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宇宙人はクラゲが嫌いを振り返る

「宇宙人はクラゲが嫌い」
ついこないだ終わった劇団かもめんたるの公演について振り返りたいと思います。
 なんと言ってもこの公演には八嶋智人さんがゲストで出てくれるというところから全てが始まっています。
 そもそもなぜ八嶋さんが「劇団かもめんたる」に出てくれたかというと、八嶋さんが犬山イヌコさんに連れられて「尾も白くなる冬」という公演を観に来てくださって、雷に打たれてしまったからなんですね。
忘れもしません、2018年の二月でした。
千秋楽に来た八嶋さんは、そのまま打ち上げに参加してくださり、朝方までいらっしゃいました。そしてお酒を飲みながら、いかに「尾も白くなる冬」という公演が素晴らしく、感動したかを熱弁してくださり「僕も出たーい!」と絶叫してくれたんです。
瞬間的な僕の感情を言いますと、二つの感情がありました「めっちゃうれしい!」と「八嶋さんと俺?大丈夫?」です。
 でも、その時、僕はここは考えちゃいけないと思いました。だってちょっと考えただけでも「スケジュール合うの?」「ギャラどうすんの?」「八嶋さんに『この台詞言いたくない』とか言われたら?」「最終的に、八嶋さんに『お前を干す』って言われるラストもあり得るぞ?」とかバーッとネガティブな思考が流れてきたんです。
 僕はすぐにマネージャーの元に駆け寄り「八嶋さんが『出たい』と言ってくれてます!」と伝えました。僕はそこでマネージャーが「そんなチャンスはない!是が非でもモノにしよう!」と走り出してしまえば「やるっきゃない!」となって僕も頑張れるだろうと思いました。
マネージャーの答えは「こわいこわい」でした。
「いや!こんなチャンスないでしょ!」説得に回ったのは僕の方でした。

それから紆余曲折ありまして、何より八嶋さんのご尽力のおかげで「今度の5月なら出られる!」となったわけです。
で、本来なら夏の公演なのですが異例のスケジューリングになったわけですね。

しかし、そこからがまたプレッシャーでした。まあ、失敗して良い公演なんてないんですが、この打席だけは是が非でもホームランを打たないといけない。というシチュエーションです。

「いやー。これは失敗できないですね~」
マネージャーから「八嶋さんOK出た」という電話の最後、僕はこのまま電話を切ったらいよいよ修羅の道が始まるという恐怖で無意味だと分かっていながらマネージャーに、そうこぼしていました。

「そりゃ失敗できないだろ?」
それがマネージャーから僕への慰めの言葉でした。

まず、台本を書く時はプロットという設計図?あらすじ?みたいなものを書くんですが、それがなかなか進まず、紙に「八嶋さん」とだけ書いて、丸めてまた新しい紙に「八嶋さん」と書いて丸めるみたいなスランプの文豪スタイルからしばらく抜け出せませんでした。

僕はあんまり台本が書けなくて苦労する事がなかったのでこれはショックでした。
 最初の頃は「まだ時間がある」と安心していたのですが、いよいよそうも言ってられなり「あの『あっぱれチビメガネ』なんで出たいとか言い出したんだよ・・・」と敢えて口に出した事もありました。八嶋さん、ごめんなさい。
 しかし、そのことが僕に光明をもたらしたのです。
八嶋さんを「あっぱれチビメガネ」と言った瞬間、僕は「ああ、そうか僕は八嶋さんをどうにでもできるんだ。そんなありがたい機会ないぞ!」と実感したのです。
それまでは、ゲストの八嶋さんを「おいしくしないと!」といプレッシャーばかりがありました。
 これは感覚的な話なんですが、僕はキャラクターを描く時にそのキャラクターの中に入って考えます、それが良い時もありますが、この時は良くなかったんです。というのも、やはり八嶋さんと僕の元来のタイプの違いが大き過ぎたのです。いくら八嶋さんの中に入り込んでも、全然見えませんでした。

 しかし、八嶋さんにこんなことやあんなことを言わせてたり、八嶋さんがこんな目に遭ってたら面白いんじゃないか?という考え方に変わったら、つまり外から見たら、これが面白いほど上手くいき、ペンも走り出しました。
 今こうやって書いてても思いますが、なんでそんな簡単な事に気付かなかったのでしょう?やはりプレッシャーでしょうね。病んでいた時の僕は「八嶋の呪い」と呼んでいましたが。ごめんなさい八嶋さん。

 結果的に、みんなの期待する八嶋さんを大いに表現しつつ、僕なりの八嶋さんの使い方もできたかと思っています。
 この、僕しかやらない八嶋さんの使い方って言うのも、単に暗い人間をさせるとか、猟奇的な人間をやらせると言うことではなく、みんなのイメージする八嶋さんのすぐそばにあって、でも今まで触れられてなかった部分みたいなところですかね。光と影の影というわけでもないけれど光の中の一番光度の低い部分を扱ったつもりです。
 
 宇宙人はクラゲが嫌いの中で八嶋さんが「お前はなぜ自分を生きない?」と言う台詞があるのですが、これは今回の台本を書きながら決めた後付けのテーマなんですが、すごく良いテーマだと思っています。
 「お前はなぜ自分を生きない?」って言うのは、そのままの意味なんですが。もっと力強いメッセージをくみ取ると「お前しかお前をやれないのになんでお前がお前をないがしろにしてんだよ!」ってことなんです。
 「お前はなぜ自分を生きない?」
 さっきも言った通り、これは台本を書いてる途中に生まれてきたテーマです。僕はとくに伝えたいことがあって、モノを作ってるわけではないので、毎回ご一緒する方々から受けるモノからお話しを作ってる部分が大いにあります。
 「お前はなぜ自分を生きない?」
八嶋さんがなぜ我々のような弱小劇団に過密スケジュールのなか出てくれたのか?
 きっとそういうことだったんだと思います。
 
 


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