ETUDE

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ノート

玉緒(1)

この夏は、雨がよく降った。

 干ばつで苦しんだ昨年とうってかわり、緑は茂り、川には清らかな水が流れる。お天道様のご機嫌も良く、野菜も動物も人も生き生きとしていた。
 豊作の年。繁忙期を迎えるのは農夫だけではない。品を売る商人も、帝に拝命された役人たちもそれなりに忙しくなる。
 流通を担う川渡しも、その例外ではなかった。橋のない川では、船頭たちほど重宝されるものはない。この日も午前中から大荷物を運

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イゴールの朝

母さんが死んでから、イゴールの朝は早くなった。
 食事の支度は父さん、羊への朝の餌やりはイゴールの仕事になる。日の出前の外気は針のように鋭い寒さで、コートを着込んでもしのぐことはできない。小柄な少年の身体はさらに小さく縮こまる。出来ることならベッドに戻りたいが、そういうわけにもいかない。
 小屋に入ると、羊たちが一斉に鳴き出した。羊たちは母さんではなく、小さなイゴールが餌をやりにくることをもう覚え

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