新書のタイトルを考えるときに心がけているたったひとつのこと。

最近、自分の新書タイトルだけでなく、部内のタイトル会議に参加する機会も多くて、「タイトルで本の生き死にが決まるなぁ」と思うことしばしばなので、自分がどんな感覚でタイトルをつけているか、振り返ってみた。

もちろん「売れるタイトルのつけ方」と大見得を切ることはできないので、あくまで自分の場合、と断っておきます。

大前提として、想起しておかなければならないのは「新書コーナー」は目的買いよりも衝動買いが圧倒的に多いはずだ、ということである。

たとえばビジネス書の棚の前にいくお客さんは、悩みを抱えている。主に仕事面の。それを解決する本を、(なんとなく)探している、はずだ。それに対し、新書の棚は探す対象がもう少し「ざっくりしている」と思う。仕事だけじゃなく、健康やお金や家族問題や、知的好奇心、ニュース解説、エロ…。その対象は全方位的だ。

そこで思うのである。

悩み(探す対象)が明確な読者であれば、「すごい◎◎術」「やばい◎◎法」という「静的なタイトル」で十分手に取ってもらえる。でも、悩み関心がより顕在化されていないお客さんに対しては、それではちょっと弱いのではないか、と思う。

ビジネス書棚がブランドバックを探しにきたデパートだとすると、新書棚はもっと雑多な屋台だ。同じ一人の人格であっても、購買行動が変わることが、想像できるだろう。

では、屋台をふらふらそぞろ歩くお客さんに、どうすれば立ち止まってもらえるか。

その一つの仮説は、「常識に刺す」ということだ。

静的なタイトルだとどうしても「商品観」が出てしまう。売り物として、声をあげてしまう。そうではなく、もっと表層の手前のところ…そこに届けることで、驚きや意外性、新しさを想起させたい。

そのために、狙うは「常識」なのだ。

新書で「やってはいけない」というタイトルが売れることが多い。(担当の「やってはいけないウォーキング」もよく売れました)これ、単行本にするとあんまり売れないタイトルなんじゃないか、と思う。なぜなら、単行本は悩みを解決するために、しっかりとパッケージされた完全無比な「商品」が欲しいから。

でも、新書では、お客さんの「常識」を揺さぶるほうが効率が良い。

こんな筋トレしてると筋肉つきませんよ? こんな歩き方は病気になりますよ? こんな定年前後の活動はかえって不幸になりますよ…。などなど。これまで正しいと信じていた常識が崩壊する瞬間がある。そこに人は新しさを感じ、知っておかねばならぬ、とお金を出すのではないだろうか。

アプローチはさまざまで、「すべての疲労は脳が原因」のような、極端系・言い切り系や、「長生きしたけりゃ肉は食べるな」(新書じゃないけど)のメッセージ系など表現はいくつもある。「〜バカ」「捨てられる〜」「人類を滅ぼす〜」「消える」「消滅」「〜という病」「〜を疑う」「〜消滅」などなど…共通するのは、読者のなかにある「常識」をひっくり返そうと試みていることだ。

心の奥底の悩みを引っ搔き出すよりも、もっと手前の表層でぼんやり考えている「常識」の方に、問いや投げかけをすることで「本と読者に橋をかける」。その最初のアプローチとして機能するタイトルこそが、もっともすばらしいタイトルであると、最近はとくにそう思います。

だから想像すべきは、本の中身がどれだけすばらしいか…ではなく、読者の常識がどうなっているか? 何を意外と感じるか。どんな生活をしているか。どこに一抹の不安を抱えているか…。

そこをくすぐることができれば、0.5秒たらずの限られた時間で、本と読者の奇跡的な出会いを仲人することができるのではないかなぁ、と、あくまで個人的な仮説ですが、そう考えています。

最後に。ここにあげたのは、テーマ性を持った企画のはなし。著者が有名な方であれば、もっと王道なタイトルをつけたほうがいい場合も多々あることは申し添えておきます。


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新書のタイトルを考えるときに心がけているたったひとつのこと。

坂口惣一

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坂口惣一

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