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『バーニング 劇場版』閉塞の時代を描く!イ・チャンドン印の若者語り。 2/1(金)~公開中

年末にNHKで放送された短縮Ver.は、村上春樹の原作には沿っているのかもしれないけれど、中途半端な印象を受けました。

ま、それをきっかけに劇場版を観たくなるのならよいわけですが、劇場版は全くの別物ですね、イ・チャンドンが現代韓国に照らして昇華させた全く別つの物語。

英題:Burning ★★★★★

アカデミー賞外国語映画賞のノミネート発表の際、『Capernaum』(レバノン)、『COLD WAR あの歌、2つの心』(ポーランド)、
『Never Look Away』(ドイツ)、『ROMA/ローマ』(メキシコ)と順々に名前が出てきて、気づけば、あと1枠しかない、

『バーニング』か『万引き家族』どっち? もしや…

と思っていたら『万引き家族(Shoplifters)』で、まさかの『バーニング』がノミネート落ち。うーん、残念。

前哨戦の1つであるロサンゼルス映画批評家賞では外国語映画賞を分け合った、この2作は、最後までデットヒートだったのかもしれません。

こちらは大学を卒業し、兵役に行っても小説家になるという夢のためにバイト暮らしの青年イ・ジョンス(ユ・アイン)が主人公。

ある日、整形したという幼なじみシン・ヘミ(チョン・ジョンソ)と偶然に再会するも、

パントマイムを勉強しているという彼女はアフリカに旅行に行く間、自宅にいる猫にエサをあげてほしい、と言い出すのです。

帰国の日、空港に迎えに行くと、ヘミはベン(スティーブン・ユァン)という年上の男と一緒でした。

ベンは、まるで『華麗なるギャツビー』の主人公のようとジョンスが言うように、裕福で都会的、しかもミステリアス。どんな仕事をしているのかも謎ですが、ポルシェを乗り回し、高級マンションに暮らしています。

日本の地方都市とそれほど変わらない、ビニールハウスが立ち並ぶ田舎町、しかも北朝鮮との国境近く、対南放送が聞こえてきます。

母はとうの昔に家を出て、父親は傷害で逮捕、

「小説家になりたい」のもどこまで本気なのか分からないくらいの先行き不安な日々のジョンスとは、あまりにも対象的でした。

そんなある日、ヘミが突然、姿を消して…。


ヘミがアフリカ大陸で目にしたようなマジカルな日没を3人で目にしたその日、“時々ビニールハウスを燃やしています”と謎多き男ベンが語り始めたその日を境に、

現代の若者群像劇がグッとサスペンス性を増していきます。

彼女はどこへ消えたのか? ベンは何者なのか?

ビニールハウスを燃やすとは、どういうことなのか?


こうした謎解き、自然光による撮影、不穏な音楽などもさることながら、

魅了されたのは、正反対の若者を演じた2人。

ジョンス役ユ・アインが醸し出す朴訥さの加減、幼稚さともいえるイノセントな部分は、ホントにうまい。

いわゆるツンデレなアウトローを演じて大ブレイクしたドラマ「トキメキ✩成均館スキャンダル」、キム・ユンソクと共演した『ワンドゥギ』の高校生や、最近ではファン・ジョンミンと共演した『ベテラン』のドラッグまみれの財閥御曹司役のイメージも強烈かと思います。

そして、骨肉腫を克服して出演した『バーニング』で世界的にも大注目を集めることになりました。

彼が演じたジョンスの背景にある貧困や格差、閉塞感などは、決して遠くにあるものではありません。


一方、LA映画批評家協会賞、全米批評家協会賞などで助演男優賞に選ばれたスティーブン・ユァンの妖しい色気はなんですか、ありゃ(褒めてます)。

「ウォーキング・デッド」の好青年グレンとはまるで別人。

実年齢は3歳違いなのですが、彼は洗練されていて、より大人っぽく年上に見えますし、ユ・アインはずっと年下に見えますもん。

そんなあまりにも対照的な、コインの表裏のような2人がラストに対峙するところ、そのぶつかり合いは私にはラブシーンのようにも思えました。

なぜかお互いが気になって仕方がないのは、実は同じものを根っこに抱えているからじゃないかしら?


また、ヘミ役の彼女もオーディションでイ・チャンドンに選ばれて、本作で映画デビューです。素晴らしい。

彼女のあるシーンで『母なる証明』を思い出したのは、同じ撮影監督ホン・ギョンピョだったから。

あのほの暗さがスクリーンを覆うからこそ、炎が余計に際立つのです。


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