星のない劇場 ep1-2 – Yohji Yamamoto 1999SS collectionが傑作である理由

黒の衝撃の副作用

黒い服を着た人が街を往来する光景に慣れてしまった僕たちが、<黒の衝撃>の真の衝撃度を想像するのは難しい。そこで、今回はフランソワ・トリュフォー監督の映画『黒衣の花嫁』を紹介したい。

フランスの日常生活の中で黒い服(喪服)がどれだけ異様なものだったのか、追体験できる。ストーリーは結婚式中に夫を殺された妻が復讐を果たすというちょっとチープなミステリー。でも映し出される風景は古き良きフランスの匂いでいっぱいだし、衣装担当はヨウジが敬愛するピエール・カルダンだし、飽きない。モード好きの方には是非見て頂きたい作品です。
出演時、主演女優のジャンヌ・モローは40歳。役作り的にちょっと厳しかったけど、若かりし日は超絶美人のナオン of マブ。ク〜〜ッッ!!!


今回はヨウジがベストコレクションとして1999ssシーズンを挙げる理由を考察していきます。が、その前にひとつ抑えておきたいものがあって。それは前回のnoteの末尾に書いた「伝統的なヨーロッパの審美感の抵抗の道具として黒色を選んだことによる副作用」のことです。

ヨウジは自らの生い立ちに根ざす不平等さの怒りの表現、あるいは母のような意思の強い女性のための色として、黒色を選んだ。彼にとって<黒色>は非常にパーソナルな意味を持っていた。モードのアンチを訴える武器として、最初は切れ味抜群だったが、次第に刃こぼれが起きてしまう。

ある界隈では、この現象を「モードの暴力」とか「モードの帝国」と呼んでいる。簡単に言えば、「最終的には既存のモードの枠組にアンチが吸収され、モードのおもちゃになる」ってことですね。

たとえば、ヨウジの同時代人でありパンクの女王、ヴィヴィアン・ウエストウッド。彼女は「SEX」っていうショップを経営しながら、ボロボロのガーゼ素材の服や安ピン、スタッズだらけの服、ボンテージをアレンジした服を発表していたけど、2006年には大英帝国勲章を受賞してすっかり体制派になってしまった。金金金!女女女!!力力力!!!と総括を煽っていた人が、今やランウェイで先陣切って反戦やLGBT問題を表明する良識派に。ガッカリだぜ(実はヨウジも紫綬褒賞をちゃっかり授与している)。

ヨウジがモードの場に持ち込んだ黒は、ヨーロッパ文化の中で極めて厳粛な色だった。それは主に男性のための色だったし、基本的に冠婚葬祭の場でしか着用されなかった。
だが、オリエント生まれのアウトサイダーだったヨウジはそういう例外的な色から神聖さ/伝統/歴史を切り取り、袖の下にしまい込むことに成功した。意図したかどうかはわからないが、結果として彼はモードと共犯関係を結ぶことになった。

ヨウジやギャルソンの功績によって、モードは新しい表現の世界に突入した。黒の自由な表現が解禁され、街には黒服が溢れるようになった。だけど、黒にスポットライトが当てられたことで、かつての深みや重みが失われてしまった。伝統的なヨーロッパのエレガントな感性は息を潜め、ヨウジが込めた母への慕情や反骨心もどこかに蒸発してしまった。



1999ss collectionが傑作である理由

ヨウジが1999ss collectionを傑作として挙げる理由、それはヨウジのファッションがかつて持っていた象徴的な力をもう一度モードの場で復活させようとした野心的な試みだったからだと思う。通常、コレクションの最後のルックとして登場するウエディングドレスばかりで構成するという大胆なショーは、当時から非常に高く評価された。

https://www.vogue.com/fashion-shows/spring-1999-ready-to-wear/yohji-yamamoto

Victoria Boretlettは総評としてヨウジの「Sense of Humor」を賞賛している。確かに素朴でハッピーなテーマ設定、ユーモアに富んだ演出はThis is Yohjiと言わんばかりだ。だけど、これまでヨウジのこじれた女性観と黒の意味の解体を眺めてきた僕たちは、それ以上の重大な意図が込められていたのではないかと勘ぐってしまう。

インタビュアー:なぜショー(1999年春夏)の最初から最後まで、花嫁と未亡人で構成したのか?
山本耀司:ウエディング・ドレスを身につけるということは、1つの成功を意味します。男性と女性のコンビネーションと統合、これは、人間の身体を使った儀式として、幸福の象徴と見なされます。
インタビュアー:未亡人のパートはどうなのか?
山本耀司:女性は結婚しなければ、未亡人になることはありません。
(『ヴィジョナリーズ ファッションデザイナーたちの哲学』、125ページ)

