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ブレグジットと九州。

 Brexit(ブレグジット)とは、イギリス[Britain]が出て行く[exit]を掛け合わせた造語である。いま、イギリスはEUからの離脱に向けた最終局面にあるが、重要事項が決まらないままの「合意なき離脱」が現実味を帯びてきた。

※カッコの中はイギリスに当てはめたもの。

 20XX年。九州議員団連合(イギリス連合王国)の座長(首相)を務める福岡県知事、皐月鞠雄(テリーザ・メイ)は、連日の議会からの追求に疲れ果てていた。「再交渉はしていく。合意のないままの離脱などはありえない」。言葉に力は入らなかった。与野党双方から激しく突き上げられ、政権は窮地に立たされていた。

 九州(イギリス)は日本(EU)から離脱できるのか。国内のテレビは朝から晩までその話で持ち切り。書類を叩きながら演説する議員たちを見ながら、皐月は天を仰いだ。「こんなことになるなんて」。前任者の亀鶴太郎(デーヴィッド・キャメロン)は離脱推進派ではなかったが、国内世論の高まりを抑えられず州民投票(国民投票)に踏み切った。民意は亀鶴の予想に反して「離脱」を支持。思惑の外れた亀鶴は退陣し、皐月が離脱のプロセスを遂行することになったのだ――。

 日本(EU)脱退の動きは福岡県(イングランド)で始まった。ポピュリズム政党などが「九州(イギリス)には十分な経済力があり、日本(EU)から独立すべきだ」と民衆をあおった。「独立を果たせたなら九州(イングランド)はもっと豊かになるし、福岡市(ロンドン)は本当の首都として発展を続けられる」。

 確かに九州島内(イギリス国内)には日本(EU)から独立すべきだという意見はくすぶっていた。外交や経済政策で日本政府(EU委員会)との乖離が鮮明になり、外国人労働者の受け入れを巡っても対立が鮮明になっていた。しかし、離脱をちらつかせることが、日本(EU)から有利な条件を引き出すカードになっていたのも事実。ポピュリズムが台頭する前は、絶妙なパワーバランスが保たれていた。

 3年前の州民投票は52パーセントが賛成。とりわけ人口が多い福岡県(イングランド)で圧倒的な賛成票を得た。亀鶴知事は「私は離脱を支持しないが、我々の政治は否定された」と言い残して辞任。州民投票で民意が示された以上、九州(イギリス)はもはや現実に離脱を進めなければならなくなった。

 離脱をきっかけに福岡県(イングランド)や福岡市(ロンドン)の力が大きくなることに抵抗を覚える県やエリアも多い。州民投票では熊本県や大分県(スコットランド)は残留票が多数を占め、佐賀県(ウェールズ)の一部や、福岡県(イングランド)第二の都市、北九州市(マンチェスター)も票が割れた。
 さらには福岡県内(イングランド内)の吉富町などでは大分県(スコットラインド)の自治体との合併を望む声があり、大きな合併や離脱の前段階で論戦が続いている。福岡県(イングランド)であっても内側は一枚岩ではない。

 福岡市(ロンドン)から離れている宮崎県や鹿児島県(北アイルランド)にとってみれば、九州(イギリス)の日本(EU)からの独立はメリットが小さい。「九州(イギリス)はバラバラだと言われるかもしれないが、バラバラでも構わない。県民の生活のほうが大事だ」。九州南部選出の議員はそう言い放った。国内旅行者の減少につながれば地域経済への打撃は大きい。経済的利益を考えて沖縄県(アイルランド)と合併し、「南国連合州(アイルランド島)として日本(EU)にとどまるべきだ」という意見も飛び出した。

 まとまっているようで、まとまっていない九州(イギリス)。「これ以上の譲歩はできない。州内で問題を片付けてほしい」。日本(EU)の政治に強い影響力を持つ大阪州政府知事(ドイツ首相)の目瑠家餡子(アンゲラ・メルケル)と東京特別州知事(フランス大統領)の江馬幕朗(エマニュエル・マクロン)は共同で強いメッセージを発し、九州(イギリス)の動きを牽制した。
 日本(EU)からの離脱は達成できるのか。福岡市博多区(ロンドン・ウエストミンスター)にある九州議員団議会棟では今日も怒号が響き、テレビは知事のうつろな目を映し出した。コメンテーターの言葉も昨日と同じだ。「民意をあおり、政治家が突っ走り、イギリスは八方塞がりになった。あれからこの国は何を学んだのか」。

(ストーリーは人物名、団体名、地名、発言等いずれもフィクションです)

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