マーケティングはいらない、は本当か?

ジャンルを問わず「企画」の成功パターンとして語られる一つが「自分が心から欲しいものをつくる」ということ。マーケティング(市場調査)で作った商品は誰にも熱狂されないし、何かのモノマネになりやすい。ジョブズが「iphone」で消費者の期待を大きく超えたように(古いけど)、消費者に聞いても本当に欲しいものなんて出てこない、と。

これ、ホントかなー、と個人的には思うのです。

「マーケティングはいらない」。メッセージとしては含意に富んでいて、美しくもあるけど、これを言葉尻だけで捉えてしまっては危険ではないか。本当に自分が熱狂して、好きなものをつくりさえすれば、売れる本になるのか。

過去の実績という「マーケティング要素」と、「内発的な動機」のバランスは、企画を考える際にいつも悩むところです。(他の人はどうなのだろう…)

個人的な話をします。

過去に、徹底的に入れ込んだ著者の本を思いっきり作って、まったく売れないことがありました。

悩んだ末に行き着いた仮説が、「思いっきりバットを振るには、正しい素振りを身につける必要がある」というもの。ボールを遠くに飛ばすためには、ただ力任せにバットを振るだけではダメで、コツがある。そのコツは1000回の素振りが必要なのだ。素振りというのは、いわゆるマーケット感覚であって、具体的な実践法は「紀伊國屋パブライン」の研究でした。

研究といっても大それたことはありません。毎週月曜日に<前週の土曜の日売れ>のデータを上位50位まで打ち出す。ただひたすら眺める。それを自分に課して、2年ほど続けました。

するとどうなったか。

それまで漠然としか見えていなかった、テーマごとのマーケットに、より確信を持って「あり・なし」が判断できるようになってきました。膨大な数の猫の画像を見て、「猫とは何か?」を理解するディープ・ラーニングの超スモール版のようなものです(たとえが大げさですみません…)。ちなみに、ここで得た(と勝手に感じている)マーケット感覚は、決して「正しい」と断言できるものではありませんし、極論すると「正しさ」はたいして重要でさえもありません。

売上数字を体内にトレースする。そのことで僕が実現したかったのは、他人の企画をジャッジしたり、未来予想の書評家になることではありませんでした。「自分が立てた企画が本当にいけるのか?」を判断する自分。「ゴーを出せる」確固たる自分を創り上げたかったのです。自分が立てた企画の「良し悪し」を100%他人に委ねる。その状態を早く脱したかったのです。他人に「それは売れないよ」といわれても反論できるだけのメンタリティ(と根拠なき自信)を磨いておきたかったのです(逆にいうと反論されて納得できる自分を醸成します)。想像してみてください。誰かの思いつきの意見で、担当編集にも守られずにお蔵入りされてしまう本の気持ちを。かわいそうだと思いませんか…? お前が信じずに誰が信じる。でも、心から本のポテンシャルを信じられていないと本のためにがんばれないのです。

詩人の視点

谷川俊太郎さんと佐藤可士和さんの対談を聞いたときのことです。共作の絵本を肴にしたトークで谷川さんは興味深いことを言われていました。

「えじえじえじじえ」

かいつまんで言うとこうです。「佐藤可士和さんと絵本を創るために、最初はスイミーのようなストーリーを考えていた」「できあがったものを読んで、何か違うなと思った」「この本は、文字の羅列がいいのではないか」「そして、文字だけで意味を持たない言葉を佐藤氏に送った」と。

何か違う。こっちではないのではないか。

そうした「批評家」の目を自分の中に持てる人は優れたクリエイターなのだと僕は思います。谷川俊太郎さんの中で、初案にゴーを出さなかったのは、感覚的なものなのでしょう。ただ一方で、受け手の目も通していて、市場調査のようなただの数字ではないにせよ、作り手の自分とは全く別視点のジャッジがそこで行われていたのでは?と推察するのです。

世間で「センス」とかいわれているものの類は、この「批評家的視点」ではないかと、密かに思っています。良質な映画や本をたくさん読んでおけ、という先人の教えは、この「センス」を養うための素振りだとすると理解できます。

企画の入り口と出口。内発的動機とマーケットとの架け橋。好きなものを作って売れる人ほど、受け手のことを死ぬほど考えているのでは…。両方が成立してこそ、良い商品がうまれるのであれば、一方を否定するのは不毛だなぁと思います。

でも、企画ってほんとうにむずかしいです。

どうやって考えてますか?


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今日もいい一日にしましょう〜
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坂口惣一

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