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会計学の問題意識について考えてみる

今、この2冊を読みながら、会計学の知見を実装するためには何が必要か、ということを考えてみました。社会学と経済学、この2つの視点と会計学を対比させながら思考してます。

前回のnoteでは、会計学がもう一つの分野を学ぶ必要性がある、ということと、その分野の専門家の研究水準まで到達することが容易ではない、ということをお伝えしました。

「会計学の問題意識」を持った他の分野の考え方(理論)を取り入れた研究成果を出すことを考えてみましょう。

1.ジャーナルを見てみる

「会計学の問題意識は何か?」ということについて次は考えてみたいと思います。会計学における一番いい雑誌はどれですか?と言われれば、The Accounting Review(発行元はアメリカ会計学会)になります。2019年5月号に掲載されたタイトルを見てみましょう。

Do Managers Disclose or Withhold Bad News? Evidence from Short Interest?
→経営者の情報開示姿勢に関する問題意識

Decreasing Operational Distortion and Surrogation Through Narrative Reporting?→ナラティブ(口語的な)情報開示に関する問題意識

Managers' Cultural Background and Disclosure Attributes.→経営者の文化的な背景と開示姿勢に関する問題意識

Financial Reporting Quality, Investment Horizon, and Institutional Investor Trading Strategies→情報開示と投資家に関する問題意識

Audit Quality and Specialist Tenure→監査に関する問題意識

Does Reporting Transparency Affect Industry Coordination? Evidence from the Duration of International Cartels?会計情報の市場における透明性に関する問題意識:業種間の相対的な位置関係と情報開示の透明性に関する研究(IFRSの適用によりどう変化したのかを検証している論文のようです)

Executive Extraversion: Career and Firm Outcomes:経営者の外向性と企業成果に関する研究(経営者報酬に関する研究)

ほかありますが、何となく雰囲気つかめましたかね?

The Accounting Reviewの主流になっているものは資本市場との関係(コーポレートファイナンス×会計)じゃないの?と言われそうなので、別の雑誌を見てみましょう。

Accounting, Organizations and Societyという雑誌です。こちらもいわゆるAジャーナルで、その名の通り社会的なトピックスも多いジャーナルになります。こちらの2019年7月号のものを見てみましょう。

Auditors’ comfort with uncertain estimates: More evidence is not always better→監査論の研究:不確実な推定に対する監査人の対応に関する研究(心理学×会計の研究)

Seeing like the market; exploring the mutual rise of transparency and accounting in transnational economic and market governance
→資本市場における透明性の向上に対して会計がどう対応してきたのか(会計の政治的な意思決定プロセスを分析)

Socialization mechanisms and goal congruence
→社会的なメカニズムに対する目標の一致(管理会計の研究)

少し多様な感じですね。

2.会計学の立ち位置を探る。

一連のジャーナルをみてみると、ファイナンス系のものが多いことが分かります。財務会計研究は、結局、一般に公開される情報とはいえ、情報利用者として効果を見やすい指標は株価です。なので、株価と会計に関連する研究が多くなるのは当然と言えるかもしれません。「会計学独自」の研究として残っているのは、監査論(公認会計士による監査に関する諸問題)かもしれません。今回、取り上げたジャーナルの中でも監査論の研究がいくつか見られました。ただし、こちらも会計士の判断となると、心理学×会計学の領域であると言えますね(上記にあげた例にも一つその領域がありましたね)。

資本市場系の論文においては、コーポレートファイナンスの理論に依拠していくと、会計学はセオリーがないためにそちらに引っ張られやすい傾向にあります。コーポレートファイナンス分野において会計研究はどう貢献しうるのか、ということも重要なテーマとなりえますね。少しファイナンスの領域で見て行きましょう。

株主に帰属する企業価値を、会計利益を用いて算定するモデルとしてはOhlsonモデル、いわゆる残余利益モデルが有名です。ただし、会計系の論文でOhlsonモデルを用いた分析は日本の「コーポレートファイナンス×会計学」の研究ではしばしば見られますが、ファイナス系では見た記憶があまりありません。これはOhlsonモデルが悪いというよりは問題意識が異なっている、といえます。one of them(多くある情報の1つ)として会計利益の情報も捉えて、資産価格モデルを考えるファイナンスと、あくまでも会計数値を中心に課題意識を持っている会計学とでは立ち位置が異なる、といえます。知り合いのコーポレートファイナンスの研究者はFama-Frenchのモデルをよく使っています。4ファクターモデルがいつのまにか5ファクター(5つの要素でみる)形になっていました。

