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編集者の本音ーー編集者の「大丈夫です!」はどこまで当てになるか?

8月6日配本で担当の書籍が発売になります。

中山祐次郎さんの「医者の本音」というタイトルの新書です。

タイトルにあるように、外科医である中山先生が、普段患者に伝えることのない「本音」を包み隠さず書くよ、治療や薬のことはもちろん、金、女、死…包み隠さず明かしますよ。

と、そんな本です。

実は本書はタイトルで少しもめました。

「医者の本音」では、まるで著者である中山先生が医者を代表して、最大公約数の「本音」をぶちまけるような見え方をしてしまう。そうではなくて、あくまで本書は「医者・中山先生」の「本音」。正しくは「イチ医者の本音」ではないか? それが読者への誠実さではないか?

という議論だった。

その意見はわかる。でも、インパクトが弱い。担当編集としては「医者の本音」でいきたい。意図を説明して、理解してもらったからこそ、今、こうしてこの本が出版されているのだけど、著者である中山さんに「本音」という大きな塊を留保なしでかぶってもらった手前、自分でも何かそれに報いることができないだろうか…。

そう思って、<シリーズ・編集者の本音>を数回書いてみることにしました。

「編集者の本音」、なんて大仰なタイトル……。

医者の本音を書く資格が、著者である中山さんにあるのは間違いないが、どう見積もっても編集者の本音を書籍編集歴たかだか7年のペーペーの僕が書くのはお門違いだ。大先輩、ベストセラー編集者の方をさておいて「代表的意見」っぽいことなんて書いてるんじゃないよ、とツッコミが来そうだ。(しかも誰にも依頼されていないのに!)

ここは穏便に、「イチヘンシュウシャの本音」にしたい。。

と、中山先生の苦悩(の千分の1くらい)を少しでも理解するために、書いてみます(数人しか見ていないノートではなく1万部以上をすって、全国の書店に並べられる出版物を書くプレッシャー。その覚悟とそこに至る苦悩はいかほどか…)

しかし、胃が痛い。

***

ではさっそく、[医者の大丈夫!はどこまであてになるか?]

へのオマージュとして、
「編集者の大丈夫!売れますよ!はどこまであてになるのか?」

について考えてみます。

編集者とやり取りをすると、タイトル、企画、カバーデザイン…とさまざまな提案を受けることになる。書き手の方がいちばん気になるのは、「趣旨はわかったけど、それで本当にうまくいくの???」ということではないか。そこで編集者は、最終的に「大丈夫ですよ!売れますよ!」と答える。その根拠は一体どこにあるのか?

言ってしまえば、確証なんて、ほんとうに何もないです。

なにが売れるか、理論立てて、いろいろと語る人がいますが、あれは全部後付けです(笑)。

でも絶対的な理論(方程式)はないかもしれませんが、個々人の中に「仮説」があるのはたしかで、みな、それに従って、右に行くか左に行くか、判断しているのです。

もし書籍編集のプロとそうでない人の視点で、大きく異なることがあるとすると、それは「本が書店に置かれたイメージで考えられるか」ではないかと思うのです。

どういうことか。本は1冊でポンと置かれて読者の目に触れることはなくて、何千、何万冊の中から見つけてもらって初めて、読者との感動の対面を果たすのだという事実です。

たとえば、こんなことがあります。

カバーデザインをPCだけで見る。すると、色を2色しか使っていないから、どうも寂しい。もう1色使って目立たせればいい。しかも帯の書体ももっと大きくすればいい。実際に書体のQ数(フォントの大きさです)の指示を入れられる方もいらっしゃいます。

しかし、その本を単体で、しかもPCという狭い画面上で見ていて、どこまで有益な議論につながるでしょうか。それが書店で「ほんとうに目立つのか?」絶対にわかりっこありません。僕もついこの間、デザイナーさんに言われてしまいました。

「1〜2色しか使っていないデザインはそれだけで見ると寂しいけど、いろんな色や写真がごちゃごちゃした書店の中に入ると、その全体のキャンバスの中では、確実に存在感を出せる。色をたくさん使うと逆に個性がなくなる」

色を無駄に加えようと提案して叱られたのですが、それも1冊単体ではなく、書店という宇宙の中でいかに目に留めてもらうかを考え抜いた仮説のひとつでしょう。

そのため、編集者は表紙のラフを持って、実際に書店店頭に並べたりします。そして、一度意識を切り離して、購入者のようにふらっと棚の前にたち、ほんとうに担当作が目に入ってくるかをたしかめています。なぜなら、実際に自分の目で見ないと、いけるかどうか?はわからないからです。

僕は、本のサイズ(新書であれば、103×182)という同じ枠の中に文字を置き、競う、このスタイルに華道や茶道のようなわびさびを感じてしまいます。決して、文字を大きくすれば目を引くわけではない。余白の使い方。文字を足すか、あるいは引くのか。どこまでいえばわかってもらえて、どこまでが言い過ぎなのか。それも、それぞれの本で読者は異なり、その心を想像して、文字を並べる作業は、とてもたのしいものです。

編集者は、こんな想像と仮説を組み立てて、「大丈夫です!」「売れますよ!」と断言するのです。もちろん、その断言は、死屍累々で、当たらないことの方が多いということはあえて付け加えるまでもないことですが…。

(ちなみに、書店展開の話のついでに書くと、最近のベストセラーが単行本より大きなサイズであることは注目に値するかと。「漫画・君たちはどう生きるか」「10年後の仕事図鑑」(弊社ですね!)などは、サイズが大きい。ゆえに書店での迫り方が違う。インパクトというのは、物理的な大きさによっても感じ方が違うものだよなぁ、と改めて人間の五感を思わされたのでした)

なので、その「大丈夫!」はきっとロジックだけでなく、フィーリングも混じっているはずなのです。






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