仮想アイドルグループ「夏目坂150」と市場経済 (2019・早稲田大学・商学部・政治経済)

以前、東洋大学の数学の問題で「架空のアイドルグループ『SGU37』」を題材にしたものをとりあげました。
アイドルと特典商法(2017・東洋大学・数学)
こちらは『政治・経済』の科目としての出題です。

「夏目坂」は東京都新宿区に実在する坂道の名称。早稲田大学(東京専門学校)で英語の講師をしていた夏目漱石に由来。
「150」は、早稲田大学が掲げている「Waseda Vision 150」(創立150年プロジェクト)。
http://www.waseda.jp/keiei/vision150/
(ちなみにAKB48は最初は48人くらいでしたが今は人数とは関係ありません。乃木坂46などの坂道グループも46人ではありません)

「需要関数」という難しそうな言葉が使われていますが、要するに「価格によってチケットの売れる枚数が決まる」ということです。
「線形」というのは「グラフを描いたときに直線になる」、要するに「1次式で表される」ということです。
今回の表1から「チケット価格が1円上がると需要が2枚減少する」ことが読み取れ、チケット価格を x(円) とするとチケット需要は -2x + 8000(枚) とわかります。この -2x + 8000 が需要関数にあたります。
チケットの上限が4000枚であることから、不等式
-2x + 8000 ≦ 4000 より x ≧ 2000 という制限がつきます。
この制限のもとで、チケット販売代金
x * (-2x + 8000 ) (円) を最大にする x の値を求めます。
数学I「2次関数」で使われる平方完成の手法を用いて
x * (-2x + 8000 )  = -2 ( x - 2000 )^2 + 8000000
これより、チケット販売代金を最大にする価格は
x = 2000 (円) … (イ)
このときの販売枚数は4000枚(完売)、販売代金は800万円です。

アイドルの同じCDを何十枚・何百枚も買っている実体験があればすぐに正解が出せると思います(笑)。ただしこの問題文だけでは
・配信はCDと比較して販売価格がかなり低い
(配信では通常1曲250円、CDは3曲程度+Instrumentalで通常1080円)
・CDというメディアを再生する機械がない環境も増えており、その場合は配信で聴くしかない
という実情は踏まえられません。それはともかく。

選択肢(ア)
投票券を別売りにすれば、CDから投票券価値が無くなるためCDの価値は下がりその需要は少なくなる(っていうかCD買わなくなるよね?)。正文。
選択肢(イ)
正誤判定が微妙。「価格が多少違う」というのはCD単体と配信どちらが安いのか、「販売が見込める」というのは採算がとれる程度の販売量を指しているのかが不明。
選択肢(ウ)
問題文で「投票券価値」について触れられており、投票券自体が無料配布されればその需要は多くなる。よって誤文。
選択肢(エ)
1人で同じCDを複数枚購入することで販売元の利益は上がるため、その楽曲を聴くための費用を多めに支払っていることになる。(「お、俺は楽曲派だから…この楽曲にお金を払っているんだから…」という苦しい言い訳をしながら…)正文。

正解は (ウ) となるのでしょう。選択肢 (イ) は、「楽曲だけ(投票券なし)のCDが1枚も売れないということはない」と好意的に解釈しておきます。

「長期的な利潤最大化」というと壮大なテーマですが、たとえば
・長くやってると他の運営に手法を模倣されて追随される
・アイドルっていつまでも人気続くわけなじゃいよね?
といったことが挙げられます。
『25歳定年説』?よくわかりません(棒)
Juice=Juice『25歳永遠説』(Juice=Juice [“25 year old forever” theory])(Promotion Edit)

