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小説|ともに生きる

職場は社長と営業3人、事務員1人の美容機器を扱う商社。立ち上げ10年も満たない会社だが、近年の美容ブームもあり売上も順調に上がっている。

梶野敏夫は、会社が設立したばかりの頃に社長に誘われ入社した。勤続7年、現在も社長の片腕として働きながら、去年入社した新人にも仕事を教えていた。
敏夫は結婚して10年になる妻と育ち盛りの6歳の息子がいる妻帯者。普段の仕事後は寄り道もそこそこに夜は早めに帰宅して、休みの日は家族で出かける良き夫。

小川珠美は将来起業したい想いを胸に、自分のスキルアップのために初めて営業という仕事についた。
この会社ではそれぞれ個々の仕事に集中していながら、みんな優しく接してくれてとても有難かった。将来結婚や家庭を築きたいという気持ちもあるが、今は仕事に集中すると割り切って、誰とも交際もせずに独り暮らしを満喫する女子。

敏夫はいよいよ会社が成長するにつれ、自分が今までしていた営業業務以外の仕事が増えてきたため、新人の小川珠美に仕事を教えながら引継ぎを兼ねて、営業まわりなどを常に共にしていた。

敏夫と珠美は、はたから見ればとてもいいコンビ。お互い言いたいことを遠慮なく言い合ったり、そうかと思えばお互いのことを気遣ったり、上司と部下というよりまるで恋人同士のように息のあう二人だった。

ある日、敏夫が帰宅すると妻が高熱を出し寝込んでいた。妻ノリコは「ご飯は作れたけど、息子に食べさせられなくて。お願いできる?」と敏夫に頼んだ。
「ノリコ、大丈夫か?息子のことはやっておくから心配しなくていいぞ。少し休めば熱も下がるだろうから、ゆっくり休んでおくんだぞ」敏夫は息子の面倒をみて、妻を気遣いその日は息子の部屋で寝た。

朝になり妻の様子を見に行くと、まだ熱が下がっていない様子だった。
息子を学校へ送り出し、妻を病院に連れていこうかと思ったが、午前中に大事な会議が入っていた。
「ノリコ悪い、今日午前中会議があって行かなきゃならないんだ。なるべく早く帰るようにするから、帰ったら病院行こう。」
「うん、ありがとう。待ってるね。」
敏夫は仕事へと出かけた。

敏夫は出社して会議の準備に取りかかろうとした。「あれ?あの資料どこにいったっけ?あ!そうだ小川が見せて欲しいって言ってたから渡したんだったっけ」
「小川!」と呼んだが返事がない。
すると、近くを通った事務員の山田が「小川さん、今日体調不良で欠勤ですよ。」と教えてくれた。

敏夫は困った。少し考えたが、珠美の体調も心配だし電話をかけることにした。
「プルルル  プルルル  プルルル、、、」
何度かけても出ない。
「あー、なんでアイツ出ないんだ。直接話した方が早いな」敏夫は何度か珠美を自宅前まで見送ったことがあったため、直接家に行ってみようと思った。会議までの時間も迫っているため、敏夫は慌てて会社を出た。

珠美の家に着きインターホンを鳴らした。

「ピンポーン」
何度鳴らしても出てこない。

ためしにドアノブをひいてみたらドアは施錠されず開いていた。

「!?!?」

様々な感情が入り、高揚していた敏夫は何も言わずにドタドタとそのまま家に入っていった。

、、、すると珠美はベットで寝ていた。

「おい!! 小川?! 大丈夫か?」
慌てていた敏夫は、珠美の肩を軽く揺さぶりながら言った。

「、、、あ、、先輩。どうやって入ったんですか?(⊃ωー`).。oO」
珠美は眠い目をこすりながら返事した。

「お、小川!よかった。どうやってもなにも、鍵が空いてたぞ。心配でそのまま入ったけど、身体は大丈夫なのか?」
「、、大丈夫です。しばらく寝不足が続いてて、今日は身体が少しだるくて、会社に欠勤の連絡したあと、また寝てしまいました。」

「おい、心配したぞ。とりあえず気を失ってないようで安心した。あ、体調不良って聞いてたから、少し買い出ししておいたぞ」と、いっぱいに食料が入ったビニール袋がキッチンテーブルにのっていた。
「あ、ありがとうございます。あんなに沢山。助かります。」ू(ᴗ.ᴗू`)₎₎ෆ ペコリ
「おまえ、本当に大丈夫か?まだ顔色悪いし、今から病院に連れてくから少し着替えろ」
「え!そんな、先輩大丈夫です。自分のことは自分で何とかします。」と珠美は立ち上がろうとしたが、立ちくらみでまた寝てしまった。

「ほら、そんな強がりばかり言っても、俺には通用しないぞ。さぁ、早く病院に行くぞ。お前が着替えてる間、少し外で一本電話してくるから」
と、敏夫はそそくさと鞄だけ置いて外に出ていった。珠美はまだ少し寝ていたかったが、敏夫の強引さに根負けし、珠美も言われるがままに、簡単な服に着替えて準備した。

敏夫は会社に会議に出席できなくなったことを伝えて、珠美を病院に連れていった。

……続く

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