ユージン・ファーマ先生は2013年に資産価格モデルに関する研究でノーベル経済学賞を取ってますね!(会計研究で取った人はいませんね)

この辺りで問題意識を持って取り組んでいるのは青山学院大学の福井先生です。


こちらのスライドもいいですね。

http://www.gsim.aoyama.ac.jp/~fukui/uselessacc.pdf(授業でお使いになったと思われるスライドが一般にも公開されてます)

あの須田先生(残念ながらお亡くなりになりました。須田先生のお弟子さんが今、日本のこの分野、コーポレートファイナンスと会計の分野を引っ張っています)と竹原先生(コーポレートファイナンスで多くの業績を挙げている有名な方で、日本の会計学会にも参加、報告している、まさに学際性を体現されている方)の黄金コンビで、ファイナンス学会に書かれた論文はこちらですね。
須田一幸・竹原均「残余利益モデルと割引キャッシュフローモデルの比較」『現代フ ァ イ ナ ン ス』 No. 18、 2005年 9月。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gendaifinance/18/0/18_3/_pdf/-char/en

あと、会計処理の裁量性に着目した研究もあります。こちらは会計学独自の研究と言えます。利益調整(earnings management)に関する研究ですね。

この辺りの研究では首藤先生(須田先生のお弟子さん)が数多くの研究があります。

首藤先生の掲載されている論文(かなりよいジャーナルに多く掲載されている!)をみると、最近の会計研究におけるトレンドがよく分かります。

3. 会計学で得られた知見は社会で実装可能か?

利益調整や会計の保守主義、配当政策と会計利益(これもらまた機会を改めて触れたいと思います)から展開する研究は、会計学の領域の研究といえます。

 ただ、ジャーナルの掲載の有無やインパクトファクターでの評価はさておき、どういった業績(知見)を出すことが「社会における貢献になるうるのか?」ということを問わなければならない気もしています。

例えば、行動経済学は今の経済行動の選択にも取り入れられ実装されつつあります。このような貢献を会計学でも可能でしょうか?

上記は一つに例に過ぎませんが、社会において研究で得られた知見をどのように実装可能にするのか、という発想への転換は必要でしょう。

少しシンプルにいくつかその可能性について考えてみましょう(こうしたテーマがジャーナル化されるテーマかどうかは置いておいて)。*ひょっとしたらこういう研究はもうすでにあるかもしれません。

1   一般の情報利用者が見やすい会計情報のあり方

複雑化する会計情報の中で、情報の形式としてどういった形が一番読み取りやすい情報足り得るのか?*ここでいう情報利用者は、学部で財務会計の基本を学んだ学生程度を指します。

*こうした話題をすると思い出すのは上記の本ですね。

2   公認会計士の働き方改革と判断

激務と言われる会計士においてどういた組織体制が良いのか?会計士がよい判断をするためにはどういった環境づくりをする必要があるのか?もしくはどういった環境下であれば最適な判断ができるのか?

3 会計基準の経済的な影響分析とその影響力緩和に対する研究

私の著書でも触れてましたが、会計基準は時に企業行動を変容させます。たとえば、退職給付会計という退職一時金・企業年金の負債をより厳密に算定してオンバランスする基準が適用されて以降、企業年金(退職給付)制度の改定が頻発するようになりました。因果関係は慎重に検討しなければなりませんが、会計基準にはこうした影響力があります。となると、その影響を見越したうえで、経済的な影響が緩和されるような規制をしなければならないかもしれません(例えば企業が極端な行動にシフトすることを抑制するような法律)。

会計学研究の知見を社会へと実装させる、ということを考えた場合、まだまだ考えるべきことは多そうです。その中で、ESG投資との結びつきは見逃すことはできません。意思決定に必要な情報を提供するというよりは、企業の行動を特定の方向に持っていかせたい!という場合、そのフレームワークに会計情報をどう組み込んでいくのか、はその良し悪しも含めて考えることが多そうです。次回は、このことについて触れてみたいと思います。






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