前回の更新から2ヶ月が経とうとしていますが、世界情勢好転していないですね…。いや、少しずつ動いてはいるのか？ 良い方に進んでいるのか悪い方に進んでいるのかあまり判断できません。

　初めての方は初めまして。こちらのシリーズは私なりの切り口で現代史を振り返っている世界史連載コラムです。バックナンバーはこちらからどうぞ。

　今回も引き続き世界大戦について書こうと思いますが、当然、戦争には関わった人の数だけ真実があります。誰の視点でどの切り口で書いても到底網羅できるものではありません。

　本連載は、あくまで私自身が経験したり直接情報を見聞きした思い入れのあるエピソードを中心にするよう心がけています。触れないからと言って存在を無視している訳ではありませんので、それを踏まえた上で読んでいただけると嬉しいです。

　なぜ先にこの話をしたかというと、今回は世界大戦をアメリカに住む日本人の視点で語りたいと思ったからです。世界大戦については何回かに分けて複数の切り口で触れていきたいと思っているところです。

ヒーローかヴィランか

　アメリカは第一次世界大戦前まで「アメリカとヨーロッパは互いに干渉しない」という孤立主義（モンロー主義）をとっていました。なのでヨーロッパで侵略を始めたドイツを非難はしていたけど、できる限り関わらないようにしてきました。ぶっちゃけ対岸の火事ですもんね…。
　その時に大統領だったのが民主党のウィルソン。第一次世界大戦真っ只中の1916年の大統領選では「He kept us out of war（彼は米国の参戦を回避してきた）」というスローガンで再選したにも関わらず、その翌年に「すべての戦争を終わらせるために」と言って参戦。結果だけ見ると「連合軍を勝利に導いた超大国」になりました。

　それを実現したウィルソンは、国内に女性参政権を導入し、国際連盟を提案し、民族自決の原則（それぞれの民族は自らの運命を自ら決するべきである）を盛り込んだ１４ヵ条の原則を発表し、休戦と講和の実現に貢献したことによって1919年にノーベル平和賞を受賞した人物。……この一文だけ読むと一見とても良心的な政治家に思えます。

　その一方で、2020年のBLM（黒人人種差別抗議運動）で改めて彼の人種差別主義者的一面が注目され、アメリカ国内でも非難を浴びています。

二大政党の変遷　

　アメリカを理解するには、まず二大政党について知っておかなければなりません。この間、友人にとても分かりやすい図を教えてもらったので、Diamond Onlineのこちらを紹介させてもらおうと思います。

　現在、移民やマイノリティは民主党支持、共和党は白人至上主義のイメージが定着していますが、元々は共和党の方が奴隷解放を訴えたリンカーンを祖としています。一方、ウィルソンは南北戦争以来初の南部民主党出身者で、堂々とKKK（白人至上主義の秘密結社）に共感していました。時代と共に逆転しているのがアメリカの不思議。

　ふざけた例えで申し訳ないですが、よくあるパニック映画でアメリカが無政府状態になった時、腕っぷしに自信があったり、良い武器を所持していたり、既に統率の取れた徒党を組んでたりして、原始的な弱肉強食社会でも生き残れそうなのが現在の共和党支持層のイメージです。そういうタイプにとってルールは最低限であるほど都合が良い（だから銃も規制してほしくない）。

　民主党は「理性的な強者が仕切って弱者も生き残れる社会を作る」のを目標にしています。同じくパニック映画なら「大丈夫、誰一人死なせはしない！」と言うカリスマ主人公を中心に結束した個性豊かな面々のイメージ（少年漫画でありがち）。それ自体はありだと思うんですが、ウィルソンにとっての主人公像は白人限定だったので、平和を唱える差別主義者でも本人としては筋が通っていたのでしょう。

　彼が提案した世界初の集団安全保障「国際連盟」もこの理念を応用したもの。だから発案自体は良くても独善的な内容が反発を呼ぶことになりました。

　民族自決も認められたのはごく一部であり、アジアやアフリカの民族は適用外。ヴェルサイユ条約22条の『まだ自立しえない人々が居住しているところなので先進国が後見する必要がある』という内容に彼らの価値観が垣間見えます。

　「こういう便利な方法があるよ」「こうやれば上手くいくよ」と先に経験した人が教えるのは良いことだと思うんですが、永遠に対等になれないシステムを敷かれ、「ただ私に従っていればいい」という態度を取られ続けていたら不満が溜まっていくのは当然です。

保守化するアメリカ

　この時代の日本を称賛することはできないですが、こんな価値観の欧米列強と渡り合うのは相当ストレスが溜まっただろうなと私まで胃が痛くなります。

　日本は黄色人種として、国際連盟の規約の中に「人種差別の撤廃」を明記するよう主張しました。その提案はアメリカの黒人含め、世界のあらゆる有色人種が期待して成り行きを見守りました。投票結果は賛成11票と反対５票。多数決なら賛成になるのにウィルソンは「全会一致でなければならない」と否決。これもまた日本と米英の関係が悪化する要因のひとつになりました。

