今住んでいるアパートに引っ越してきて3年目の冬を迎える。

この場所はパリイチ大きい公園まで徒歩3分だし、ベランダもあるし、治安もそこまで悪くないから(先日の事件はレアケース)、私たちはすごく気に入っている。

ただ、私たちの部屋の真下に住んでいるムッシュに最初は結構悩まされた。
このムッシュ、年齢は60代くらいで、真冬でもずっと一年中サングラスをかけている。私たちがこのアパートに越してきて数日後、このグラサンムッシュと玄関先ですれ違ったので挨拶すると、
グラサン越しからじろりと見つめながら、第一声が、
ふん、あんたたちが引っ越してきた人か。どおりでうるさかったわけだ。

と、引っ越しの片づけなどで迷惑をかけていたみたいなので、もう引っ越しの片づけは終わったから音は大丈夫なはずですと謝った。

また数日後にグラサンムッシュとすれ違ったので、挨拶すると、
土曜日に掃除機をかけていただろう。うるさかった。ふん！
と言われたが、土曜日は二人とも仕事だったので、掃除機はかけてないけど・・？

まあいいか。と流していた。

そしてある日曜日に夫と義父が、キッチンに棚を取り付けてくれたりするちょっとした工事をしてくれたのだが、それがうるさかったようで、
すごい剣幕でグラサンムッシュが乗り込んできた。

私たちは、平日は仕事でいないから日曜にしか工事ができなかったことと、工事はもう終わったことを伝えて丁寧に謝ったが、グラサンムッシュは怒り心頭だった。
ちなみにグラサンムッシュ以外、ほかの住民からのクレームは全くなかったし、工事した時間は日中だ。

グラサンムッシュはすれ違って、挨拶するたびに、とんでもないお門違いの文句を言ってくるようになった。
あるいは、聞こえないのか、無視を貫いていた。

私はグラサンムッシュセンサーが働くようになり、彼とすれ違わないようにしたし、やむ負えず鉢合わせしてしまったときは、すばやく挨拶して逃げるように離れるという技を身に着けた。

しかし夫は、相変わらずグラサンムッシュの目を見て、にっこりとボンジューっと挨拶する。そして頻繁に無視されている。
前に挨拶を投げかけたときの返事が、またとんでもない暴言だったらしく、その時は、そういう言葉は失礼だってはっきり言ったらしい。

すごいな我が夫よ。
私にはそんなこと言えない。

キッチン工事から数日後、裁判所から一通の手紙が届いた。
私たちは、グラサンムッシュから訴えられたのだ。

おいおい、そこまでするのか！とびっくりして、
アパートの管理人に相談したら、
グラサンムッシュはこのアパートでも有名な偏屈おじさんらしい。

仕方がなく、裁判の日に夫が出向いたのだが、グラサンムッシュは現れなかった。
なんて人だ・・・

そんな面倒くさい一連の流れがあったにも関わらず、夫はグラサンムッシュに陽気に挨拶する。

今朝、たまたま2人で出勤したらグラサンムッシュとすれ違った。

陽気に挨拶する夫。
顔が無になって挨拶する私。

するとグラサンムッシュは陽気に夫に声をかけた。
よう、元気かい？と。

どひぇー
グラサンムッシュの心が開いてるー！

あんたすごいね。と夫に言ったら、
相変わらずあのおじさん変だけどね。と苦笑いしてた。

夫の、このたくましさを私も身に着けたい。

つづく