ここでの結婚という言葉には、二重の意味が込められている。一つ目は文字通りの結婚。そしてもう一つは、ヨウジが失ってしまったパーソナルな物との再統合。つまり1999ssコレクションはヨウジと彼の理想の女性との結婚式でもあった。

フラットに受容されるようになった自分の武器であるモノトーンを、伝統的な祝祭空間に改めて置くことで、かつての神通力を取り戻そうとしている。喪服に対する彼のコメントは陳腐だが、「黒の復活と再生」という彼のドラマを表現するには、どうしても必要なルックだったのではないだろうか。
ドラマチックなリズムを作ることは演出上でも意識されている。ランウェイでモデルが服を脱ぎ散らかすという振る舞いはユニークで思わず笑ってしまうが、彼の描く理想の女性が「行為の集合体」だったということを思い出さずにはいられない。

この頃のヨウジは第二の絶頂期だとよく言われる。一度捨てたオートクチュールのテクニックやアプローチをプレタポルテに導入することが意識的に行われている時期で(アヴァンギャルド・クチュールと彼は呼んでいる)、1997年から2000年くらいまでの数年は質量ともに圧倒的だ。才気煥発という言葉がよく似合う。
僕は婦人服のオートクチュールに疎いので、この時期のヨウジの素晴らしさをうまく表現できず、歯がゆい。モード好きの方にはこの時期のコレクションを是非チェックして欲しい。ヨウジ独特のカットやフォルムは相変わらず、そこにエレガンス(抑制、端正さ、光沢素材)が加えられていて、恐ろしく高い地点で調和を達成しているんだ。
そして、そのあとにキティーやエヴァンゲリオンとのコラボを見てみてください。せ、せ、切ない…。なんでんかんでんに積分(integral)すると味が薄くて頂けませんなぁ!(ねづっちです!!)

もう一つ注目したいのが、クリノリンへのこだわり。この執心は19世紀半ばのモード初期を代表するアイテムをパロティのネタにして、既存の美の規範を面白おかしく転倒させるためだったと言われている。もっと個人的な創作のレベルでは、ヨウジは服の表面ではなく、立体としての表現可能性を追求していたからとも言える。

ここに僕は一つの気ままな思いつきを加えたい。ヨウジにとってクリノリンは、前回のnoteで触れた「不在の女性との合一の挫折」のシンボルなんだ。1998AWコレクションでも有名なファッション写真に収められたクリノリンのパロディを発表している。ランウェイの外から仰々しく上衣を着せようとする黒い男は、ヨウジの似姿に見えた。彼は空想の女性を見ることと、間接的に触れることしか許されないのだ。
クリノリンは衣服というよりは機械、器具であり、その一本一本の線は女性の身体を包み、漂うけれど、女性の中心へと向かうことは絶対にない。ヨウジは円形をひしゃげたり、極端に拡大したりしたけど、そうして生まれる笑いは、どこかニヒリズムの匂いがする。黒の神秘力同様、コスチューム(costume)は宇宙(cosmos)から失墜してしまった。

ヨウジは黒、オートクチュールの技法、彼とファッションとの関係を表すシンボルであるクリノリンといった彼の「聖なる時代」のキーワードを、婚姻の場に持ち込んだ。そうすることで不在の女性を現出させ、彼自身が救われたかったのではないだろうか。
前回も紹介した装苑賞受賞当時のインタビューに答えるヨウジの、暖かく優しい、どこかノスタルジックな響きを取り戻そうとしたのではないだろうか。

「自分のデザインはいつもかわいいと言われるから、女の人をかわいらしくしたいんじゃないかと思う。女の人をほめるときも、あの人きれいだね、と言うより、かわいいねと言うでしょう、と。」
「蛍光灯の光の下で、真っ白い紙とマジックインキを前にするとき、何ともいいようのない気分になる。」
(『All About Yohji Yamamoto』、163ページ)

ヨウジは多くの人々に恍惚を与えた。一方で彼自身が恍惚で満たされる至高の一点(le point suprême)に、このコレクションを通じて辿り着くことはできたのだろうか?
最後のルックは「黒衣の花嫁」で、モデルは相変わらず無機質な表情のままだった。非常に意味深だなと思った次第。

いずれにせよ、彼の創作のすべてが凝縮された1999ssコレクションが僕は大好きだし、彼が傑作として挙げるのはそういった理由からなのだろうと推測する。

vogue runwayより(前掲)

この時期のあと、2000年代からは大胆に和服やアニメの要素を取り入れたりするけど、まるで『北斗の拳』第二部のようなやっつけ仕事である。
若者よ、是非この頃のヨウジさんをチェックしてくれ〜〜!

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三代目えぞ家☆ちゃも吉

場末のファッション漫談師

#ファッション 記事まとめ

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