結節やのう胞の余剰発見(過剰診断)

福島の甲状腺検査(先行検査)では、B判定(主に、5.1mm以上の結節や20.1mm以上の のう胞がエコー検査によって認められた、という場合)以上の人が、2,000人強発見されました。この内の大部分(約92%)が二次検査(※《二回目》では無い)を受診(詳細なエコー、血液・尿検査)し、ほとんどの結果が確定しました。確定者の内34%は、A判定相当で次回検査へ、残りは通常診療(保険診療)となり、通常診療の中の500人強が精密検査(穿刺吸引細胞診)を受けています。

結果、悪性ないし悪性疑いと100人強で判定されました。福島における甲状腺検診の議論では、主にこの方がたが余剰発見(過剰診断)であるか、が注目されているように思います。

ここでは視点を替えて、がん以外と診断されたケースを考えます。
先行検査では、2,000人くらいが二次検査を受け、その内700人が次回検査、1,200人強が、通常診療(保険診療)となっています(残りは、悪性ないし悪性疑い)。という事は、少なくとも、1,200人くらいは、甲状腺の結節やのう胞である事が確定されたと言えます。少なくともと書いたのは、この1,200人は、一定の大きさ以上のものであると確定されたケースであって、実際は、A2判定も、結節やのう胞を認めた場合とされているからです。

では、A2判定はどのくらいかというと、14万人以上です。これは、検査を受けた30万人の内の実に48%近くです。ものすごい数ですね。まさに、調べれば何かしら見つかる、という情況です。

結節やのう胞がある、と診断されて、それが何の症状も顕さなければ、定義上、overdiagnosis・overdetection、いわゆる過剰診断(余剰の発見)です。気をつけるべきは、これはそのままではがんの余剰発見では無い、という所です。結節やのう胞の余剰発見

甲状腺検診について考える際は、この所についても念頭に置くべきです。つまり、がんは無かったが、結節やのう胞が見つかった、というケース。
そもそも福島における調査は、原発事故を受けて、という極めて特殊な情況下でおこなわれているものです。ここで既に、通常の健康診断などとは異なった見かたをされます。心理的社会的な文脈が異なっている訳です。その文脈で、小さい結節やのう胞だったからといって、そう簡単に安心出来るかどうか、を考えるべきです。

先行検査では、1,200人くらいが、ある程度の大きさの結節・のう胞が見つかったと判定されています。もしこれがそのままで、症状が出なければ余剰発見です。更に、これを経過観察して、その後に精密検査を受けて悪性と判断されて、その症状が出なければ、それは、がんの余剰発見となります。
残る700人は次回検査を受けますし、A2判定であった十数万人もそうです。元々が、継続的に検診をおこなう、という計画ですから、長く調べ続けられるものなのです。しかも、ずっと調べ続けるので、その間に新しく結節やのう胞・あるいは甲状腺がんが発生する場合があり、それも発見される可能性があります(前回に何も見つからなかった人でも)。症状が出なければ余剰発見です。

自分が診断を受けた時、それをどのように受け取るかは、検査についての知識、県の説明の読みかた、原発事故への印象、医師の説明のしかた、家族との関係、等々が絡み合った結果として変化すると思いますが、先程も書いたように、この(甲状腺検診が含まれる)調査は、極めて特殊な情況下で、(少なくとも現在は)相当の長期間を予定として実行されているものです。その情況で、結節やのう胞が発見された、という情報をどう考えるか。

通常の健康診断でも、放っても良いようなものが見つかります。のう胞や、血管腫などの良性の腫瘤と、様々ありますが、まあそのままで良いでしょう、となったり、一年後にもう一回エコーして大きくなっていなければ大丈夫、となったり。場合によってはCTやMRIによる精密検査に回されるでしょう。これらはもちろんタダでは無いですし、害(harm)もあります。内視鏡や穿刺は臓器を傷つける可能性があるし、造影剤は、軽い副作用から、稀ですが死亡例もあると説明されます。

そういう検査でも、心理的その他の不安・負担は結構なものです。検査結果に記載されていればギョッとなるし、知識の程度によって、これは重くなるのではないか、がんに変化するのでは、などの考えがつきまといます。まして、福島のような、巨大な不安を前提とする情況においては……という事です。

検診を続ける限り、がんだけで無く、こういった結節やのう胞の発見リスク(可能性)も高まります。そこまで考慮して、検診の内容や、どこまで続けるべきか、といった事を議論すべきだと思います。

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