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【五億点】『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』の死因は主語の大きさ。(2019年の映画)

天気は快晴時々豪雨、見事な台風接近日和。街頭テレビでは18人の人々がBBQ中に濁流に呑まれたと繰り返していた。20年も経つと人は同じ過ちを繰り返す。そして、私も過ちを繰り返そうとしていた。

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(前回までのあらすじ)

当編集部の編集協力者が他殺死体で発見された。死因は『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』の終盤の展開で殴られたことによるガッカリ死である。
お望月さんはかたき討ちを試みるが、あまりにも強大な敵を前にしてその決意は揺らいでしまう。そんな時にこれまで力を合わせてきた仲間たちの声援が背中を押した。

「いけ!」「魔界へ!」「ピギー!」「俺たちの分まで!」「ロゼロゼ!」

映画館は静まり返っていた。作品の宣伝規模に比してあからさまに小さなハコ。なぜか予約がプレミアムシートから埋まる異常事態。明らかに肌感覚でわかるゾクリとした予感(悪寒)が走る。

それでも行かなくちゃいけない。勝てる戦いに必ず勝つのが勇者の条件だが、勝てぬ戦いであっても最前線で体を張るのが戦士の役目だ。

クロコダインさん、ボラホーンさん、ブロック、オラに力を貸してくれ!!

◆鑑賞中◆

この時間を利用して、前回の記事の有料部分を一部を要約します。

いわゆるゲームを題材とした映画作品には、三つの種類があり「①プレイヤー vs 製作者」「②キャラクター x キャラクター」「③プレイヤーinキャラクター」とされています。

ドラゴンクエストの映画化、特にストーリー性の強い「天空の花嫁」の場合は②の手法が適しており豪華キャストによる舞台演劇を期待した観客が多いようです。

ところが今回の手法は「④プレイヤー vs ゲームを止めに来るお母さん or 猫リセット」であり、観客は予想外の角度から冷や水をぶっかけられることになりました。

映画としての誠実さに欠ける「不意打ち」は、大作・メジャー作品として許されるのか。そして、インシデントからのリカバリーがどのように行われるのかが、鑑賞時の争点となります。

なお、映画・ゲームに限らず創作物を組み上げる場合は、ヤマムラ道場が非常に参考になります。観客・プレイヤーがいやがること、思いついたアイデアの処理、クリエイティビティを殺しつつ独自の面白さを展開するための試行錯誤の大切さが説かれています。

さて、どうなることでしょうか。

▼こちらも参考▼

◆鑑賞後◆

生還。

はい。観てきました。鑑賞直後の感想はリンク先にまとめてありますので、この記事では触れていない部分をやっていこうと思います。

結論としては

稚拙、の一言。それを補って余りある局地的な良さはある。おそらくエンディングから逆算して仕上げた作品だが、エンディングのアイデア自体が卵を立てたコロンブス気取りの稚拙な詭弁であり実体が追いついていない。

鑑賞時の争点としていた、終盤の「不意打ち」に関しては「論法が稚拙すぎて体が受け付ける前に立ち消えた」となりました。(後述します)

あらかじめ内容を知らなければ、知らない人に急に説教をされて終わるので、不満感、腰砕け感だけが印象として残ります。

予め準備をしておけば、説教自体は焦点がボヤけた一般論であり、あなたが言われたことではないことはすぐわかるので、簡単に無視することができます。

良いところを三つあげます。この辺が好みであれば、観に行ってもいいんじゃないかなあ。損はしないと思います。私は多少の満足感を得て帰ってきました。

☆GOOD 真の男、ゲマ!

当作品に関して、酷評者の間であってもホメが一致しているのは「大神官ゲマ」の存在感です。(写真は公式サイトより)

見てください、この焦点の定まらない視線。ニコリと微笑みながら部下に仕事を任せフォローを欠かさない深み、主人公石化の決定打を与え、最終局面での肉弾戦および精神的な諦めないガッツの強さ。ジャミもそこそこ良いんですが、シナリオ中は 人類vsゲマ軍となっていたので本格的なラスボスへ昇格です。宦官的なエロスがありR18では?と常に心配していました。 

「ドラゴンクエスト ゲマ・ストーリー」ですね。

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☆GOOD ダイジェストな冒険に本質がある

クオリティはチグハグながらもダイジェストで描かれる冒険シーンはかなり満足度が高い出来です。観客の見たいシーン(剣戟、魔法、探検、逃走)がコミカル描かれています。主人公はお調子者だけど、着実に戦歴を重ねている描写は共感を呼びますね。仲間モンスターは、スラりんとゲレゲレの二人だけだったけど、描写バランス的には悪くなかったと思います。(ゲレゲレは本当に頼りになる)

☆GOOD 最終決戦!ブオーン参戦!

色々あって最終対決。ゲマ軍は数が多くスピードランしてきた主人公一行は仲間が足りず多勢に無勢に追い込まれてしまう。そこへ到着する援軍!空を飛び突入するラインハットの軍艦!形勢逆転打!

