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ヨーダの物語 10

 ふたりは家中を探し回ったが見当たらなかった。赤ん坊が外に出てしまったのかもしれないと思い、ふたりは玄関から外に出た。
 ゴンの家のまわりは見晴らしがよく、もうすぐ朝日が昇る方角の彼方には砂の地平線が見え、岩が点在していた。近くには崖もあり、肉食の鳥類がときどきその崖に来るため、ふたりは心配した。
 ゴンは「おーい!おーい!」と叫びながら岩陰を見たり崖のほうまで行ってみた(ゴンは高所恐怖症だったので、ふだん崖には一歩も近づかない)が見当たらなかった。
 もしかしたら崖から落ちたかもしれない・・、巨大な鳥に食われていたら・・、ふたりは必死で探したが一向に見つからなかった。
 早朝の仕事で通るスピーダーを引きとめて訊いてみたが知らないということだった。朝日が少し地平線からみえてきた頃、ふたりは途方に暮れて家に向かった。家が近づいてくると、ロザリータが声をあげた。
 「ゴン、あれ!」ゴンが落としていた目を上げると、ゴンの平屋の屋根のてっぺんに小さな影が見えた。ふたりは家に向かって走った。
 屋根にいたのは赤ん坊だった。てっぺんに座り、朝日の方向を見つめている。
 「おーい!そこでなにしてるんだ?降りてこーい!」ゴンは、赤ん坊を見上げながら叫んだ。ゴンの声は聞こえていないのか、赤ん坊は朝日の方角に顔を向け、ぼーっとしていた。
 ロザリータも叫んだが無駄だったため、ゴンはガレージからハシゴを持ってきて屋根に上がった。屋根の傾斜はそれなりにあるので、滑り落ちないように慎重に赤ん坊のところまで登っていった。
 赤ん坊はゴンの存在にまだ気づかないようで、ただ座ってじっと朝日のほうを見つめていた。微動だにせず、動きがあるとすれば数秒に一回のまばたきだけだった。
 「おい、聞こえてるか、おれが見えるか?」ゴンはやさしく赤ん坊に話しかけ、視界に入るように手を振ると、やっと赤ん坊は気がつき、ゴンの顔をみた。
 「なにしてるんだ?そもそもおまえ、ここまでどうやって登ったんだ?そのおおきな耳で飛べるとか?」ゴンは問うたが、赤ん坊はゴンの顔を見たあと、朝日の方に向きなおるだけだった。ゴンは赤ん坊のそばに座り、赤ん坊と同じ方へ体を向けた。
 「おまえ、名前あるのか?ずっと、おーい、おーいって叫んで探しながら、名前を知ってればよかったのにって思ったよ」
 赤ん坊は無反応だったが、ゴンは気にしなかった。朝日がだんだん昇ってきてふたりの顔を強く照らした。赤ん坊は大きな瞳を細めた。
 ゴンには、赤ん坊が太陽よりももっと向こうの、親や故郷を想っているようにみえた。

 三人で朝食を済ませると、ゴンは赤ん坊をトラックに乗せ、さっそく港へ向かった。そこに届く野菜を受けとったあと、赤ん坊の種族や出身地に心当たりのある者がいないか訊いてまわった。

(ヨーダの物語 11につづく)