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【電子逮捕状】VIVANTは国策番組か逮捕令状の電子化に纏わる一考察。【タブレット持参】

逮捕状をタブレットで示す時代_



法制審議会は4日、刑事手続をIT化する刑事訴訟法改正に向けた最終案をまとめた。逮捕状をタブレットで見せる時代_利便性に潜む市民の権利侵害とは何か。
また人気テレビ番組『VIVANT』が令状主義の否定、世論が刑事訴訟改正を歓迎するようなストーリー展開を国策番組なのではないか、ということを考察してみた。(※裁判所が発付する令状にはいくつか種類がありますが、このノートでは主に捜査令状の発付について書き残します)


TBSの名作『VIVANT』は国策番組か

TBS系日曜劇場で2023年7月16日から9月17日まで放送された冒険アクションドラマ『VIVANT』(堺雅人主演)は最終回の視聴率が19.6%を記録し、ドラマ視聴率の低迷に悩む放送業界に朗報をもたらした。聞くところによると、スポンサーが殺到したらしい。

何故なら物語の展開が早く、次々に謎解きが行われるので録画ではなく視聴者がテレビ視聴に熱中して、抜群のCMの広告効果が期待できる為だそうだ。「面白い番組を作れば視聴者もスポンサーも喜ぶ」という当たり前の相乗効果を『VIVANT』が証明した形だ。筆者もやや遅れて(尊敬するフォロワーさんが見ていたので)視聴し、堺が演じる主人公・乃木憂助の過酷な運命に引き込まれて毎週Xで成り行きを推理しながら最終回を心待ちにした。

しかし、多くの名シーンの中に含まれる法規を無視した主人公の行為に疑問や批判の声も多く挙がった。

主人公の愛国無罪に驚く

第4話で乃木は国際テロ組織「テント」の破壊工作目的地が日本だと知り、その工作員「モニター」である山本巧(追田孝也)を自殺に見せかけて「排除」する。いわば、自衛隊の特殊組織「別班」(べっぱんと読む)の乃木がスパイを見つけて処刑した形だ。乃木は山本を「美しい我が国を汚すものは何人たりとも許さない」と宣告して首吊りに見せかけ、誇らしげに橋の欄干から突き落とす。

主人公が愛国者を名乗りながら超法規でスパイを処刑した。自衛隊の非合法組織として、独自の判断で山本を死罪として処刑した形だ。筆者は愛国を口にすると何をやっても許される中国のスローガン「愛国無罪」を思い出した。

幾度となく乃木を窮地から救い出した公安外事課刑事の野崎守(阿部寛)は自殺現場の防犯カメラが機能していないことに直感で「別班」乃木の仕業ではないのかとその存在に不気味な不審感を抱く。乃木は何者なのか_

日本は犯罪 が起きると警察が犯罪捜査し、犯罪者を見つけ、逮捕し送検する。検察は警察から来た捜査資料をもとに起訴するか不起訴にするか判断し、起訴したら裁判所で法と証拠に基づいて審理されて判決が決まる、そうやって三つの長いプロセスを経て初めて人を犯罪者として国家が人を裁ける。しかし『VIVANT』には「別班」の「愛国心」があればそんなプロセスは無用だとするメッセージが隠れている。

私刑の憲法違反をヒーローがテレビで・・・


日本国憲法では32条と37条で裁判を受ける権利が保証されている。
しかし『VIVANT』はそんなものはいらない、スパイを見つけたら独断で処分してしまえばいい、警察組織の公安には絶対にできない行為だ。スパイを退治するのは自衛隊の特殊組織「別班」の方が便利で優れている、と視聴者が感じるように作られている。しかし愛国者を名乗りながら日本国憲法に従わない主人公。どこかに矛盾が潜んでいないだろうか。

令状発付のために裁判所は眠らない

日本の刑事司法は令状主義である。これが何かというと、憲法第33条に規定がある。「何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、またはその他の刑罰を科せられない」つまり、令状なしにはどんな悪人であろうと現行犯逮捕でない限り、令状なしには無闇矢鱈と拘束されたり、拘留されたりできない。

