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読書記録 『木に学べ』西岡常一

本棚のある場所で時を過ごすのが好きです。
並んだ本の背をざーっと流し見ながら、ちょっと気になったタイトルがあると棚から抜いて中身をパラパラ見る。良さそうかなと思ったら買う。あるいは借りる。前者は書店で、後者は図書館で。
そうした時間のなかで、思いがけなく自分にとっての良書に巡り合うことがあります。この(↓↓↓)本もそんな一冊です。
以前“平成に読んだ本”の一冊として挙げましたが、長く記憶に留めたい本なので、過去の感想を引用しつつ、ここに改めて残しておきます。



『木に学べ 法隆寺・薬師寺の美』
薬師寺宮大工棟梁 西岡常一


法隆寺は1300年前(※)、当時の樹齢で1000~1300年のヒノキを伐採して建てられた。すごいのは、これだけ耐久年数の長いヒノキ(マツでもスギでもなくヒノキ)の良さに1300年前の人がすでに気付いていたということだ。さらには自然の中で育ってできた一本一本の木のクセや性質をうまく活かして組まれたからこそ、1300年後の今も法隆寺は存在する。
(※ 執筆時点での西岡氏の言葉より。)

宮大工棟梁、故・西岡常一氏の言葉がまとめられた本です。
「○○でっしゃろ。」「○○のこと話しましょ。」・・・と、西岡棟梁の口調そのままに活き活きと綴られていて、言葉がするすると頭に入ってきます。
とても読みやすい本です。

法隆寺が“世界最古の木造建築”とはよく聞くことですが、その世界最古の木造建築物が“今も残っている理由”を考えることはありませんでした。
この本の面白い点は、その理由も含め、飛鳥建築の美を学者や研究者ではない宮大工棟梁が語るところにあります。 

どんな材料を用い、どんな道具が使われ、どんな構造なのか。

例えば材料のヒノキ。「樹齢1000年のヒノキを使えば、その建造物は1000年もつ」とは大工の間で言われていることだと西岡氏は言います。1300年前の飛鳥の大工もそれを知っていて、樹齢1000年超えの木を使って建てられているのだ、と。さらにはヒノキだけでなく、釘や道具、日本の気候風土に合わせた構造など「昔の人は何も間違っていない」・・・飛鳥の職人にはかなわないというのです。

技術というのは日々進歩するものであり、漠然と「新しい技術のほうが優れている」ように思ってきたところがあります。それなのに、最先端の技術をもってしても再現し得ない日本の美があるとはなんとしたことだろうか。
西岡氏の言葉は、これまでになかった視点での驚きと新たな関心を呼び覚ましてくれました。

話は逸れますが・・・
私は高校生の頃、修学旅行で奈良と京都、「法隆寺」にも行きました。
母校は一風変わった学校で、全力で修学旅行に取り組むというか、建造物・仏像・古典文学・京都の街の通りの名前にいたるまでを徹底的に勉強させます。そうした全ての課題をクリアして奈良・京都にたどり着いた暁には、仏像を見て「これが、あの・・・」と言える(人によっては涙する)までになれ!と、たたき込まれるわけです。
公立の高校でよくもそこまでやらせたものだと感心もしますが、もし、あの頃に西岡棟梁の言葉を知っていたとしたら、「1300年(木が育つまでに)+1300年(建ててから)」という時間の長さに気づけていたら、法隆寺を見上げる目は全く変わっていたかもしれません。
あの頃、無理にでも勉強させようとしてくれた我が母校は、なかなかに良い学校だったように思います。なにせ、弥勒菩薩半跏思惟像にほぉーっと溜息漏らすくらいの高校生達にはなっていましたから。
もし、これから法隆寺を訪れる方がいるとして、“知ったうえで実物を見たいタイプ”の方であるならば、私は間違いなくこの一冊をオススメします。

30年も前に出版され、文庫化されたのも2003年とかなり前の本ですが、大量の新刊や話題の本が並ぶ書店の文庫棚に今もこの本は並んでいます。
棚にこの本があるのを確認しては、ちょっと安心したりしています。時代が移っても、この本はずっと書店の棚にあり続けてほしいと思います。
この本めがけて書店に行く人や、ネット書店でタイトル検索する人はごく少数かもしれません。だからこそ「たまたま本屋の棚で目に入って手に取ってみたら、すごくいい本だった!」みたいな人が増えるといいなと思います。
そんな幸運を手にした一人として、そう思います。

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