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『夢見るミミズ』(童話)

(あらすじ)
「蝶々になって飛んでみたい」無謀な夢をもったミミズは、幾多の困難をこえて夢を叶えようとするが…夢にやぶれたすべての人たちに送る、大人のための寓話。



ある所に、一匹のミミズがいました。特別に変わったところのない、どこにでもいる普通のミミズです。

ミミズ君はいつも土の中深くで生活しています。そこは安全で快適ですが、楽しみの少ない場所でした。

ある日、土の中がつまらないと感じたミミズ君は、試しに地上に顔を出してみました。

ミミズ君はびっくりしました。そこには蝶々さんが楽しそうに飛んでいたからです。蝶々さんはとてもとても美しく飛んでいました。

蝶々さんの美しさに見とれたミミズ君は思いました。「よ~し、僕も蝶々さんのようになって、空を飛ぶんだ」

ミミズ君に夢ができたのです。これまでの生活とちがい、今のミミズ君は希望で胸がいっぱいでした。

「ねぇ、どうしたら、あなたみたいになれるの?」ミミズ君は蝶々さんに聞きました。

「サナギになれば、私のようになれるわ」蝶々さんは、さも当たり前だと言わんばかりに答えました。

そこで、ミミズ君はサナギさんに会いに行きました。

「サナギさん、サナギさん、どうしたら、あなたのようになれるの?」ミミズ君はサナギさんに聞きました。

しかし、眠っているサナギさんは答えくれません。

仕方ないので、ミミズ君はサナギさんをゆすって起こしました。「ねぇ、サナギさん、起きてよ」

「青虫に聞いてよ。眠いんだ。グー、グー」サナギさんはそれだけ言うと、また眠ってしまいました。

次にミミズ君は、青虫君に会いに行きました。

「モグモグモグ、ああ、お腹が減った。モグモグモグ」青虫君は元気いっぱい、おいしそうに葉っぱを食べていました。

「ねぇ、青虫君、どうしたらサナギさんのようになれるの?」ミミズ君は聞きました。

「それはお腹いっぱい葉っぱを食べたからだよ」

ついに蝶々さんのようになれる方法を見つけたミミズ君は、喜んで葉っぱにかじりつきました。

モグモグモグ。でも、ミミズ君には葉っぱがちっともおいしくありません。

「青虫君、この葉っぱ、ちっともおいしくないよ」

「そんなことないよ、僕にはすごくおいしいけどなぁ。それにさなぎになりたかったら、葉っぱを食べなきゃ駄目だよ」青虫君は忙しそうに食べ続けます。

さなぎさんにならなきゃ、蝶々さんになれない。ミミズ君は我慢して葉っぱを食べ続けました。

しばらくすると、青虫君たちは、さなぎになりました。でも、依然としてミミズ君は、サナギにはなれません。

「まだ足りないんだ。もっと葉っぱを食べないきゃ、モグモグモグ」ミミズ君は葉っぱを食べ続けました。

やがて、サナギさんたちはみんな蝶々になって飛んでいきました。

ひとり残されたミミズ君は、ついに葉っぱを食べるのをやめました。

「僕は蝶々さんのようにはなれないんだ」ミミズ君の目から、たくさんの涙があふれました。

落ち込んだミミズ君は傷心の旅にでました。野を越え、山を越え、進んでいきます。

しかし、ミミズ君の気持ちはいっこうに晴れませんでした。蝶々さんを見るたびに、心が痛んだからです。

「どこか蝶々さんのいない所へ行こう」

さらに進み、ついにミミズ君は荒れ地にたどり着きました。「ここなら蝶々さんがいない。ここに住もう」

たくさんの旅をしたミミズ君は、お腹が減っていたので、荒れ地の乾いた土をたくさん食べました。そして、お腹がいっぱいになると、たくさんのウンチをしました。

ミミズ君は何度も食べ、何度も大きなウンチをしました。

そんなある日、一粒の種が風に吹かれて飛んできました。そして、その種はミミズ君のウンチに着地しました。

春になると、その種から芽が出てきました。

夏になると、素敵な花が咲きました。

「なんてステキな花なんだろう」

美しい花は、ミミズ君の心を動かしました。「もっといっぱい花を咲かせたい」

次の日から、ミミズ君はたくさんたくさん乾いた土を食べ、たくさんたくさんウンチをしました。するといつしか荒れ地は豊かな大地に変わりました。

春になると、たくさんの種から、たくさんの芽が出てきました。

夏になると、たくさんの花が咲きました。

花たちの香りに誘われて、たくさんの蝶々さんがやってきました。蝶々さんたちは、楽しそうに飛んでいます。蝶々さんたちはとってとっても美しく飛んでいました。

蝶々さんたちを見ていたミミズ君は、うれしくて微笑みました。

もうミミズ君は、蝶々になりたいとは思いませんでした。なぜなら、ミミズ君は自分だけの運命を見つけたからです。

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