　そこまで口を出しておきながら、結局アメリカは国内の反発を受けて国際連盟に入りませんでした。世界大戦で疲弊した国民たちが「他の国のこととかぶっちゃけどうでもいい」状態になったのが大きな理由だと思います。ウィルソンのいた民主党は選挙で敗退し、「やっぱり我々は孤立主義に戻るべきだ」 としばらく共和党政権が続きます。

　でもそれで事態が好転したわけじゃない。以前『対等と平等』の記事でも触れたように、欧米諸国では日清戦争後から「黄禍論」＝日本人を脅威に思う人々が増えていました。国内に増えた移民を圧迫・制限する政策が進みます。しかもそれは北欧・ドイツ・イギリス・アイルランドなどの移民は受け入れ、東欧・地中海系は制限強化、黒色・黄色人種は全面禁止と、人種によって差があるものでした。特に日本人は日本製しか買わず、働いた金を日本に送る、アメリカ経済に貢献していないと批判されました。当時の移民は確かにそういう意味でも大切だったため、日本は更にアメリカへの憎悪を膨らませていきます。

　でも、当の日本も他のアジア諸国を差別する立場だったのであまり強く言い返せなかった。日本が掲げた「大東亜共栄圏」も指導する立場が白人から日本人に置き替わっただけ。もし仮に日本が欧米列強とは違うアプローチで中韓や他のアジア諸国に手を差し出していたら未来は変わっていたんでしょうか。

　以前、アメリカが戦時中に作ったという日本の紹介映像を見たことがあります。編集のせいもあるだろうけど、ちょうど現在の北朝鮮と変わらないように見えてとても考えさせられました。天皇陛下万歳と狂信的に崇める民衆、一糸乱れぬ厳格な軍隊。当時のアメリカは今ちょうど我々が北朝鮮を見ている感覚で日本を見ていたんでしょうね。そんな知識しかない段階で、私もどれだけ偏見や恐れを抱かず、その国の人と交流できるだろうか。そしてその国が自分の国を奇襲攻撃したらどれだけ冷静でいられるだろうか。

あなたならどう答える？

　今回の記事はある歌を紹介したくて書き始めたものです。洋楽好きで知らない人はいない有名ロックバンド Linkin Parkの元メンバー、マイク・シノダが歌うKenjiという歌です。この動画はどこかの学生さんが学校の課題で資料映像や映画のシーンを切り貼りしたものだったと思います。映像の著作権的にはグレーかもしれませんが、今となっては貴重な資料だと思うので、ぜひ一度見てほしいです。

　後半の「男たちは志願し、爆弾を持って日本に飛ばされた」というのはおそらく収容所での「忠誠登録」で作られた日系人部隊「442連隊」を元にしたものでしょう。

　連合軍として活躍し、アメリカへの忠誠を示した者。日本に大切な家族がいて祖国を裏切れなかった者。どちらの気持ちも分かるから辛い。私も現在アメリカに住む日本国民ですから、私が同じ立場なら忠誠登録に何と答えただろうと考えさせられます。

　先日、夫が小さい頃に好きで何回も観ていた作品だと言うので、家族でベスト・キッド（1984年）を鑑賞しました。改めて観ると色々ツッコミどころ満載のストーリーでしたが、アメリカ人青年に空手を教えるミヤギ師匠が過去に442部隊で活躍し、妻子を収容所で亡くしていた描写は子どもの頃観た時はよく分かってなかったので驚きました。聞くところによると、この映画が公開されたのはちょうど強制収容所に入れられた日系人の補償問題が議論になっていた頃なのだそうです。よく考えると完全に敵だった国の文化が後にこのようなブームを巻き起こしたのは凄いことですね。

　先ほど載せた記事にも出てきた元442部隊のダニエル・イノウエ氏の名前は、最近ハワイ旅行に行った人は聞き覚えがあるかもしれません。ホノルル国際空港は彼の功績を讃えて2017年からダニエル・K・イノウエ国際空港に改名しました。戦後彼は民主党員となり、日系人初の上院議員となりました。二度とこのような強制収容が行われないための緊急拘禁法撤廃案を提出した他、日系移民の地位向上に大きく貢献した人物です。

翻弄される民主党

　アメリカは確かに色々やらかしてきましたが、そのお節介で救われた命があったのも事実で。例えば私の身近には、第二次世界大戦でロシアとドイツに挟まれどちらかを選べと強要されてドイツを選んだ後、アメリカに保護された東欧系移民がいます。イラクがクウェートに侵攻した時に避難してきたヨルダン人家族がいます。カンボジアが社会主義国家になったので亡命した夫婦がいます。そういう人たちもアメリカに根付いて民主党支持層に加わっていったので、民主党は彼らの存在を無碍にできなくなっていきました。

