堪える

こら・える〔こらへる〕【▽堪える/×怺える】 
1 苦しみなどに、耐えてがまんする。しんぼうする。「痛みを―・える」「飢えや寒さを―・える」
2 感情などを、抑えて外にあらわさない。「怒りを―・える」「笑いを―・える」
3 外から加えられた力にたえる。もちこたえる。「強烈な寄りを―・える」


高校時代の私は、盛大に斜に構えていた。
例えるなら「smooth criminal」の間奏中にゼログラビティを披露するマイケルジャクソンばりに傾いていた。
クラスメイトの誰もが聴いたことのなさそうな音楽を聴き、放課後は一人で学校の近所にある廃墟へ赴いて時間を潰し、帰宅すれば高額で買ったプレミア付きのゲームに熱中し、夜な夜な誰も見てなさそうなサイトを開いて、現実では到底耳にすることのないネットスラングや口汚い誹謗中傷の言葉を蓄える、そんな日々を送っていた。

「他の奴らが知らなそうな物事」を収集しインプットしていくことこそが他者より精神的優位に立つ方法だと信じて疑わなかった私は、無事にクラスの輪からはじき出され、いつしか自分自身が「他の奴らが知ることのない人間」となった。ミイラ取りがミイラになるとはまさにこのことである。
しかし私は決して折れなかった、いや折れることができなかった。
雑談に興じている数人の中に「なんの話してんの?」とごく自然に割り込めたらどれだけ良かっただろうか。
しかし己の中で膨らんだ用途不明の知識たちは既に「陰」としての人格形成に絶大なる影響を及ぼしており、僅かに残った「陽」の部分がクラスメイトと交流を図ろうものなら、めちゃくちゃに邪魔し始めるのだ。
そうして私は、勉学や部活動に励むクラスメイト達を見下し「あいつらは全員バカだ」と胸の内で叫び続けた。

自分が一番バカだったことに気づいたのは、高校を卒業した後であった。

そんなカスの山月記のような高校生活の中で、私が一度だけ心の底から笑った出来事がある。

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