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チャイ屋のアッチャbyみねだあさみ

小さい頃、どんな大人になると想像していただろう?
そこそこに勉強して、そこそこの会社に就職して。それなりの暮らしを手に入れるんだろう。

少なくとも、チャイ屋になるとは思ってもみなかった。

私とチャイとの出会いは、スパイスカレーを食べに行った時のことである。食後に、初めて見る「チャイ」と言う飲み物を頼んでみた。ほんのり甘く、あっさりとしたミルクに複雑なスパイスの香りがした。飲み終えると、それまでバターチキンカレーの余韻でいっぱいだった胃のなかが、少しスッキリしたような気がした。それでいて、どしっとした満足感に満たされた。

それからカレー屋さんに行くと、必ず食後にチャイを頼むようになった。
普段はコーヒーばかりを好んで飲んでいるが、たまに飲むカレーの後のチャイが、私にとって特別な時間と体験になっていった。

その時は突然やってきた。いつも通り仕事をしていて、ふと休憩をとろうとコーヒーを淹れている時、無性に「チャイが飲みたい!」という気持ちにかられた。一度そう思うとどんどん我慢できなくなってくる。思い切って休憩中にカルディへ走った。インスタントのチャイの粉末を手に取りレジへと急ぐ。そのまま急ぎ足で会社へ戻り、買ってきたチャイの粉末をカップに入れ、お湯を注いだ。ああ、やっと。。。

しかし、一口飲んで時が止まった。「これじゃ・・・ない・・・」

本格的なスパイスカレー屋さんで飲むチャイとお湯を入れるだけでできるインスタントのチャイは別物だと、ようやく理解する。

こうなったら自分でスパイスから作るしかない!

インターネットでチャイを作る方法を色々調べて、必要なものを購入した。次の日から、始業時間より1時間早く会社に向かうようになる。当時勤めていた会社にはミニキッチンがあり、私はそこで早朝からスパイスを煮出してチャイを作るようになった。最初はひとりで朝活チャイをしていたが、たまに、スパイスのいい香りにつられた社長も加わり、作ったチャイを飲んでもらったりもした。

スパイスの種類、分量、煮出し時間、水と牛乳の配分、それぞれのバランスがとても大切。塩梅を変えると作る度に味が変わる。理想の味へと試行錯誤する日々がしばらく続いた。

そんなある日、社長から唐突に声がかかる。「あさみん(私の呼び名)、チャイ屋やる?」
会社で飲食事業に手を広げようという話になり、当時朝からせっせとチャイを淹れていた私に白羽の矢が立ったのだ。「やります!!」と即答し、それから私のチャイ屋開業プロジェクトが発足した。

何かと形から入るタイプの私。まずは名前とロゴを決めた。インドの公用語であるヒンディー語で何かいいフレーズはないかと検索したところ、「アッチャ」と言うワードが目に止まった。「いいね!」と言う意味でインドでは日常的に使われている言葉らしい。ポジティブで元気がいいし、何より音の響きがいい!店名は「アッチャ」に決定し、ロゴも合わせて、インドっぽい男の子が「いいね!」ポーズをきめているイラストにした。

そうやって通常業務の合間を縫って、コツコツと開業に向けて進めていた。スパイスの仕入れ、原価計算、ホームページの制作。初めは店舗を持たずにイベント出店からと言う段取りで、もうすぐオープンとなった頃、まだチャイの味に納得できずにいた。もう少しだけ時間をもらい、またチャイの研究に戻ることに。

しかし、そうしているうちに私の通常業務が忙しくなってきてしまった。チャイ屋プロジェクトは優先度が高くなかったので後回しに。。。思うように進まなくなってしまう。

そして事情があり会社を退職することになった。私のチャイ屋物語の第一章が終わる。

会社を辞めて故郷の徳島に戻ってきた私に、ある日一通のメッセージが届いた。

「古本市のイベントを一緒にやる人募集!」

「古本市」がどういうものかよく知らなかったけど、興味本位でミーティングに参加してみることにした。会場はお馴染みの「うだつ上がる」。恐る恐るミーティングの部屋へと足を踏み入れる。するとそこには私と同世代のピチピチの女子たちがいた!(この時が古本市メンバーとの初対面!)

私は恥ずかしがり屋で人見知りなのだけど、みんなと輪になって話す時間はとてもリラックスできて、そしてワクワクして楽しかった。意気投合した私たちは第一回目のうだつのあがる古本市に向けて動き出した。

ある時のミーティングで、「何か飲食も欲しいよね」という話題になった。「誰かいい人いないかな?」と話していると、そっと見守っていたうだつ上がる店主の高橋さんがこちらにひょこっと顔を出し「みねちゃん、チャイやったらええやん。」と仰った。どうしよう!と最初は戸惑ったけど、せっかく背中を押してもらったので思い切ってやってみることにした。このようにして、チャイ屋のアッチャは第1回古本市の開催日2022年11月27日に華々しくデビューを飾ることになったのだった。私のチャイ屋物語の第二章が始まった。

それから、今もうだつ上がりのキッチンを間借りして2週間に一度、土日にチャイ屋をやっている。チャイを楽しむひとときが、アッチャ!(いいね!)となることを祈りながらキッチンに立つ。

こうして私は、チャイ屋になった。


文:みねだあさみ

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