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【書評】百万光年のちょっと先/古橋秀之【SFおとぎ話】

百万光年のちょっと先、今よりほんの三秒むかし。

そんな言葉から始まるSF寝物語ショートショート50本。「百万年のちょっと先/古橋秀之」を紹介します。

超未来の普遍的なおとぎ話

物語の骨子は非常にシンプルでどこかで聞いたような童話や落語や天体や概念をモチーフにしたもので、逆噴射先生的に言うと《お前の遺伝子が知っている話》ですがSF的なブッとんだ逆転の発想や価値観の転換、エスカレートされ続ける破壊やサイズの描写、無限の果てにたどり着く特異点、自己とそれ以外の区別、時空間ループ、電子頭脳と自我、そんな味付けのされたケレン味あふれる超未来のおとぎ話です。

お子様の読育に最適

noteには子育て世代の読者さんも多いようなので #読育 の素材としても紹介しておきます。この物語群は前述通り普遍的なものなのでお子様への #読み聞かせ や毎朝の読書に最適な素材です。描写のエスカレートに限度がないアッパー系なのでおやすみ前には向いていないかもしれません。矢吹健太朗先生のイラストも抑制が効いていて残酷や猥褻は一切ない。(求婚者を皆殺しにするのは童話やかぐや姫の範疇でしょう?)
《常識》にとらわれない発想の転換や価値観の逆転を教え込むために豊かなSF愛好者のエリート教育をするのに早すぎると言うことはないですよね?

どちらにしろ「おもしろい本を読んだ」という体験は必ず財産になり得るものがあります。もちろんオトナ人間が読んだとしたもの変わりないですよ。

追加コンテンツもある

近年の流行でしょうか。作品発表後にも追加コンテンツ的な読み物が発信される環境が整ってきました。特にNOTEで展開している @DHTLS マガジンが積極的に試している感じです。

作者の古橋先生がTwitter上でエピソード単位でのあとがきを追記しています。モチーフの話とか裏話とか……近代の読書体験には電子サロン的な楽しさがありますね。

そろそろ、作品と作者は切り離して考えるべきとも言ってられない時代なのかもしれません。ノーカントリーフォーオールドメン。

オススメの百物語

というわけで、個人的に楽しかった、オススメしたい物語を紹介します。ネタバレには注意しますがタイトルの時点でオチてる場合は覚悟しろ。そもそもこれはお前の遺伝子が知っている話だ。

どっかで聞いたぞ部門

『三倍返しの衛星』
独立浮遊三点反射衛星……無慈悲なヤクザ処刑エージェント「ターベージ」の出番でしょう。『コブラ』では悪役でしたが今作ではヒロインとしてリボーン。彼女の衛星を攻略してハートを射止めるのは並大抵の努力では成し得ませんぞ!

『顔をなくした青年』
なんか星新一の短編にありそうな……なくても過去に遡ってあったことにしたくなりそうなソーシャルペルソナ社会を皮肉った物語。サイバーパンク映画とかで自分のクローンが別にいることが判明して「己とは……自我とは……」となるやつです。

『彗星の鉱夫』
「moon(月に囚われた男)」的なアレです。自分がデカセギーしている間に家族を奪ったものが……という。それぞれが満ち足りるように行動した結果にパズルのピースがあまっちゃったような……死ぬほどかなしい。

『お脱ぎになっても大丈夫』
タイトルですでにネタバレしてるようなしてないような。宇宙最高と言われるレストランに訪れた客は何かにつけて服を脱がされる目にあう。果たして何が待つというのか!?

こういうのが好き部門

『神の糧、一日一錠』
人体そのものを究極のエネルギー源とした超人社会をシミュレートした社会派筋肉であり、労働バーを押せば無限の動力を生み出しその拳足が重機と化す個人の筋力が社会インフラそのものとなり他者との関わり合いが失われた文明の崩壊を描きます。無限の力を貪る果てに到達してしまう特異点。折り返しの切れ味がよいですね。
※ただし脳内の絵面がほぼバーフバリで再生されました。ジャイホー!

『四次元竜と鍛冶屋の弟子』
近頃見かけることが多くなってきた《何かを決意した瞬間に未来が確定して何かが現実化する》というケレン味のある演出のエピソードで、説明する方もされる方と仕組みがよくわからないけど結果的に炸裂する超時空ヒサツ・ワザ! イヤーッ! なヤツです。過去の書き換えが現実に具体性を持って襲いかかるのはバタフライ・エフェクトとかサウンドオブサンダーとかでもありますがこれは未来への約束の話です。決意した未来は裏切らない、未来を決して裏切ってはならない。(訴訟は一切ない)青少年の未来への健全なる展望を育てる #ジュブナイル です。
また実際《前借り》のメタファーでもあるので《三十五年ローン》とかを考える世代にはクリティカルヒットする #中年ジュブナイル でもあります。

『最後の一冊』
物理書籍を読みながら残りページの薄さに寂しさを感じたことはないですか。ちょうどそんなポイントに設置されているのがこのエピソードです。このゲームもだいたいやること終わりそうだからそろそろラスボス行かないとなという気持ちに寂しさを感じたことはないですか。すたみな太郎は最初の三十分でもう飽きたけど残りが五分なのはなんか寂しいなとか。

無限の時間を持ちながら先にやることを失ってしまうという悲劇の回避方法はいくつか提示されていますが本作は『アフターゼロ』の最終エピソードに似た解決方法であり、永遠に楽しみ続ける仕組みがあればいくら悲劇的な賽の河原であっても本人にとっては最高の娯楽になるのでしょうね。

ホロリ部門

『見えない泥棒』
ドラミちゃんのひみつ道具「とうめいめぐすり」の真の使い方とは刑罰ではなかったか。刑罰・拷問用ひみつ道具を持ちあるき軽々しく次元を渡るドラミちゃんとは地獄の処刑女エージェントなのではないか。さまざまな心配がよぎります。

『エピローグ』
詳しくは説明しません。最後まで読んであげてください。

未来へ

というわけでいくつか紹介してみました。わざと紹介してない物語もあります。読者ごとに好きな物語が変わってくると思うし同じモノでも語り部が変わるとアングルとかフォーカスが変わって楽しいので、ぜひ読書の感想を教えてくださいね。

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