　そしてその最たる例がヨーロッパの迫害から逃れてきたユダヤ人(しかもお金持ち)。彼らはこれまで迫害されてきた弱者代表として、他の差別を受けてきた人たちと連帯するリベラル派が多かった。だからパレスチナ問題は民主党にとって一層厄介なのだと思います。支持層にはもちろんアラブ系移民もいるので真っ向から対立する。しかもバイデン大統領はカトリック、ハリス副大統領は旦那さんがユダヤ系だし、それぞれプライベートでも難しい立ち位置にいそうです。だから最初はイスラエル支持、あまりにイスラエルの行いが酷いので、少しずつ批判しようとしてるようですが、歯切れの悪い発言しかできていない感じがします。

　それでも、若い世代の頑張りもあって今民主党支持者内ではパレスチナ支持が上回ってきていると聞きました。現在はハリス副大統領の方がイスラエルに対して割と言うようになってきた印象なので、ぶっちゃけ私は副大統領派です。もしかすると、大統領と副大統領で微妙に立ち位置を変えて民主党分裂を避ける作戦なのかもしれません。

　とにかく人道的にも人命救助・停戦が最優先なのは間違いありません。でもその後どう解決するのか全く想像できない。どっちも出ていかないって言うなら共存するしかないと思うんだけども、ここまで拗れてしまったら無理じゃないだろうか。一体どうすればいいんだろう。

こんな時こそ冷静にならないと

　自分の身にも関わってくることとして現在懸念しているのは、この混乱に嫌気がさしてアメリカ社会がまた共和党寄りになるんじゃないかということです。これまでそういうサイクルを延々と繰り返しているので…。今回の件はおそらく来年の大統領選に影響するでしょう。それが国際的に国内的にどんな影響を及ぼすのか分かりませんが、なんだか嫌な感じがしています。

　アメリカを日本に置き換えてみると、共和党の主張も少し理解できます。やっぱり移民に国の命運を託すのは抵抗あるんでしょう（アメリカの場合は白人も移民だよねってツッコミたいけど）。他の国に思い入れがある人たちが政治の中枢にいたら信用できないと言うのも分かる。他国のいざこざにもあまり巻き込まれたくないよね。過去にお前らが関わったせいだって言われても、でもそれ私じゃないしって言ってしまいたいよな。確かに最優先すべきは自国民の生活の安定だと私も思う。

　何より「守るべき弱い存在」と言われる人が自分より良い生活をしてるように見えるからモヤモヤするっていうのが今の日本でも起きてる現象じゃないかと思います。それがあらゆるヘイトにつながってしまっている。

　でもどんな事情があろうと、誠実に生きようと頑張ってきた人がかつての日系移民のような不当な扱いを受けていいわけがない。

　最近アメリカ国内では、ユダヤ系やアラブ系のヘイト被害が後を絶ちません。うちの地域の学校でも関連するいじめがあったようで、注意喚起が来ていました。

　自らヘイトしている人はヘイトし返されても自業自得だと思うんですけど、特に微妙な立ち位置にいる人たちを攻撃する過激派が双方にいるのが恐ろしいです。そしてどちらのことも嫌いだから共倒れになってほしい第三勢力がいるのも怖い。

　先月、ワシントンDCの民主党本部で大規模な抗議活動があり、けが人や逮捕者が出ていました。私は現地に行ってないので、実際に先に手を出したのがデモ隊だったのか警察だったのかは判断できませんが、ゾッとしたのはこの動画を最初に嬉々として拡散したのが共和党の議員だったことです。Anyone else notice how violent the so-called “ceasefire” crowd is?（「停戦をやめろとか訴えてる集団がどれだけ暴力的か私以外も気づいてたりします？」）

　ちょうど私がXを見てた時にリアルタイムで情報が上がってきたので成り行きを見守っていましたが、共和党サポーターが次々とこの状況を楽しそうに拡散しまくってるのに恐怖を感じました。「警察の皆さん、頑張って民主党員を暴力的な支持者から守ってあげてね」「やったー！ユダヤとアラブが潰し合ってるだけでも嬉しいのに民主党本部まで？今夜はパーティだな！」などなど。

　イスラエルとパレスチナの平和が最優先なのはもちろんですが、今アメリカ内で争ってるイスラエル関係者とパレスチナ関係者も対立するだけじゃなくて、もし停戦できたとしたらその後どうしたら現地が受け入れそうか本気で知恵出し合った方がいいと思う。政治家じゃなくて関係者じゃないと分からない感情って絶対あるはずで。争っているうちに双方のアメリカ国内での立場も危うくなっていく気がします。とにかく、これ以上ヘイトを増大させちゃいけない。ヘイトを増やさない方法で意見を表明していかないと。

　2024年は平和な年にしたいですが、一体どうなっていくんでしょう。色々不安ですが、希望は捨てずにいきたい。