一応自己紹介しときます、サジです。横にいる奴も紹介しときます、セニハラです。相変わらず病院の屋上でタバコを吸っている若いガン患者二人です。今日は七夕。
「サジ、ロビーにあった笹の葉に短冊吊るしたか？」
「吊るしたよ」
「なんて書いた？」
「世界が滅びますように」
「俺と同じじゃん、つまらん」
「平井いるじゃん、アル中で入院してるジジイ」
「いるね」
「あいつ『おさけがのめますように』って短冊に書こうとしてたけど禁断症状で手ぇ震えまくってて全然書けてなかった」
「ヒヒヒヒ、めっちゃ面白いなそれ、傑作」
「だろ？ フフフ、お前の字が天の川だっつってな」
「……」
「急に真顔になるな。今の例えは確かに僕が悪かった」
「んなことよりさ、俺たちの織姫様はいつ現れるわけ？ もっと可愛い女の子と屋上でタバコ吸いたい」
「やることは今と一緒なのか…諦めろ、僕らは滅多に外に出られないんだし、院内恋愛しようにも患者はジジイババアばっかりだしな」
「俺考えたわけよ、やっぱ知的な男に女は寄ってくると思うわけ」
「僕の話を聞けよ。あと僕らに足りないものは頭脳じゃなくて健康な体だと思う」
「悲しいこと言うなよ…そういうわけで、知的な言葉しか言っちゃいけないしりとりしよう」
「しょうがないな、ボケ無しでかかってこい」
「じゃあ俺からな、しりとりの『り』リアス式海岸」
「言ったそばからじゃねえかよお前おい。知的な単語に引っ張られてルール無視しちゃってるじゃん。リアス式海岸もどうかと思うけどおい聞いてんのか、顔真っ赤じゃねえかマジでやったのかお前おい」
「ごめん…えっと…じゃあ、リグレット(後悔を表す英単語)」
「今のセニハラにぴったりの答えだな。じゃあトキソプラズマ(哺乳類に寄生する寄生虫)」
「マ、マ……マントル！(惑星や衛星の内部構造)」
「ルイス・キャロル(イギリスの作家)」
「テメェ制約付きのしりとりでしかも『る』責めするとか何様のつもりだコラ」
「えぇ…じゃあルイボスリキュール(ルイボスという植物を乾燥させたものを使用したお酒)」
「どっちにしろ『る』じゃねーか喧嘩売ってんのか、絶対知的なこと言ってやるから待ってろ」
〜五分後〜
「ルービックキューブ…………(正方形の立体パズル)」
「努力は認めるけど僕の五分間を返せよ。武士は食わねど高楊枝(矜持の高いことを例えた諺)」
「ジャックラッセルテリア(犬の種類)」
「葦原中国(あしはらのなかつくに。日本神話において高天原と黄泉の国の間にあるとされる世界のこと)」
「ニンテンドックス(犬と触れ合うニンテンドーDS用ゲームソフト)」
「雀百まで踊り忘れず(幼い時に身につけた習慣はいつまで経っても直らないことを例えた諺)」
「ズッキーニ(野菜)」
「お前さっきから早ければ良いってもんじゃないぞ」
「うるせぇなお前こそさっきからこっちの回答に文句ばっかり垂れやがって」
「少しも知的じゃないんだよニンテンドックスもズッキーニも。バカみたいな単語しか言っちゃいけないしりとりにした方が良いんじゃないのか」
「お？ やるかコラ。じゃあ俺からな、しりとりの『り』リストカット！」
「トンチキ！」
「筋肉！」
「9×5＝45！」
「ゴリラ！」
「ライター！」
「タバコ！」
「これで最後だよ」
「よし、買いに行こう」

地球滅亡まであと五ヶ月。