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ロキソニンなどのNSAIDsが潰瘍性大腸炎に悪い?について調べてみた

NSAIDsとは

NSAIDsとは非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs; NSAIDs)の略で、一般的な商品名ではロキソニンなどとして知られている薬です。NSAIDsではない薬としてはカロナールなどがあります。

NSAIDsである薬とそうでない薬について詳しくは厚生労働省が以下のページで案内していますので、ご参照下さい。

NSAIDsと炎症性腸疾患の関係

炎症性腸疾患の患者にとって、ロキソニンなどのNSAIDsが再燃や増悪の原因になる、というのは聞いたことがないでしょうか?

実際に製薬会社のHPにあるロキソニンの紹介ページでも以下のようにアナウンスがされています。

●潰瘍性大腸炎の患者さんに投与する場合の注意
病態を悪化させることがあります。
クローン病、潰瘍性大腸炎はともに炎症性腸疾患であり、NSAID投与はプロスタグランジン生合成を抑制し、粘膜防御機構を脆弱にすることにより病態を悪化させるおそれがあります。

第一三共HPより

機序について専門的な解説をここではしませんが、要はNSAIDsが発痛増強物質(PGE2)の合成を抑える一方で、同時に粘膜の治癒などを阻害してしまう副作用があるということです。病院などで解熱鎮痛薬と胃薬を同時に処方された経験のある方も多いかと思いますが、医療関係者の中では広く知られている事のようです。

この時点でUC患者の方はNSAIDsの服用に慎重になるべきと理解していただけたかとは思いますが、どの程度リスクが上がるものなのでしょうか?今回はこのNSAIDsが炎症性腸疾患(IBD)に与える悪影響について調べてみました。

調査方法

まずGoogleで「NSAIDs 潰瘍性大腸炎」などと調べて見つかったのが、以下の文献です。この文献自体は2011年のもので、かなり昔からNSAIDsはIBDの増悪因子であると言われていたことが分かります。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/108/12/108_12_1983/_pdf

上記の論文ではNSAIDsの与える影響について他の論文をさらに引用する形で、以下のように述べています。

非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs;NSAIDs)は,COX-1 阻害・COX-2 阻害・粘膜局所に対する影響を介し,UC の病態に関与する可能性がある.IBD のNSAIDs 内服前向き研究では,再燃は内服後数日で認められ,再燃頻度は薬剤により17~28% であった.対照となったアセトアミノフェン群には,再燃は見られなかった.またCOX-1,COX-2 阻害剤に比較し,COX-2 選択的阻害剤や低用量アスピリン群は再燃率が低く,かつ短期間の内服では再燃を認めなかった

潰瘍性大腸炎の寛解維持療法とサーベイランス(日消誌2011;108:1983―1995)

このように論文でエビデンスが示される形でNSAIDsがIBDのリスクを上げることが分かっています。患者の方々としては十分にリスクを理解の上、主治医と相談した上で使用することが良いでしょう。

論文の内容

ここからは少し専門的になりますが、引用元の論文についても少しみていきたいと思います。

実験方法

休止期のクローン病および潰瘍性大腸炎患者を対象に、非NSAID鎮痛薬であるアセトアミノフェン( n=36 ) 、および頓用NSAIDsであるナプロキセン(n=32)、ジクロフェナク(n=29)、インドメタシン(n=22)を4週間投与し、経過観察をしました。再燃の評価にはHarvey-Bradshaw指数が用いられたとのことです。
※ここで言うnとは患者数です

IBDの状態を評価する指数についてはこの資料がわかりやすいですが、Harvey-Bradshaw指数とは前日1日間の3つの臨床症状と腹部腫瘤、合併症の評価から点数とするものです。シンプルな評価が可能ですが、水様便の回数などに左右されやすい問題も指摘されています。

結果

患者の再燃率としては、以下の通りだったとのことで、NSAIDs投与後2~9日以内に発生したとのことです。また、前述のHarvey-Bradshaw指数の中央値は1から9に上昇したと記載されています。

  • アセトアミノフェン(非NSAIDs) … 36人中0人が再燃

  • ナプロキセン … 32人中9人が再燃

  • ジクロフェナク … 29人中5人が再燃

  • インドメタシン … 22人中5人が再燃

また、潰瘍性大腸炎とクローン病患者の再燃率はそれぞれ10/44人(再燃率23%)、8/40人(再燃率20%)でほぼ同率だったとのことです。NSAIDsによる再燃は比較的短期間に発生し、1週間以上の耐性を示した患者には再燃はなかったとも報告されています。ちなみに再燃した19人はその後、12人はNSAIDs中止によって、6人が外来による経口ステロイド投与によって、1人は入院治療によって回復したとのことです。

今回紹介した論文の結論

  • 再発率はアセトアミノフェンと比較して、ナプロキセンやインドメタシンで統計的に有意だった。

  • NSAIDを摂取すると、17%〜28%の患者で症状の再発が見られ、これらの再発は薬を摂取してから数日以内に発生した。

リスクの低いNSAIDsは?

更に専門的な話にはなりますが、NSAIDsはCOX-1阻害剤、COX-2阻害剤に分類されます。

COXとはシクロオキシゲナーゼのことで、COX-1は多くの細胞に発現する一方で、COX-2は炎症細胞などに発現すると言われています。そのため、COX-1を阻害すると生体保護にも影響があると考えられています。そこで、炎症反応のみに寄与するCOX-2を阻害するCOX-2選択的阻害剤が開発されています。

上記の理由からCOX-2選択的阻害剤であるセレコキシブであれば、UCに対する影響も少ないのではないかとの仮定のもと調査された論文もあります。

その論文では、寛解期UC患者に対してCOX-2選択的阻害剤であるセレコキシブの影響を調べたもので、再燃率はプラシボ群に対して有意差はなかったと報告されています。相対的なリスクとしてはセレコキシブが低いと言えそうですが、活動期のUC患者には増悪要因になるとの論文報告もあります。

私も整形外科であったのですが、IBDの既往を伝えても普通にNSAIDsが処方されました。全ての医師が消化器専門医ではないので、患者側も知識の一つとしてNSAIDsのリスクについて知っておく分には損はないかと思います。

参考情報

引用元論文

  • 潰瘍性大腸炎の寛解維持療法とサーベイランス. 日消誌2011;108:1983―1995

  • Takeuchi K, Smale S, Premchand P, et al : Prevalence and mechanism of nonsteroidal antiinflammatory drug-induced clinical relapse in patients with inflammatory bowel disease. Clin Gastroenterol Hepatol 4 ; 196―202 : 2006

  • Sandborn WJ, Stenson WF, Brynskov J, et al : Safety of celecoxib in patients with ulcerative colitis in remission : a randomized, placebocontrolled, pilot study. Clin Gastroenterol Hepatol 4 ; 203―211 : 2006

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