1行についてはリスケによる少額返済に切り替えることにした(結果的には、親戚からの借入で乗り切った。また、遊休資産についても売却が決定した)。
 
 Ⅹデーを決めてから、それに向かって具体的な方策を決めることができたのが何と言っても救いとなったのである。一般的には明日の資金もなく、借金返済、買掛金や未払いに追われ、税金、社会保険の滞納も日常化している状態では余裕をもって策を練ることができないからである。
 
 この事例を振り返ると、相談当初から希望していた法的処理を避け、自主的な廃業として処理ができたことは成功例として挙げられよう。この要因の第一は、重症化してからの相談ではなかったという点が挙げられ、売上減少や資金繰り悪化が見え始めた早期相談であったこと。
 したがって、当面の資金繰りを何とか乗り越えながらの処理であったが、最悪の状態に陥るには多少の時間があったことが幸甚した。
 
 さらに、取引先や親せき、支援機関などからの支援があったことも大きな要因となっている。特に取引先は売掛金の早期支払い、在庫の買い上げ、中古機械の斡旋売却に積極的に応じてくれたことである。
 
 天風氏は、「事業をしている人、その心に信念があるか。どこまでも人間をつくれ、それからあとが経営であり、あるいはまた事業である」という言葉が浮かぶ。今回の事例がうまく運んだ要因として、社長の人間性がしっかりしていることが挙げられる。商売や事業は一生懸命努力しても時代によっては避けて通れない場合もある。しかし、人間性として問題がなければ、意外と支援・協力してくれる人達が現れるものである。

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