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ヨーダの物語 9

 赤ん坊にスプーンを渡したが、それを使ってスープを飲む気配はなく、首をかしげてスプーンを見つめるのみだった。銀色のスプーンに自分の顔がふくらんで映っているのが不思議らしい。
 こう使うんだよ、と伝えるためにゴンは自分のスプーンを使って手本を示したが、赤ん坊は「?」という顔をして器をもって口へ運んだ。ずずずっという音を立てて飲む様子をゴンとロザリータは心配そうに見守った。
 初めて見る種族の赤ん坊が果たしてトワイレックの食べるスープを飲んでくれるか疑問だったが、赤ん坊は器を一度も置かずに時間をかけて飲み干してしまった。
 「まあおどろいた。体は小さいのに食いしん坊なのね。ぬるめにしておいて良かったわ」ロザリータは喜んだ。口のまわりにはスープがべったり付いているので、となりに座るゴンがふきんで口を拭いてあげた。
 次にフォークを持たせてみたが、やはり赤ん坊はそれを置いてしまい、小さい手で麺をつかみ上げて口へ運んだ。ズルズルと音を立てて吸いこみ、口いっぱいにほおばった。
 「フォークの使い方はまだわからんようだが、味は気に入ってくれたようだ」ゴンは安心した。
 赤ん坊は麺をつぎつぎと口に運ぼうとするので、ロザリータが「たまに休んで、水を飲んで、それからサラダもどうぞ」と言って落ち着かせた。
 赤ん坊は水を飲み、サラダに入っているラディッシュを手づかみで口に運んだ。
 「今日だけでいったい何個ラディッシュ食べてんだ?」ゴンは微笑んだ。
 食べ終わると、赤ん坊はテーブルにうつぶせになり眠ってしまった。ゴンは赤ん坊をそっと抱っこし、ゴンがいつも使っているひとりがけのソファーに寝かせ、小さい布をかけた。
 「どうなることやらと思ったけど、いちおう眠ったな。言葉は出さなかったけど、こちらの言っていることはなんとなくわかってるみたいだったな」ゴンは赤ん坊の寝顔を見ながら言った。
 「そうね。歩けるし、普通の赤ん坊じゃないみたい。しゃべらないけど賢そうな雰囲気があるし」
 「まあとにかく、明日はこの子の親探しだ」
 「見つかるといいわね」
 ふたりは、すやすやと寝息をたてる赤ん坊の寝顔を見つめた。

 翌朝、ゴンはロザリータの声で目覚めた。
 「ゴン!ゴン!」ロザリータは夫の体を強くゆらして起こした。
 「ん・・なに?何時?まだ寝ていいだろ」
 「赤ん坊がいないのよ!!」
 「えっ?」ゴンは飛び起きた。
  空はまだほの暗く、これから朝日が昇ってくるところだった。

(ヨーダの物語 10につづく)