活版見本のRoman

仮称「Oradano明朝GSRR」フォントのRoman(ラテン文字)の素性について

Oradano明朝フォント「丙申アップデート第三弾」に向けて作業中のフォント(仮称「Oradano明朝GSRR」フォント)でRoman(ラテン文字)の資料として採用したのは、東京築地活版製造所が明治36(1903)年に発行した『活版見本』に収録されている「ENGLISH ROMAN, No.1」という活字書体です。

これは「ENGLISH」サイズ、つまり「四号活字」相当の大きさの標準的なローマ字活字で、明治~大正期の多くの和欧混植テキストで使われており、それぞれの文字がコンデンス気味で且つ字間がかなり詰まっているように見える書体です。

白井敬尚「日本の活版印刷を支えたアメリカの活字版印刷」(『日本の近代活字』近代印刷活字文化保存会、2003年、ISBN4-947613-70-X)や河野三男「ENGLISH MODERN ROMAN 大量生産時代の活字と印刷産業」(『欧文書体百花事典』朗文堂、2013年、ISBN978-4-947613-87-5)に見られるように、近代活版印刷技術とその材料は英米の活字業者に由来することはほぼ疑いなく、この「ENGLISH ROMAN, No.1」という活字も英米の何れかの活字鋳造事業者から直接輸入したかあるいは上海の美華書館などを経由して間接的にもたらされたものと考えて差し支えないはずですが、〈この活字こそがそれである〉と断定できるものには、私はまだ出会っていません。

最も近い例だと考えているのが、英国グラスゴウにあったMiller & Richardという活字会社の活字で、1902年に同社から刊行された『Specimens of book, newspaper, jobbing and ornamental types.』に掲載されている「ENGLISH, New, No.1」というものになります。

若干手が入っているように感じられますが、ほぼ同じ血筋の活字書体であろうと思われ、かつ「No.1」という序数が一致する稀有な例です。

①コンデンス気味で、②字間が詰まり気味、③序数が「No.1」という三つの点が揃う例は、例えば1869年の『An abridged specimen of printing types made at Bruce's New-York type-foundry.』に掲載されているスコッチ・ローマン系活字などには見られない特徴で、①と②が近似するMackellar Smiths & Jordan Companyの1892年見本帳『Specimens of printing types : ornaments, borders, corners, rules, emblems, initials, &c.』も掲げている書体名は「ENGLISH, No.4」であり数字の形状も異なります。是非ともMiller & Richard社の「New」ではない「ENGLISH (Roman) No.1」が掲げられている事例を見たいと思っているのですが、なかなか出会うことができません。

ひょっとすると、1873年にMiller & Richardが刊行した『Miller & Richards typefounders catalogue (for 1873)』が、私の見るべき活字見本帳なのでしょうか。

もしも該当資料をご存知の方がいらしたら、ご教示くださいますよう、お願い申し上げます。

ともあれ、この明治36年版東京築地活版製造所『活版見本』の「ENGLISH ROMAN No.1」を仮称「Oradano明朝GSRR」のRoman(ラテン文字)としてデジタルフォント化するにあたり、見本帳の文字組みと比べて少し字間が空くようにサイドベアリングを調整してありますが、文字毎のカーニングは設定していません。

また、見本帳で採取できない「q」と「x」については、東京築地活版製造所が印刷した『日本植物景観 第一集』から採録しています。

アラビア数字も明治36年版東京築地活版製造所『活版見本』の「ENGLISH ROMAN No.1」から採っており、これはデジタルフォント化に際して、文字幅が1/2em(半角)になるよう微調整してあります。



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