検査で押さえておくべき事――適中度

知らない人にとっては、わりかし複雑な話ではありますが、出来るだけシンプルに行きます。

検査

検査をして、病気があるかもと判定されるのを陽性と言い、逆に病気は無いだろうと判定されるのを陰性と言う事は、多くの人が知っているだろうと思います。そして、検査結果が出て、陽性だった、心配だな、とか、陰性なので一安心、となったりします。そして、その結果が、病気のある無しを確定するものでは無い、というのもご存知の事でしょう。
しかし、検査結果を見る場合は、もう少し注意する必要があります。具体的に言うと、病気の人が陽性になる可能性と、陽性の人が病気である可能性は異なる、という事です。

ニャントロ病

いま、ニャントロ病という厄介な病気があるとします。検査では、ニャントロ病に罹っている人の内99%が陽性となります。
ある人が、この検査を受けました。さて、その結果が陽性だった場合、99%という数値から、自分は高い確率でニャントロ病なのだ……と心配したとしましょう。この心配は妥当でしょうか。
実は、妥当ではありません。

結果の分類

病気がある/無い、結果が陽性になる/陰性になる、という場合、結果は次のパターンに分けられます。

1.病気を持っていて陽性
2.病気を持っていて陰性
3.病気が無くて陽性
4.病気が無くて陰性

検査を受ける全体の中身は、この4パターンが混ぜ合わされているのだという事を押さえておきます。今は陽性が出た場合の話なので、陽性の時に病気を持っているかは、病気を持っていないのに陽性の人がどのくらいいるのか、も同時に考えないと、答えられないのです。
つまり、陽性が出た人がニャントロ病に罹っている可能性は、ニャントロ病の人が陽性になる可能性と更に、ニャントロ病で無い人が陽性になる可能性も考える必要があります。

数値

ここで、ニャントロ病で無い人が陽性になる可能性が、5%であるとしましょう。逆から見れば、ニャントロ病で無い人が陰性になるのは95%だとします。なるほど、ニャントロ病の人が陽性になるのは99%で高く、ニャントロ病で無い人が陽性になるのは5%でこちらは低い。やはり陽性になった人はニャントロ病の可能性が高いのか………とは、なりません。

ここまで、ニャントロ病で陽性である場合と、ニャントロ病で無く陽性である場合の、それぞれの可能性を考えました。ここから、陽性の人がニャントロ病である場合を考えるには、

陽性でニャントロ病÷(陽性でニャントロ病+陽性でニャントロ病で無い)

このような割合を弾き出さなくてはなりません。分母が陽性の全体である事を押さえます。それが判れば、陽性だった自分が、(陽性で)ニャントロ病である可能性を推測出来ます。
では、ここまで出てきた数値から、それを導きましょう………出来ません。

病気を持つ人の割合

何故なら、今まで出てきた99%や5%といった割合は、病気の人病気で無い人をそれぞれ基準とした割合だからです。このままでは、病気で陽性の人病気で無く陽性の人を足して割り算の分母を作る事が出来ません。それは、

全体の内、病気である人と病気で無い人との配分

が判らないからです。
たとえば、A県の甲市で4Kテレビを所有している世帯が20%で、A県乙市では15%だとしましょう。この場合、A県全体において、

・4Kテレビを持つ甲市の世帯
・4Kテレビを持つ乙市の世帯

のどちらが多いかは、20%と15%を比較して、甲市である……とはなりませんよね。これに答えるにはA県全体に占める甲市と乙市それぞれの人口の割合が解らなくてはならないからです。※人口の多い地域のほうが普及度は高くなるのでは、といった問題はここでは考えないとします

適中度

ニャントロ病の話に戻ると、計算には、人口全体の内、ニャントロ病に罹っている人の割合が必要となります。本来は、他の色々の調査から推定された数値が用いられますが、いまは、それが完全に解っている、と仮定します。そうすると、病気を持っている人の割合が大きくなれば、陽性全体の内、陽性でニャントロ病の人の割合も大きくなり、逆に病気の人の割合が小さければ、陽性全体の内、陽性でニャントロ病の人の割合は小さくなります。

ここで、人口全体に占めるニャントロ病に罹っている人の割合が5%(100人に5人)としましょう。そうすると、両方とも人口を基準にして(人口を1とする)、

・ニャントロ病で陽性:0.05×0.99=0.0495
・ニャントロ病で無く陽性:0.95×0.05=0.0475

こうなります。そして、

ニャントロ病で陽性÷(ニャントロ病で陽性+ニャントロ病で無く陽性)

の割合は、0.0495÷(0.0495+0.0475)≒0.5103

となります。どうですか、直観よりずっと低いと感じられるのではないでしょうか。これは要するに、検査で陽性であった人の内、実際にニャントロ病である人は、およそ半分程度である、という事です。次に、ニャントロ病に罹っている人が、人口全体の15%である、としてみましょうか。

・ニャントロ病で陽性:0.15×0.99=0.1485
・ニャントロ病で無く陽性:0.85×0.05=0.0425

こうなって……

ニャントロ病で陽性÷(ニャントロ病で陽性+ニャントロ病で無く陽性)

の割合は、0.1485÷(0.1485+0.0425)≒0.777

こうなります。だいぶ上がりましたね。

まとめ

ここまで見てきて、検査の結果を見る場合には、病気に罹っている人が陽性になる性能や、病気に罹っていない人が陽性になる可能性、だけを考えるだけでは不充分で、全体に占める、病気に罹っている人の割合をも考慮する必要がある、という事がお解り頂けたでしょうか。そして、具体的な数値を見てみると、病気に罹っている人の割合が小さい場合に、陽性の人が病気を持っている可能性を高くするという意味での性能を高めるには、まず病気の人が陽性になる性能を相当高めなくてはならない、という事も推察出来たのではないかと思います。



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