見出し画像

フォロワー

『甘えたがりな変態です♡ 舐めるのだいすき、激しいエッチがしたいなぁ♡ 自他共に認めるメンクイ、たくさん可愛がってね♡』

ツイッターで、こんなプロフィールのアカウントからフォローされた。フォロワーが一人増えていたことに多少ワクワクしながら確認したのに、ただのスパムアカウントか。とんだぬか喜びだ。すぐにブロックすることも出来たが、なんとなく放っておくことにした。
数日後、一通のDMが届いていた。仲の良いフォロワーからかと思い確認してみると、件のスパムアカウントからだった。無言で怪しいURLが貼られていたり、拙い日本語で電子マネーの購入を催促してくるような内容などではなく、一言「見えてる?」という文章が記されていた。特にすることもなかったので、充分に警戒しながら「見えてますよ」と返信した。変な動きを見せたらすぐにブロックすれば良い、それがSNSの便利なところだ。しばらくすると返信が来た。
「わー、嬉しいです。私かおるっていいます、よろしくお願いします!」
「俺は禍(まが)って名前でやってます。こちらこそよろしく」
「じゃあ、まがさんって呼びますね! まがさんは学生さんですか?」
「いや、個人情報なのでそういうのはちょっと」
「あ、そうですよね! ごめんなさい! またDMしても良いですか?」
「良いですけど…」
そんなやりとりを何通かしたところで、その日は終わった。手の込んだスパムアカウントだな、最近のユーザーはこうでもしないと引っかからないのか。大変だな。
二日後「かおる」から再びDMが来た。
「まがさん、こんばんは。今暇ですか?」
「はい、丁度夕飯食べ終わったところですが」
「じゃあちょっと話しませんかー?」
「良いですよ」
「まがさんって映画好きなんですよね? 私まがさんのレビューのツイートよく読んでて、面白そうなのがあったらDVD借りて観てるんです」
わざわざツイートまで読んでこちらの趣味まで押さえてくるなんて、本当に手が込んでるな。もしかして「かおる」はスパムアカウントではなく、ちゃんとした個人のアカウントなのではないか? そんな考えが俺の脳裏をよぎった。結局その後はお互いの好きな映画の話で盛り上がってしまった。自分の中の警戒心が弛んでいくのを感じる。たった一度話が噛み合って、趣味に理解を示してもらえただけなのに。人間は弱い生き物だ。
その後も俺と「かおる」のDMでの交流は続いた。当初は面白半分でやりとりしていたが、最近では「かおる」からのDMを心待ちにするようになっていた。自分が大学生であることも早々に打ち明けて、もはや「かおる」がスパムアカウントかもしれないという懸念は跡形もなくなっていた。
「かおる」のツイート、プロフィール、DMの返信を読む度に下心が膨らんでいくのを感じた。俺だって若くて健全な男子学生だ。もしかしたら近々会うことになったり…などという希望的観測を頭の中で繰り広げながら二、三日置きに送られてくる「かおる」からの連絡を待っていた。

「まがさんこんばんは。もし良かったらでいいですけど、私の別のアカウントでも繋がってくれませんか? 仲良い人だけと繋がるアカウントなんだけど…」
「かおる」とやりとりを始めてから二ヶ月ほど経った頃、こんなDMが来た。
「もちろん良いですよー教えてもらえて嬉しいです、改めてよろしくお願いします!」
俺は二つ返事で了承した。
「わー、そう言ってもらえて私も嬉しいです! じゃあフォローお願いします!」
文末に書かれていたIDからアカウントへ飛んで、俺は首を傾げた。そのアカウントはフォロー数もフォロワー数もゼロだったからだ。それに反して、ツイート数は1000を越えている。ツイート内容を見ようと画面をスワイプして、俺は恐怖でスマートフォンを取り落とした。
ツイートの内容は全てが一枚の写真のみ。その写真は全部、俺の住んでいるアパートの201号室を外から写したものだったから。俺は狂ったようにスマートフォンの画面をスワイプした。アップロードされているのは同じ写真ではない。朝もあれば夜中に撮影したものもある。晴れの日もあれば雨の日の写真もある。微妙に角度の違う写真も。俺の部屋を、毎日撮りに来ているのだ。全身の血の気が引いた。

「1件の新しいツイートがあります」

ツイートが更新された。俺は震える手で新しいツイートを表示した。
どこだかわからない、ボロボロに朽ち果てた廃屋の写真が一枚。それに文章も書かれている。
「いつも私が家に行ってばっかりだから、今日はこっちに来て」
俺の背後で、玄関の鍵が開けられる音がする。

「やっと会えたね」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?