ドーラン家のオーエン、ローシーン、ブレンダン「もっと近くに」 (Eoin, Róisín & Brendan Dolan, "Closer to Home")

 パパは、いつも親切で寛大です。身近な人たちをたくさん助けてきました。けれどもこれまでの年月を振り返ってみると、パパは、内輪の友達や家族だけでなく、世界のどこか遠くに住んでいる私たちの知らない人たちにも思いを寄せてきました。
 それは、私が兄のブレンダンや妹のローシーンと一緒に家でテレビを見ていたような時代からずっとそうでした。パパは仕事から帰ってくると、たいてい私たちと一緒に「ザ・デン」(アイルランドの有名な子供用テレビ番組)が終わるのを見ていました。パパの好きなキャラクターは七面鳥のダスティンでした。ダスティンがちょっと変わっていて、パパと同じダブリン出身だからだろうと思います。6時になるといつもニュースの時間です。悲しいことに、飢饉、戦争、社会不安が毎日のように繰り返されます。そんなニュースに何も感じない人もいますが、パパはいつも話に聞き入り、何が根本的な問題なのかを理解しようとしていました。
 2001年9月11日のテロの後、アメリカとの関係が強いアイルランドでは特に、皆が暴力や復讐を考えました。アイルランドではほとんどの人がそうだったように、パパもテロ攻撃に怒りを覚え、被害者の方たちやその家族の方たちのために罰が下されなければならないと考えました。けれどもパパは、物事を別の視点で見ることもできる人でした。
 翌朝には、人々の怒りがアフガニスタンに向けられているようでした。凶暴なタリバン政権によって支配されている何千マイルも離れた国が新たな戦場となりました。爆弾が人々の家に降り注ぎ、多くの人々が亡くなることになるのですが、9.11のあとに覆いかぶさった怒りの赤い霧の中では、ほとんどの人にはそれしか方法がないように見えたのです。
 ママとパパは、今も断固とした平和主義者です。子供のころ、北アイルランド紛争の緊張が高まる中で行われた平和行進に連れて行ってくれました。両親にとっては、北アイルランド紛争もほかの紛争も変わりありません。無実の人々をたくさん殺すことで何かを変えることができるのか。正確な誘導ミサイルであっても自動車爆弾であっても、結果は同じ。外国にいる私たちと同じような家族が、紛争のために生活が一変してしまう。両親のエンパシーはそういう人たちと共にありました。9.11の被害者の方たちとアフガニスタンの人たちの両方を支援するための平和行進に参加するため、私はパパとブレンダンと一緒にダブリンに行きました。パーネル・スクエアで、叔母のモニカとテレザ(パパの姉。ちなみにパパは10人兄弟の末っ子!)に会いました。2人の叔母さんはエンパシーや社会正義を教えてくれる私たちのロールモデルです。マイケル・D・ヒギンズ(訳者注:アイルランドの政治家)が、アイルランドは中立を守るべきで他のヨーロッパの国がやっている戦争を支持すべきではないという熱のこもったスピーチをしていました。
 スピーチが終わった後、私たちはゆっくりダブリンの中心街に向かいました。正確には覚えていませんが、数百人は超える人々が集まっていました。その日特に印象的だったのは、私たちの行進を見ていた人たちの反応です。ののしってくる人たちもいれば、アメリカへの支持を叫ぶ人もいました。車で帰宅する途中、パパにたくさんの質問をしました。パパはじっくり考えたあとこう答えました。「彼らの立場になってみてごらん。彼らは怒っているし恐れているんだよ。彼らに私たちの主張を理解してもらいたいなら、まずは彼らがどういう人たちなのかを理解しないといけないんだよ」私の父のいいところは、複雑な世界の問題を日常的な物事に置き換えてくれることです。意見の違う人たちに対してエンパシーを持つことはとても大切なことだと教わりました。
 パパはいろいろな年齢や背景の人たちとつながるのがとても得意です。パパが言うには、人生において追及しているものはみな同じで、それは愛、安全、そして誰かとつながっていたいという気持ちです。これは、たとえば困っている人に何かをあげるとか単に誰かを笑顔にするとかいう、日々の些細で単純な数えきれない行動に表れています。パパの場合は、子供たちにいつもやっていたイエスノー・クイズとかマジック(コインを消してそのあと耳の後ろから出してくれる)がそれですね。大人はパパのひどいジョークがそれだと言うでしょうね!
 ブレンダン、ローシーンと私が両親に一番感謝しているのは、日々の生活の中で家族、友達、コミュニティに対してエンパシーや思いやりを持てるようになっていることです。私たちと意見を共にする人たちとそうでない人たちの双方に、愛と恵が続きますように。

※訳者注:オーエン、ローシーン、ブレンダンはエンパシー・プロジェクトの主宰者であるパット・ドーラン教授のご家族。

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