「ひたすら面白い映画に会いたくて」9本目『悪い奴ほどよく眠る』

 『隠し砦の三悪人』(1958)でお金を使いすぎて、東宝の藤本真澄プロデューサーに追い出された黒澤明は、黒澤プロを起業して独立。黒澤が東宝より独立して創始した黒澤プロの初作品が本作である。これは、土地開発公団とゼネコンの汚職を題材にした本格的な社会派ドラマだ。

9本目:『悪い奴ほどよく眠る』

              『悪い奴ほどよく眠る』(1960)

脚本:小国英雄・久坂栄二郎・黒澤明・菊島隆三・橋本忍 / 監督:黒澤明

   「悪党を相手に合法的に闘っても勝ち目がない」

 「いつか本作を観てみたい」とかねてから思っていた期待作。まず鑑賞後の後味の悪さに驚いた。観終わってからしばらく、「終」と表示された画面に向かって憤慨したことをよく覚えている。それほど、「悪い奴」に腹が立って腹が立ってしょうがなかったのだ。

 これは、映画の出来としては素晴らしい。この作品を観て私のように、「もっといいエンディングがあるのではないか、いや、あってもらわないと困るんだよ」と自身のインスピレーションを刺激され、創作意欲が溢れんばかりに流れる人は多いに違いない。
 この作品が他の作品に多大なる影響を与えたであろうことは容易に想像できる。当然だ。この映画は、1960年公開という黒澤明監督の絶頂期の作品なのだから。

あの『ゴッドファーザー』で本作のオマージュ発見!

 『ゴッドファーザー』で大監督になったあのフランシス・フォード・コッポラ監督も本作に影響を受けた一人である。『ゴッドファーザー』の冒頭を観るとそのことがよくわかる。

   それは、ドン・コルレオーネ(マーロン・ブランド)の娘の結婚披露宴のシーン。これは、黒澤監督が本作で見せた「西(三船敏郎)の結婚披露宴で登場人物たちの状況を新聞記者に説明させる」という手法に感心したコッポラ監督が採用したシーンであるらしいのだ。本当にものすごい影響力をもった作品であるなあとすっかり感心してしまう。

私のお気に入りの場面

 私はこの作品の西と板倉(加藤武)の間に存在する一心同体的な友情がかなり好きだ。2人が昔の思い出をお互い楽しそうに投げ交わす場面には、思わず胸が熱くなってしまった。「俺の肉親は室蘭の艦砲射撃で全滅、こいつは私生児。いいコンビだった」という板倉のセリフが観終わってからもずっと頭から離れない。本当に良いシーンであった。

 戸籍をお互い交換してまで友人の復讐に手を貸すのは違法であり、なおかつリスクが大きすぎる。普通の関係なら絶対にあり得ない行為だ。しかしこの2人ならば、その行為しかあり得なかった、いやこの行為こそが2人の選んだ最善の選択だったんだと思わず感じてしまう。本当にいいコンビである。

最後に

 「板倉の俺にゃ、何にも言えない、こんなことがあっていいものか (中略)  すべて俺にはわかってる、何もかも恐ろしく簡単で醜悪だ!しかし俺には何の証拠もない、何も言えない、どうしようもないんだ!ちきしょう!これでいいのか、これでいいのか!」これは板倉の最期の叫びである。

 「正義とはいったい何なのか」。本作はこの問いについて、平和な「今」を生きる私たちにも考えさせてくれる。そんな社会派サスペンス映画の一級品であった。

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