この説明は、裁判所HPにある「令状事件について」がわかりやすい。
裁判官の逮捕・捜索令状を発付する側の意見で、基本的人権を守るための砦として、事件の記録を見て逮捕が適切かどうか判断し、令状を発付する。

事件は24時間発生するので、裁判所に裁判官が当直して捜査機関のために令状が発付できるよう体制が整えられている。華やかな刑事ドラマには決して登場しない日本の治安・司法を支える裁判所の知られていない部分だ。
そして刑事は必要な手続きとして、逮捕状請求書とともに、捜査資料を添付して逮捕の許可をもらうために裁判所へ赴く。24時間の区切りがない苦労の多い責任ある仕事だ。

『VIVANT』には令状主義の否定がサブリミナルで隠れている

このように、令状の発布とは警察が適正に捜査し、逮捕しても良いか適切な証拠を集められたかを中立な立場で裁判所がチェックする機能で冤罪防止の為にも絶対に必要な手続きだ。そしてその令状を取るために刑事が裁判所へ今まで出向いていたが令状の電子化で簡単に取得できるようになるのが今回の刑事手続きIT化だ。

「別班」乃木はその令状を取ることなく、自己裁定で工作員の排除に成功した。さらに『VIVANT』には令状主義の否定的メッセージが伝わる回がある。それは6話だ。

「別班」はテントの居所をを探るために天才ハッカーをアパートに匿う。それを監視する公安はアパートにハッキングできる機材が搬入されるのを確認する。何かの謀議がハッカーを使って行われている_「別班」の真意を探るために公安は大田の部屋に踏み込むことを決断し、令状を取る。この場合、身体拘束を目的としない家宅捜索令状だ。

しかし、「別班」の乃木達は裏をかいてアパートの部屋に抜け穴を作り、隣の部屋をハッキング基地にしていたのだ!しかし公安が取った令状は一部屋分。隣に踏み込むことは出来ない。裁判所に行って令状を取り直しているうちに「別班」とハッカーはアクセス記録を消去してしまうだろう。
公安部長、佐野雄太郎(坂東彌十郎)は引き上げを決意する。問題は引き上げを部下に告知する佐野と佐野とのやりとりだ。

部下「すぐに踏み込みますか?」
佐野「まて!令状なしにどうやって踏み込むつもりだ」
部下「ではすぐにでも!」
佐野「令状を取り直しているうちにデータは消される!さあ引き上げだ!」野崎「逆に『別班』なら令状のことなど考えもしないで踏み込むんでしょうね」
佐野「これが国家公認の諜報部隊と裏の諜報部隊の差というやつだ、車を出せ」

これを見た筆者はこれは令状主義の否定では?そのメッセージが隠されているのではないか、視聴者にとって「刑事が捜査するとき、令状を取らなくちゃいけないなんて面倒だよね」と受け取りかねない内容だと危機感を覚えた。



予見した刑事手続の改正

簡単に令状が取れる?懸念する声は無いのか?



ネットで家宅捜索、逮捕令状が取れると言うことはメール等で裁判所に請求することになるだろう。そうなると、逮捕状請求書と共に送付する事件記録もメールで行う事になる。そうなった時に、逮捕しても良いのか、事件記録がきちんとチェックできるか懸念が生じる。


証拠はないが書き残しておく


刑事手続の電子化において、市民に反対の声が上がらないように人気番組の中に「令状主義は面倒」「令状がなくとも愛国心があれば犯人の処刑は正義」と行った人権無視のメッセージが隠されているのではないか、『VIVANT』は愛国無罪、令状不要の国策的番組ではないかと一抹の不安を覚えたので書き残しておく。

刑事手続のIT化、手続きが簡略化され電子逮捕令状になることによって、捜冤罪や不当逮捕が増える事を懸念し、ITによる市民の疑問の声を封じこむ意図が『VIVANT』には隠されているのではと感じた視聴者がいたことを記録に残します。 (了)

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