「おで、がんばるど!」

サラボナの大妖精、主人公が懲らしめて許してやったブオーンが軍艦を天空まで投げ込んだのである! ここから一気呵成にキラーマシーンの群れを押し返しドラゴンを切り裂きギガンテスを焼き払ってゲマへ決定打を与える流れが生まれます。

逃走しながら戦うブオーン戦も含め、アクションは短いながらも見応えがあります。バギは便利。

良くなかったところを書きます。結末に触れていますが、ある程度結末を念頭に入れておかないと鑑賞時のショックが厳しいので是非覚えて帰ってください。

★NOT GOOD 突き放し方が足りない

唐突に、最終局面である真実が明かされます。主人公はキャラクターではなく、プレイヤーであると。「たとえ仮想体験でもゲームで得た経験値は真実なんだ!うぉおおお!!アサシンブレード認証!!やったー!!」的な感動を与えるつもりだったのかなあ。

これを納得させたければ、オープニングに「差し押さえ」の札や梁にネクタイを通す場面を挿入するか、最終局面に総白髪の医療器具に繋がれた人影の描写(圧倒的な現実逃避)を加えるくらいのプレイヤーに対する突き放し方が必要だと思う。(スイスアーミーマンを見習え)

そもそもこのプレイヤーは何歳なんだ?スーファミ世代だから 80歳くらい?

「現実からの逃避」としてゲームであればまだしも(そのテーマでの多数の名作がありますよね?)、本作はあくまで「娯楽としてのゲーム」を描いているので説教臭さが空回りしています。

なんだろう。登ってもいない山を降りさせられているような気がする。みんなは娯楽のためにゲームを遊んでいるんだよ。山崎総監督はアホなんだろうか。

★BAD メシ食え

かなりの不満点は、ごはんをまともに食べるシーンがないこと。奴隷生活の後に大好物のシチューを捨てる元奴隷。プレイヤーの意思が反映されてない部分だと思うけど残してふて寝。

ルドマンの「勝利の宴じゃーメシを食えー!」の声が消えないうちに退出してる元奴隷。育ちが悪いのか、人間に興味がない奴がつくったのか。
「正体不明者は食事をしない」という意図的な演出なのか「主人公は未熟」という描写なのか、単に制作側の「技術的な未熟さ」か判別つかない。まだまだCGクオリティや演出に物足りなさがある。

この手のシーンは本当にイライラするので皆さんもチェックしてイライラしてください。あと屋内に干しトウモロコシ多すぎ!!食事とは「闘!食!性!」とは至上のコミュニケーション!わかっているのか? 監督は人間に興味がないのか?

★BAD クライマックスの1分間!究極の稚拙!

(ネタバレ注意)

最終局面に唐突に刺しこまれた場面を紹介します。

「うぉぉぉお!!俺はウィルスだ理由もなくお前を攻撃してやる!襲うのは誰でも良かった!ゲームをするな!大人になれパンチ!」

「うぉぉぉ!!そんなこともあろうかとおれはゲーム内を監視していたアンチウイルスプログラムだ!ウィルスを倒すための武器を使え!」

「うわあああ!なぜかロトのつるぎが出てきた!あ、お前は魔王じゃなくてウィルスだから別に誰でも倒せる!

「あ!ほんとだ!ぎゃーあー!」

はい。最後に急にセリフで全部こうなってラスボスが死にました。この間、わずか1分! いきなり出てきて全部説明されて理解をする前にラスボスが死にました。観客はその中にいませんでした。いませんでした。いませんでした。

こんなに意味不明で無駄遣いの山ちゃんを初めて観たぞ。これ、演者は画面とか観ないで録音素材提供してない?

山崎総監督はアホなんだろうか。これらのセリフを全部省いてよいんですよ。もしかして最初にこれを録音しちゃったからもったいなくて使ったんですか? 

「なんか知らない敵が出てきたが絆で剣が出て刺してなんとか倒した!」

でいいんですよ。読者を信じることができず解釈の余地のない台本に未来はない。

本作品の死因。

シナリオの流れ的に、本来はコンピュータウィリスやワクチンではなく、亡父との思い出のつるぎが何らかの外部要因を貫く展開だったような気配がします。それを人は稚拙と呼ぶのだろうが、それでよい。

作品の死因は「主語の拡大」だと思います。「ユア・ストーリー」ではなく、ヒズ・ストーリー、ゲマ・ストーリーでよかった。

「ユア・ストーリー」にしたせいで主語が拡大化されてふわっとした「理由のない悪意」「インターネット」「最近の若者は何を考えているかわからん」「大人になれ」といった主題だけが浮き上がってきて、それらを統合する概念として白羽の矢が当たったのが、近代の「いわれのない暴力」の象徴、インターネット悪意ですね。(ふわふわ)

このため、全方位的にケンカを売るアフリカ投げナイフ的な作品に仕上がってしまったことが本作品の死因だと推測されます。

(拾ったブーメランでファン同士が殴り合う姿ほど辛いものはない)

未来へ

ささやかな満足感と共に劇場を出るとBBQの18人が救出されたニュースが流れていた。人は過ちを繰り返すが、それでも救われることがある。

『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』は間違いなく大爆死映画だけど、一部を除いてとても楽しむことができた。一人、編集部員が死んだが貴重な犠牲によって私は楽しんで劇場を出ることができたのだ。ありがとう、お望月さんGT。

ドラクエ映画としては間違いなく最高峰。そして説教映画としては最底辺。

平均すると60点。

最後に、劇場を出ながら楽しそうに会話をする親子の様子を引用して終わります。ぜひ、このような幸福な劇場体験を。

▼ノベライズの描写から結末部分へさらに深く踏み込んだレビューです▼



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