女性研究者の「姓」について:東京大学の卒業・修了証明書発行ルールが意味不明な件

私は東京大学の学部を卒業したのち,同じ東大ではあるがそれぞれ別の大学院修士課程,博士課程を修了した。現在,大学教員ではないが広義の「研究者」として働いている。

今年(2019年)に入って転職をしたのだが,新しい職場から出身学部と大学院の卒業(修了)証明書と成績証明書の提出を求められたので,久々に大学・大学院にコンタクトをとった。その際,証明書の「名前の表記」ルールが,東大内部でも学部・研究科ごとにバラバラであることを知って唖然としたので,簡単な体験記としてここに記しておきたい。

なお,以下基本的にすべて実話だが,身バレを防ぎたいので細かい所属先,研究内容等をぼやかして記述していることを予め断っておく。

学部・大学院遍歴と結婚そして離婚

まず私の経歴を説明する。21世紀になって間もない頃,私は東京大学教養学部に入学した。その後3年次から,東大独特の「進学振り分け制度」というシステムで,教養学部後期課程に進学した。
(「進学振り分け制度?そもそも教養学部の後期課程って何?」という方もいるとは思うが,本筋とは関係が薄いし長々説明するのも面倒なので,気になる方は他所のサイト等を参照していただきたい。)

さて,その教養学部卒業後,ある民間企業に就職して数年間働いたのだが,その間に学部時代から付き合っていた男性と結婚し,姓が変わった。ここで旧姓をAとし,結婚して当時のパートナーの姓Bになったとしよう。

数年間経って,経済的余裕が出来たこともあり,会社を辞めてかねてより希望していた大学院の修士課程に進学することにした。取り組みたい研究テーマが学部の卒論と少し異なったものだったので,修士課程では東大内のよその大学院を選んだ(運よく院試に合格できた)。
ここでは,出願・受験から学生証の表記,さらに修士論文の提出名に至るまで,すべて当時のパートナーの姓であるBを用いていた。

修士号取得後,博士課程に進学することにしたのだが,残念ながら修士課程のときの指導教員がほぼ同じタイミングで東大を退官し,私大に移ってしまった。いろいろ相談・検討して,その先生の共同研究者で私も面識のあった別の先生の研究室に入ることになった。
その新しい指導教員は,同じ東大とはいえ別の研究科の所属であり,私も修士課程とはまた別の研究科の博士課程に進学することになったのである。(博士課程の院試も,英語とプレゼンメインではあったが運よく合格できた。)

博士課程1年目の夏,当時のパートナーと離婚する決断をした。博士課程進学以前から揉めてはいたのだが,最終的な決断には時間がかかってしまった。この時点で姓がBから旧姓のAに戻り,大学院には「改姓届」を提出して再びAを名乗るようにした。離婚のストレスもある中,修士論文をベースに学術誌に投稿したり,新たな研究を行ってこれまた学術誌に投稿したり・・という今振り返っても大変な日々だったが,何とか数年後に博士論文を無事提出して博士号を取得することができた。(博士の学位記には旧姓のAが記されている。)

その後,知り合いの先生にある組織の研究職を紹介していただき,そこに勤めることになった。この最初の就職時には,はっきり記憶していないが,確か博士課程の修了証明(学位取得証明)と指導教員の推薦状,あとは研究業績一覧と履歴書のみ提出したような気がする。

働き始めてしばらくして,ある契機に現在のパートナーと出会い,ほどなく結婚(私にとっては再婚)することになった。ここで再び(三たび?)姓が変わり,旧姓のAから現在のパートナーの姓Cになったのである。
以後,職場ではCを名乗り,学術誌への投稿の際は基本的にすべて旧姓のAを用いることとした(学会発表では,カッコ付きで併記したりもしたが)。

卒業証明書・成績証明書の「姓」がバラバラに・・

さて,問題が起きたのは今年(2019年)になり,海外の機関での(期限付き)在外研究が決まってからのことである。その組織は,入所(?)の際,大学学部以降すべての学歴について,英文の成績証明書および修了証明書を提出する必要があると言う。

「少し手間だがまぁしょうがないか・・」くらいの気持ちで,これまでお世話になったそれぞれの学部・研究科の教務課にコンタクトを取り,上述の改姓歴についても説明したのだが・・・。なんと,証明書に記される名前(姓)について,同じ東京大学であるにもかかわらず,以下のようにルールがバラバラなのである。

1)教養学部前期課程:
   在学・卒業時の姓でのみ発行可
2)教養学部後期課程:
   在学・卒業時の姓,または現在の姓で発行可
3)某研究科(修士課程時代):
   在学・修了時の姓でのみ発行可
4)3とは別の某研究科(博士課程時代):
   在学・修了時の姓,または現在の姓で発行可

私の場合,結婚・離婚で姓が変わっているため,以下のようにとてもややこしいことになるのである・・。

1)学部前期課程の証明書:
   旧姓(父親の姓)A
2)学部後期課程の証明書:
   旧姓(父親の姓)A,または現在の姓 C
3)修士課程の証明書:
   当時のパートナーの姓 B
4)博士課程の証明書:
   旧姓(父親の姓)A,または現在の姓 C
(なお,戸籍およびパスポートの名義は当然ながらCとなっている。)

結局「A,A,B,A 」という名義で証明書を発行してもらい,現在のパートナーとは別に結婚・離婚歴がある説明を添えて先方に提出せねばならなかった。
場合によってはその改姓歴を示す戸籍関連の証明まで求められるかと思って(英訳まで含めて)慌てて準備をしていたのだが・・・結果としてはそれは不要であった。

私のようなケースは非常にレアだとは思うが,似たような事情で不便を感じる女性(男性も)は一定数存在するのではないかと推察する。

私個人としては,先方に離婚歴を知られてしまう苦痛・デメリットはもはや殆どなく,手間がかかって厄介だったなぁくらいで済んだのだが,人によっては精神的に非常に負担がかかるのではないだろうか。

同じ大学であっても,学部・研究科ごとに制度・ルールがある程度異なるのは,まあ普通のことであるし,完全に同一にせよと言うのは非現実的だと思う。

だが,私のケースのように,複数の学部・大学院を渡り歩いたり,その間に結婚・離婚等で姓が変わる人間も少ないとは言え存在しうるのだから,証明書の名義のルールくらいは,大学として統一してくれよ・・と思った次第である。
(特に教養学部は,前期と後期でルールが違うという謎の状況であり,私にはまったく意味が理解できない。)

とはいえ,世の中には「大学全体として,在学・卒業時の姓でしか証明書を発行していない」という大学もおそらく多いだろう。
そう考えると,一部の学部・研究科だけとは言え,現在の姓名での証明書発行が可能となっているだけ,東大はまだマシなのかもしれないけれど・・。

それにしても,そのバラバラ加減が釈然としないと言うか,唖然としてしまったというのが,正直なところなのである。(了)

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