サジニセニハラ ステージ3

僕の名前はサジ。いや、本名ではない。皆がそう呼んでいるだけだ。隣にいる男はセニハラ。こいつもまた、皆にそう呼ばれているだけだ。ちなみに僕らは二人ともガン患者。
日が暮れて辺りが暗くなってきている。病院の屋上で、僕らの吸っているタバコが手元や口元で赤く光っている。
「犬と狼の時間だなあ」
「ん? 何だそれ」
「海外の古いことわざみたいなもんだよ。犬って人間と共に生きてきた動物だろ? かたや狼は野生の動物。辺りが暗くなって犬と狼の判別がつかなくなる時間のことを、犬と狼の時間っていうんだよ」
「めっちゃカッコ良いじゃん何それズルくね? 俺もカッコ良いこと言いたいんだけど」
「言ってみて」
「…カタツムリの時間だな…」
「もうダサいじゃん何それ」
「カタツムリって性別がないんだよ。雌雄同体っていって、全てのカタツムリはオスでありメスでもあるわけだ。で、辺りが暗くなってカタツムリのオスとメスの判別がつかなくなる時間のことを、カタツムリの時間っていうんだよ」
「ダサくない? ダサいしちょっと気持ち悪くない? しかも後半丸パクリしてなかった? カタツムリよりセニハラがダセぇよ」
「じゃあお前もっとカッコ良い豆知識言えるのかよ」
「言える」
「言ってみろやアホンダラボケ」
「何でキレてんだよ…えーと、じゃあ、どこのグループにも属さない奴のことをさ、一匹狼って言うじゃんか。ある番組で、本当の一匹狼はなんて言ってるのか検証したんだってよ。動物の言葉が分かる機械持って、海外まで行って」
「へぇ、面白いな」
「で、ようやく群れからはぐれた正真正銘の一匹狼を見つけて、そいつの遠吠えを機械が捉えたんだ、何て言ってたと思う?」
「早く教えて」
「『僕は何をしたらいい?』」
「カッコ良…え? 何それカッコ良…切なカッコ良い…カッコ良すぎるだろ…ズル…」
「さっきから思ってたけどズルってなんだよ何もズルくねぇよ」
「いやズルいわ。狼出してくるのがズルい」
「セニハラもカッコ良い動物出したら良いだろ。カタツムリとかじゃなくて」
「バカにしやがって、じゃあ俺の番な」
「はいどうぞ」
「カメムシってさ」
「待てや」
「密室で天敵に襲われて臭いニオイを出すと」
「待てって、おい、お前」
「なんだよ」
「『カメムシってさ』の出だしで話し終わった後『カッコ良い』に繋がると思ってんのか?」
「思わない」
「良かった、ガンが脳にまで回ったのかと思った」
「今回は俺の負けってことにしといてやる」
「さっきからズルとか勝ち負けとかなんなん?」
「いいから次、サジの番だぞ」
「さっきのカメムシを一話としてカウントできるセニハラのメンタルが恐ろしいよ…タバコ切れそうだからラストな」
「来いよ。もうカッコ良いなんて思わねえ」
「…僕の話なんだけど」
「おいおいおい。ハードル上げてくじゃねーかおい」
「ガンって診断された時『ガーン』ってマジで言った」
「カッコ良…」

地球滅亡まであと二ヶ月。

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