選択肢(ア)
メンバーが変わると握手会の告知や運営方法も変更が入るため、別の費用がかかります。正文。
選択肢(イ)
「アイドルのサービスに対する需要が十分増えない限り」というのは「アイドル市場に消費者が投入できる金額は無制限ではない」ということです。要するに「アイドルグループ同士でヲタの財布を奪い合いするしかない」ということです。正文。
選択肢(ウ)
アイドルの握手会がWmx株式会社の独占であれば自社内での効率的な資源配分も達成可能といえますが、ライバル他社の参入を考慮すれば自社に十分な収入・利益が入るかどうかもわかりません。誤文。
選択肢(エ)
これも微妙な文章。抽選や先着順といった手法は実際にCDの特典サイトで実施されていますが、これによって超過需要状態は「解消」されたのではなく「超過需要(握手会に参加したくてもできなかった人)のぶんを切り捨てている」というのが実態に近いでしょう。ただ、抽選や先着順にすることによってファンの心理はあおられ、CDの購入(申し込み)枚数は増加しますので、「握手券CDの価格を下げても利潤を減少させない」という目的は達成されるといえるでしょう。これを市場メカニズムと呼ぶかどうかが微妙です。(「市場メカニズム」というのは需要供給曲線の交点に取引点を移動させるのが本来の意味ですから…)

正解は (ウ) になります。

この問4は、問1と同様に完全に数学の問題です。

問4a
先行チケット販売代金は
p * (3900 - 1.3p) (円)
となり、これを最大とする p の値を求めます。問1と同様に平方完成を行って
p * (3900 - 1.3p) = -1.3 (p - 1500)^2 + 1.3*1500^2
よって先行チケット販売代金を最大にする先行チケット価格は
p = 1500 (円) … (イ)
ちなみにこのときの先行販売枚数は
3900 - 1.3p = 1950 (枚) となり、次の設問の解答に影響してきます。

問4b
p = 1500 のとき 3900 - 1.3p = 1950 なので、一般販売にまわせるチケットの最大枚数は 4000 - 1950 = 2050 (枚) です。
表2より、一般チケット価格が 1円 上がるとチケット需要は 0.7枚 減少することがわかり、一般チケット価格を y (円) とするとチケット需要は
-0.7y + 4200 (枚)
となります。チケットの最大枚数の条件より
-0.7y + 4200 ≦ 2050 ∴ y ≧ 21500/7 = 3071. ...
チケット価格が100円刻みという条件より、 y ≧ 3100 という条件下でチケット販売価格の最大を調べることになります。
y * (-0.7y + 4200) = -0.7 (y - 3000)^2 + 0.7*3000^2
チケットの枚数と価格の条件より、
y = 3100 (円) … (ケ)
のときチケット販売価格が最大になります。
このときの一般販売枚数は
-0.7y + 4200 = 2030 (枚) となります。

問4c
チケット販売枚数の制約条件は
( -1.3p + 3900) + (-0.7y + 4200) ≦ 4000 より
1.3p + 0.7y ≧ 4100 … (1)
この条件下で、先行と一般のチケット販売価格の合計
S = p * (-1.3p + 3900) + y * (-0.7y + 4200)  … (2)
の最大を調べることになります。
これを厳密に計算すると、「py座標系で (2) が描く楕円が (1) の表す領域と共有点をもつようなSの最大値」となってしまいますね。
とりあえず (2) は、問4aおよび問4bの結果から
S = -1.3 (p - 1500)^2 -0.7 (y - 3000)^2 + (定数)
と変形できるのでチケット販売枚数の制約がなければ
p = 1500 かつ y = 3000 … (3)
のときに最大となります。しかしこのとき、 (1) 式の左辺の値が 4050 となり不適です(50席足りないことになります)。
よって (3) の状態から金額を少し上げてみてチケット販売枚数を4000枚以内におさえることを考えます。
チケット価格が100円刻みであることを考慮して
p = 1600 かつ y = 3000 … (3a)
p = 1500 かつ y = 3100 … (3b)
の2つの状態を考えます。この2つはいずれも不等式 (1) をみたします。
式 (2) に代入することで
(3a) : S = 1600 * 1820 + 3000 * 2100 = 2912000 + 6300000 = 9212000
(3b) : S = 1500 * 1950 + 3100 * 2030 = 2925000 + 6293000 = 9218000
よって (3b) のほうがチケット販売価格の合計が大きいので
先行チケット販売価格 1500円 … (ス)
一般チケット販売価格 3100円 … (ネ)
という結果が得られます。

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