クソ心霊スポット

登場人物
私・・・筆者、運転手、心霊スポットがやや楽しみ
フォロワーA・・・今回の首謀者、非常に怖がり、大男
フォロワーB・・・ムードメーカー、巻き込まれた被害者、大食い
フォロワーC・・・非常に怖がり、心霊スポットが楽しみ


「何か夏らしいことがしたい」

八月上旬、退屈極まる人間が集うディスコード上でAはそう言った。
「夏らしいことって例えば?夏祭りとか、海とか?」
私の質問に、彼はため息をついた。
「そんな、ねぇ?カップルとか陽キャが楽しむもんを俺らは楽しめないでしょ」
その通りだった。
陰気・陰湿・陰険・インドアな我々が楽しめる夏のイベントなど、皆無に等しかった。
「じゃあ結局通話しながらゲームか」
私の呟きをAは「それも違う」と遮って続けた。
「心霊スポットへ行こう」
怖がりのAの口から、まさかそんな言葉が飛び出すとは。
私は思わず面食らった。
それほどまでに彼は「夏らしいこと」に飢えていたのだ。
オカルトやホラーが女体より好きな私はその言葉に乗った。
「じゃあ私が車出すから、Aは他に来られそうな人誘ってみて。そしたら日程決めよか」
こうしてAの口車に乗せられた二人が加わり、合計四人が私の車に乗せられる運びとなった。心霊スポットへ突撃する計画は、着々と進められていった。

2023年8月26日、20時頃。
AとCを乗せた車内で、私はBの到着を待っていた。
Bは非常に騒がしい人間で、誘った理由も「あいつがいれば怖さが和らぐから」という、本人の意思をまったく尊重しないものだった。
「もしかしたらB来ないんじゃないか?」
「それは困る、あいつがいないと怖い」
車内に暗雲が立ち込め始めたその時、私のスマホが震えた。
Bからの連絡だった。
「ドタキャンかな……」
そう思いながらスマホを開いた私の目に飛び込んできたのは、このような文章だった。

一番ノリノリだった。
「近所のスーパーにいる」
と言うBを迎えに行くと、何やら大きいビニール袋を手から提げたBがスーパーから出てきて、合流するなり言った。
「塩買ってきたから!」

かさばりすぎ

Bは国産食塩(1キロ)を人数分買っていた。
彼を呼んで良かったと心の底から思った。

こうして一行を乗せた車は、一時間ほどの場所にある心霊スポットへ向けて走り出した。
「このお菓子食べていい?」
「塩ならあるから味薄かったらいつでも言ってな」
「ワハハ」
などとやかましい会話を後部座席で繰り広げているAとBを尻目に、スマホを見ながらナビをする助手席のCと、それを聞きながら運転する私。
走り始めて10分が経とうとしていたとき、Aが声を上げた。
「あれ花火じゃね?」
どこかで祭りが行われていたようで、遠くの空に色鮮やかな打ち上げ花火が上がっていた。
「心霊スポットやめてあっち行くか!」
「バカ言うなお前」
「あれ今から行く心霊スポットから打ち上がってるらしい」
「歓迎ムードすぎるだろ」
そんなやりとりをしながらも車を走らせていると、徐々に交通量が減っていき、遂には我々以外の車は一台も見えなくなった。
その時である。

「お、おい……あれ何だよ……」
Bが震える声で窓の外を指さした。
その方向を見て我々は度肝を抜かし、思わず叫び声を上げた。

「麦わらの一味だあああああああああああああああ!!!!」
どうやら我々はパンクハザードに来てしまったらしい。

ここで我々四人の目的地である心霊スポットの紹介をしておこう。
具体的な名前は伏せるが、その場所は100年以上前に作られた小さなトンネルであり、今はほとんど使用されていない、いわゆる廃トンネルである。
そのトンネルが何故心霊スポットとされているのか。
それは某連続殺人事件の被害者が遺棄された場所だから、という噂があるためだ。

そんなこんなで、件のトンネルへと続く山道のスタート地点に辿り着いた頃には21時を少し回っていた。
入り口には柵が設けられており、車ではこれ以上進めそうにない。
街灯はおろか、人の気配もない場所へ駐車し、徒歩で柵を越え、心霊スポットのトンネルへ向かう。
辺りを囲む鬱蒼とした木々や草は、我々四人を呑み込まんとしているようだった。

こわすぎ

A「暗すぎない?やっぱ雰囲気あるな……」
C「スマホのライト消したら何も見えないじゃん」
B「(無言で私の尻を触っている)」
私「幽霊より人が怖い事案が起きてんだけどやめろお前」
そんなやりとりをしながら、数メートル先も見えない闇が広がる狭い道を歩く。塩が重い。

暗すぎ

時折雑草に足を取られながらも、我々は手入れのされていない山道を静かに歩いていった。塩が重い。
口火を切ったのは今回の首謀者であるAだった。
「もう引き返そう、怖くてこれ以上進めないわ」
メンバーの中で一番身体がデカい男が吐いたクッソ情けない弱音に、私とBは呆れかえった。しかしAの次に怖がりのCは、彼に賛同の意を示した。
「トンネルまでの距離も長いし、もう帰ろう」
当然反論する私とB。
「せっかくここまで来たんだからトンネルまで行こうや」
真っ暗闇の山道に、2対2のレスバトルが虚しく響き渡る。
遺棄された被害者も参戦してきそうな激しい議論が繰り広げられたが、
「じゃあ二人で行ってくれば?」
「そういうことではないじゃん」
Cの無慈悲な一撃に私とBが折れ、我々は車へと引き返す運びとなった。
しかし、さきほど来た道を歩き出した瞬間、Bが恐ろしい一言を発した。

「やばい……おしっこしたくなってきた」

A「お前、水場は霊が出やすいんだぞ」
私「いやおしっこは水場にカウントされないだろ」
B「草陰から手が伸びてきてチンチン持ってかれたらどうしよう」
C「バカ言ってないで早くしてこいよ、離れたとこで待ってるから」

心霊スポットで尿をぶちまけるBを遠目に見ながら、我々は車へと急いだ。
塩が重すぎる。

帰る途中で中華料理屋に寄った。

頼みすぎ

全員が食欲に取り憑かれていたため、あまりにもわんぱくな注文の仕方をしてしまった。


食べすぎ

大食漢のBが全てを呑み込む形で無事に完食した。
彼を呼んで良かったと心の底から思った。


燃えすぎ

ついでに近所の公園で花火もした。
三人を送り届け帰宅したのは深夜2時過ぎだった。
もらった塩をその辺に放り出して泥のように眠った。

非常に夏らしい、充実した一日だった。

何のオチもない記事で申し訳ないが、帰り道で見かけた黒猫の写真に免じて許してほしい。

かわいすぎ


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