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会計学においてもう一つの専門分野を学ぶことの必要性とその課題

写真は今読んでいる本です。私も色々幅広く読んでます。会計学者はもう一つ、いや複数の分野のことについて詳しくならないといけない、というお話です。

前回のnoteで会計学には「読み取れた」後にどんな考察をするのか?という課題があること、そして、会計学の中ではこのことに対する答えは提供してくれない、ということを述べました。

なので、会計学だけでなく、もう一つ学問を学ぶ必要がある訳です。

1.もう一つの専門分野(会計学の掛け合わせ)

会計学ではもう一つの分野を学ぶ必要性が起こりえます(会計学だけに特化した規範的研究は除く)。ジャーナル分析(学術雑誌に掲載されている論文のタイプ別分析)はまた機会を改めてしようと思いますが、ざっくりと以下のようなタイプがあると思われます。

①コーポレートファイナンス(企業財務)×会計

corporate financeの研究と会計との掛け合わせ。これが今一番、会計分野で主流派といえるでしょうね。会計分野の教員で、ファイナンス系の学会に所属している人が多くなりました。ただし、コーポレートファンナンスと一口に言っても種類は多くあります。企業価値評価、エージェンシー理論、アナリスト目線での評価など…実に多様です。財務諸表の数値と株価の研究が多くありますが、注記情報や将来の業績予測、非財務情報などを使うケースも多くなりました。

②社会学×会計

会計を社会学フレームワークに当てはめて考えるやり方です。社会学といってもそのパースペクティブ(いわゆるディスプリン)がどこに依拠するかで方法論はかなり変わってきます。会計の社会的な事象を社会学的な視点からどのようにとらえられるか、ということを分析するスタンです。

③政治学×会計

会計基準の決定プロセスについて、議事録などの資料を使い分析します。政治学というよりもPolitical Scienceといった方が馴染みがあるかもしれません。ソーシャルネットワーク分析を用いることが最近では多くあります。

④経営学×会計

管理会計分野の研究者は、経営学(経営戦略、組織論など)の分野を応用して研究することが主流です。戦略管理会計など、ほぼ戦略論と一体化している分野もあります。

⑤財政学×会計

公会計分野はこれが主流。財政学の考え方も応用しながら地方公共団体、国の財政や予算に関する問題を会計の視点で考察します。公会計は、地方自治体においても財務諸表を作成することがわが国でも義務付けられて以降、一つの学問分野として確立されたといえます。

⑥NPO(非営利)×会計

非営利分野の研究における会計の研究です。非営利は病院、学校、社会福祉法人、NPO、NGOなど多様な形態がありえます。こうした非営利分野に関する研究を公開されている会計数値もしくは管理会計の視点から内部の財務数値(もしくは代替されるようなもの)を用います。

まだまだありますね・・・。

ちなみに私は、

(企業)年金論×会計(退職給付会計)、保険論・リスクマネジメント論×会計の研究者で、企業年金に関する本も書いてます。宣伝です(笑)。

2.何が課題となるのか?

会計学者として常に課題に直面するのは他分野における専門性です。会計がメインでスタートした人は結局、その専門分野の人以上の水準に行くことは難しい、ということです。例えば、ファインス分野には、読むべき数多くの基本的な文献や論文があります。その分野で学士、修士、博士号を取り、同分野の研究者と競い合ってきた人に会計学者が対抗できるか?と言われればかなりハードルが高いです。会計学者でファイナンス的な本を書いている方がいますが、やはり内容はどこか会計学風になってしまいますね。これはやむを得ないというか、そんなものなのだと思います。他分野の専門学会にうっかり、ちょっと勉強しただけの会計学者が参加し、発表すると、「その分野の学問作法」を知らないために大恥をかくことになります。一言でいえば、その専門に対する土地勘がないわけなので、とんでも無いことをしでかしてしまうことがあります。

実はこれは逆もまたしかりです。他分野の論文の中で、会計数値を使った企業分析が行われることもあるのですが、「なんでこの会計数値を使っているの?」ということがしばしばあります。変数の取り方や会計数値に関する基本的な考え方が誤っていたりすることもよくあります。その課題を解決するためにはどうしたらよいのでしょうか?

3.課題の克服方法

2つ方法があります。一つはその専門領域に関する学会に参加して「恥」を書くことを恐れずに、ガンガンやられてることです。そうする過程を経て、その専門領域での許容範囲にまで近づくことが出来ます。私の例でいえば、日本保険学会、日本年金学会、日本リスク学会に参加し、学会報告をし、かつ学術誌に掲載してもらっているのはそのためです。(基本的な考え方を知らない、と言われてリジェクトされたことも数多くあります)

もう一つは、その領域の共同研究者と一緒に組むことです。会計の数値が読める研究者は割と重宝される傾向にあります。会計基準が複雑化しているため、数値の読み取りや解釈が難しいことがしばしばあるので、そうした場面で会計学者の活躍の場面があります。金融商品や退職給付会計などは特にそうですね。ただし、その分野のお手伝い(メインの研究者でない形)で入ると、会計分野の成果とならないこともあります(私の成果の一部もそうだと思います)。

重要なのは、会計学としての問題意識を持ったうえで、他の分野の考え方を取り入れた論文、研究成果を出すということです。では、「会計学の問題意識は何か?」ということについて次は考えてみたいと思います。



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