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知らんおばあに投げられたみかん

6年前。
ぼくは当時こたつに入りくつろいでいた。
机にあるかごの中から酸っぱそうな色のみかんをひとつ選び、皮をむいて食べようとしたその時だった。
勝手口から全く見覚えのないシャープめなおばあが入ってきて、ぼくが食べようとしていたみかんを奪い、一切れだけ食べて縁側から外に投げた。そしてそのおばあはそのままみかんを投げた方向に向かって歩き出した。

なにが起こったのか分からず呆然としていると、少ししてからぼくの元へ戻ってきた。
手を差し出すよう促され手を出すと、なんと全くそのままの、別の豪華なものになっているわけでもなく全くそのままの、シャープめおばあが一切れ食べて外に投げた全くそのままの状態のみかん。それをぼくの手に置き、微笑し、玄関から帰っていった。
その頼もしくも柔和な後ろ姿は、孫のぼくのために欲しいものをなんでも買ってくれる大好きだったおじいちゃんを彷彿とさせた。

ぼくは不意に郷愁に駆られ、左乳頭を撫でたことを今でも鮮明に覚えている。

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