見出し画像

創作を続ける者に寄り添う映画「パターソン」(2016年の映画)

ついに真の「バス男」が決定した。

ニュージャージー州パターソン在住のパターソンさんはバスの運転手。
毎日の代わり映えのない生活を送りながら詩作をして暮らしている。
誌のインスピレーションは代わり映えのない生活の中で触れ合うちょっとした変化や乗客の会話、風景にマッチ箱から得ている。彼は秘密のノートに詩を書きつけて満足をしており、インターネットや携帯電話を持ち歩こうともしない「一人で完結した人間」である。

映画自体はつまらない。
定期的なダイヤで動くパターソンさんの7日間を横スクロールで眺めていくのだけど、ゆったりした時間の流れや毎朝の点検、退屈な運行等が重なり正直眠気を誘う。それでも観客を引き付けるのは美しいようなそうでもないようなパターソン街の風景と破天荒な妻、ちょっと変なバーの人々が織りなす、毎日少しずつある変化だろう。恥ずかしげもなく告白するが、私は2回くらい寝オチした。

途中で大きな事件が2回ある。(個人差があります)
最初は、奥さんが急にYOUTUBERにギターを習うから金を出せという事件。これが本当に2日後に届くのか、届いたらどうなってしまうんだ?という恐怖が私を支配しました。(特に何も起こりません)奥さんの存在をどう処理すればいいんだって意見もありますが、まったくソリが合わない夫婦って(他所から見てるとなんで結婚してんだっていう)普通にあるよねっていうおかしみがありました。

そして、詩作ノートがどうになかってしまう場面。
これには大変な心痛を覚えた。さすがのパターソンさんも落ち込む。
そこに「無から湧いた永瀬正敏」が登場してパターソンさんを励ますという超展開がある。
なんだこりゃ!? という場面だが、パターソンさんが困惑しながらなんとか会話をひねり出すという風景がおかしくて非常に愛おしい時間となった。

物静かな詩人が「能動的に他者に自分の言葉を伝える」という場面はうつくしい。永瀬正敏のトンチキな存在感も不思議で「詩を翻訳するのはレインコートを着てシャワーを浴びるようなもんだ」「Aa-Ha?」なんていきなりキラーフレーズをぶち込んでくるので、ちょっとこの場面に持っていかれがちだけど、パターソンさんが最終的につかんだ白紙のノートこそが創作者に寄り添うやさしさであり応援であり叱咤激励ではないかなと思いました。

映画自体はそんなに面白いわけではない。
けれど、毎日代わり映えのない生活の中で秘密の逆噴射ノートにパルプを記し続けた無名のインクスリンガー達に響く可能性がある作品だと思います。少なくとも、私は見てよかった。救われた感じです。よかった。

映画自体はそんなに面白いわけではないよ。
でも、自分の世界、心の王国をマッチ箱につくるような生活は必要だと思う。

逆噴射ポエット達の戦場はこちら。

関連記事(心の王国の大切さ)

関連記事(これは精密画家の話で描写に共通点がある気がする。ない気もする。)

#コンテンツ会議 #パルプ小説 #インクスリンガー #詩作 #映画 #パターソン #映画レビュー #永瀬正敏 #急に永瀬が来たので  

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

いつもたくさんのチヤホヤをありがとうございます。頂いたサポートは取材に使用したり他の記事のサポートに使用させてもらっています。